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PROJECT • AXL  作者: 銀鱗
黎明
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二刀流の鬼神②

ヴァンパイアサバイバーはいいぞ。

「さて、こちらの質問に答えてもらうぞ。」

「質……問?」

 地面に大の字に倒れ息も絶え絶えな半田は不思議そうに呟きながらも自分の身に起きたことを考える。そして一つの可能性に辿り着いた。

(まさか……峰打ち?)

 実は決着の一撃を打ち込む瞬間、尾上さんの刀は刃ではなく反対方向に翻っていた。峰打ちとなったそれは半田を絶命に追い込むことなく屈服させたのだ。だがたとえ峰打ちとて尾上さんが振るえば絶大な威力を発揮する。半田はまだ動けるまで回復していなかった。

 M3地区で勃発した戦闘は傷を負いながらも尾上さんが勝利した。その戦いの中で尾上さんは半田に対して気になることがあった。だから決着がついてもすぐに殺すことなく生かしたのだ。

 尾上さんが口火を切る。

「お前どこのもんだ?誰に言われてここに来た?」

「…なんの話かな?……」

 質問に半田は一瞬目を開くもすぐに戻る。

「惚けるんじゃねぇ。右手の悪魔のタトゥーがその証拠だ。」

 倒れている半田の右手に視線を移す。その先には嫌にリアルな悪魔の刺青が彫られていた。

「これは自分で勝手に入れたものだ……」

 半田の言葉に尾上さんは更なる言葉を重ねる。

「そうか。それなら悪魔の目の中に書いてある『258』という数字、これはなんだ?」

 今度は先程よりも明確に動揺した。尾上さんのいう通り、半田がつけている悪魔のタトゥーの目の中には、字の先がカールした特徴的な数字が彫られている。

「…………」

「組織での個人番号じゃないか?」

「……だったらなんだ。」

 半田の目が鋭くなる。

「お前が誰の差し金で来たか、それと背後にいる人間について話してもらう。洗いざらい全てな」

 尾上さんが圧をぶつける。だが半田は未だ平静を保つ。

「生憎だが何も話す気などない」

 立場は明確なはずなのにこの余裕な態度。すると鋭い銀閃が一つ、半田の右肩に走った。何をされたか分からず困惑する半田。その瞬間銀閃と全く同じ軌道から一呼吸遅れて右肩から血飛沫が吹き出す。

「ギャアアアアァァァ‼︎?」

 予期せぬ痛みで叫ぶ半田を尾上さんは冷ややかな目で見つめる。その右手には真新しい血が剣先から垂れる日本刀が握られている。

「自分の立場を理解していないようだな。」

「え……」

 それまでとは打って変わってドスの効いた声。あまりの豹変に半田のそれまで顔に浮かべていた余裕が嘘のように消えた。

「このまま楽に死ねると思ったか?話さないならお前の指を一本ずつ切断して話したいと思わせてもいいんだぜ?」

 半田に顔を近づけ睨みつける。その顔はまさに般若の形相だった。

「あっ……あぁ……」

 ヤクザ顔負けの脅しに半田の身体が細かく震える。

 尾上さんは半田の軽薄な雰囲気から、押せば簡単に心が折れることを見抜いていた。信念も何もない人間はちょっと鎌をかけるだけですぐになんでも吐く。

「さぁ、カウントダウンだ」

 蛇に睨まれた小動物のように震え指一本も動かせない半田に対して、まずは右手の人差し指目掛けて上段に振り上げたした瞬間、

「わかった言う!降参だ!だからやめてくれ!」

 半田が悲痛な叫び声を上げた。恐怖と圧力に心の堤防が決壊したのだ。

「お前のバックには誰がいる?」

 睨みを聞かせ、刀を振り上げた状態のまま尾上さんは質問する。

 半田が怯えながら確認する。

「言ったら殺さないでくれるのか?」

「お前が有益な情報を持っていたらな」

 その言葉を聞くと半田は安堵したような息を吐いた。そして口を開いた瞬間……

 突然半田のコメカミを『何か』が貫いた。それは絶対に助からない一撃。致命傷を受けた半田は頭に大きな穴を開けて絶命した。

「なっ……!」

 突如として起こった異常事態に対して、尾上さんは即座に刀を構える。

 それとほぼ同時、急速に『何か』が迫ってきていた。

「オォ⁉︎」

 尾上さんは反射的に刀をクロスし防御の構えをとる。そして『何か』と激突。刀から激しく火花が飛ぶ。

 (重い‼︎)

 予想外の威力に防御の構えであるはずの尾上さんの足裏が後ろ側に擦る。

(これは受け切れねぇな。それなら!)

「ハアアァァァ!」

尾上さんは防御の構えのまま上に押し上げた。力では勝負にならないと悟りその威力を受け流したのだ。

力を受け流された『何か』が上に跳ね上がる。その時になって初めてその『何か』の全貌を見た。

 それは節足動物の足だった。表面のディテールは黄色と黒の毒々しいマダラ模様。その先には鋭い鉤爪がついている。しかもサイズが尋常じゃないほどデカい。尾上さんはその脚の形に覚えがあった。頻度は多くないまでも日常で見かけるフォルム。

「蜘蛛か」

 バックステップで距離を取りながらながら尾上さんは巨大な脚の根元に視線を移す。目を向けた先の先の建物の上、そこに立つのは背中から六本の脚を生やす人物がいた。逆光で顔や服は見えない。だが遠くから半田の頭蓋目掛けて脚を撃ち抜く正確性。間違いなく手練れだ。事実、その人物はから発せられるまるで捕食者のような圧は本物だった。尾上さんの警戒度が上がる。

 すると逆光の人物から伸びる蜘蛛の足の先が床に食い込み節は真ん中の人物を床につけるかの如く深く曲がる。かと思えば曲げた足を勢いよく伸ばしその反動を利用して高く飛び上がった。

 そうして着地した先は尾上さんがバックステップで離れた場所、そこからその人物は尾上さんと真正面に相対した。

 その人物は女だった。蜘蛛を模ったネックレス、先に少しウェーブがかかり、所々に黄色が入った薄灰色の髪、塗りつぶされたような黄色の瞳、大きく肩と胸元が開いたドレスの背中にある、これまた大きく開いたスリットから禍々しい蜘蛛の足が蠢いている。そして何より右手に刻印された悪魔のタトゥー。それは尾上さんの疑念を確信に変えるのには十分なものだった。

「どうやら俺の予想は当たってたみたいだなぁ蜘蛛のお姉さん。何者だい?」

 構えを作り、警戒しながら訊ねる。女が口を開く。その声は聞いたものを絡めとるような低い声色だった。

「私の名はバエル」

 簡潔な答え、それは『お前と無駄話をすることなどない』という意思表示でもあった。

 だが尾上さんは構わず言葉を紡ぐ。

「ほう、こんな僻地まで何の用だい?」

「粛正」

 全くトーンが変わらない答えの後とっくに生命活動を停止した半田を一瞥し

「一つは完了した。もう一つ」

 そして今度は尾上さんに向き直り

「お前は彼の方の計画の邪魔になるもの。ここで死んでもらう」

 バエルと名乗る女性はこれ以上ないくらいのザ・悪役のセリフを吐く。尾上さんは呆れ顔を浮かべつつ

「おいおい、いきなりだな。残念だが俺は外道に殺されるほどやわじゃないぜ。」

「ならばどうする?」

 その問いに

「決まってんだろ」

 尾上さんは

「アンタを殺して万事解決だ」

 獰猛な笑みと共に返した。その答えにバエルは気のせいだろうか、少し落胆しながら

「実に平凡な答えだ」

 言うや否や背中の足が一斉に襲いかかってきた。いきなりの攻撃、だが尾上さんは

「シイィ!」

 命を刈り取る連続攻撃に対し二刀流を巧みに操り、弾き、捌き、受け流す。そこかしこで火花が散り戦いは拮抗する。

 だが、いかんせん数が多い。しかも先の半田との戦いで消耗している。バエルの猛攻に対し尾上さんは次第に後退していた。

(こりゃまずいな。どこかでなんとかしないと)

 絶体絶命の打ち合い中でも尾上さんの脳は冷静に回転する。するとそれまで鉄壁の要塞と化していた尾上さんの喉が激しい攻防の中の一瞬だけ防御がゼロになった。

 戦闘者であるバエルはその隙を逃さなかった。無言で、しかし気迫を出しながら六本の足その全てを使ってガラ空きとなった喉を突き、そのまま刺し貫く……

 と思った。

「そう来るよナァ!」

  尾上さんがまるで瞬間移動のようなサイドステップを見せる。首を貫くコンマ一秒前でずらされた必殺の一撃は薄皮一枚を切り裂き空を切った。

 それはまるで最初から予期していたかのような回避だった。そして回避とほぼ同時、尾上さんの手元で鋼の刃が唸る。

「ハアァ!」

「‼︎」

 首の隙が罠だとエバが気付いた時には、既に全ての蜘蛛の足の第一関節から先が二刀の斬撃の元に切り捨てられていた。

 危険を感じたバエルが尾上さんとバックステップで距離を取る。同時に尾上さんもバエルからバックステップで距離を取った。そして仕切り直し……

 と思った瞬間、尾上さんは半回転しバエルに背を向ける。

「アンタとの勝負は一旦お預けだ」

 その言葉と共にバエルから離れるようにすごい速度で逃走した。

「逃がさない」

 バエルはその背中を逃すまいと背から生える自身の武器に力を込める。しかし本来なら斬られた場所からすぐに出てくるはずの鋭い脚先が出てくることはなかった。

「……魔粒切れか」

 変身能力や昆虫や獣の一部を己の手足として生成する能力はその維持に魔粒を必要としない分『変身』と『変身解除』に多量の魔粒を消費する。そして先の戦いで尾上さんは半田と空気中の魔粒が枯渇するまで戦っている。そこから少し時間が経ったとはいえ蜘蛛脚を即座に再生できるだけの魔粒は満ちていなかった。

 ようやく一本再生した時には二人の間には膨大な距離ができていた。遠く離れた尾上さんはバエルの目ではもう小さな斑点のようにしか見えなかった。

「まあいい。大義を推し進めていけばいずれ出会うことになるだろう」

 とっくに走り去り相手が見えなくなった方向を一瞥しゆっくりと反対方向に歩き出した。

 一方、道を駆ける尾上さんの頭にはあることが浮かんでいた。それはあの蜘蛛の女が名乗った名前

(バエル……か……)

 闘争が成功したにも関わらずその顔は険しいモノだった。

 

 これが俺たちサイクロンファントムと悪魔崇拝教団との最初の邂逅だった。

《ある日の一幕》

莉音 そういえばユキって鈴鳴さんとかタケルのこととか知

   ってるの?

ユキ 知らない。だって鞍馬さんから何も聞かされてないし

莉音 え⁈でもタケルはあの時無線に入ってきてたじゃん。

ユキ あれは私が今までみんなが使ってた周波数で繋いてる

   だけ。それは教えてもらったけど、他の人のことは何

   回聞いても答えてくれなかった。

莉音 なるほど。にしても鞍馬さん、なんでユキになんも言

   わないんだ?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


鞍馬 (ユキと莉音に話題があるといいと思ってウチのメンバ

    ーの事一切言わなかったけど、あの二人しっかり打

    ち解けてるかな〜?)

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