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PROJECT • AXL  作者: 銀鱗
黎明
7/18

二刀流の鬼神①

話数を重ねるごとに文字するが増えていく……

 莉音とタケルがC6地区で新堂と戦闘を開始している頃、時を同じくして尾上さんもM3地区で敵と相見えていた。

 M3地区は丸ごと魔粒タンクが位置する地区だ。当然そこを狙って侵入してくる輩は後が絶えない。

 今、尾上さんの目の前にいる男もその輩の一人になるのだろう。施設の中にあるタンクを背にして立つ男の格好は白シャツに紺のズボン、黒のパーカーでフードを被っている。一見すると「冴えない若者」と言った風貌だがその目は尾上さんがかつて見てきた数多の悪人同様に黒く濁っていた。

「おっ、結構早く来たな。どうも、自分半田って言います。」

 半田と名乗った男は頭を掻きながら気怠そうに挨拶した。莉音とタケルの時とは違い周りには半田以外誰もいない。つまり……

「たった一人とはな。舐められたものだぜ。」

 そう言うと同時に尾上さんは二本の刀を構え、

「お前のような悪鬼にこの街は荒らさせない。」

 半田に向かって殺気を放った。

 しかし半田は怖気付くそぶりもなく挨拶と全く同じトーンで

「おー怖。早く終わらせたいんですぐ死んでください。」

 言うと同時に手の甲に悪魔の横顔を象ったタトゥーが入れ込まれた右手を前に突き出し何もない空中にかざした。尾上さんが顔をしかめる。すると右手が淡い黄色に光りかざした先の空間がガラスが割れたような音と共に砕け散る。それも一つや二つではない。ざっと見積もっただけでも十箇所以上に同じような現象が発生していた。

「何⁈」

「いけ。」

 半田が短く指示を飛ばす。それが合図かのように割れた空間から飛び出してきたのは拳サイズほどの岩石だった。数えきれないほどの岩石が自分に向かってくるこの状況。常人なら動くことすらできないだろう。しかし目の前にいるのは歴戦の戦士尾上大二だ。

 この絶体絶命の状況でも尾上さんは冷静に分析する。そして

「ハァ‼︎」

 地面を蹴った。後ろではなく前へ。そして岩とぶつかる寸前、尾上さんは右足を引き出し体制を低くする。飛んできていた岩は全て尾上さんの頭上を通り過ぎていった。スライディングすることで攻撃を回避したのだ。

「ねらいが甘いぜ坊主!」

 尾上さんはあの一瞬の時間で飛んできている岩が全て上半身を狙っていると気付いたのだ。

 そうして投擲を避けた先にいるのは

「おいおいマジかよ⁈」

 既に勝った気になって気を抜いている半田だ。半田には一見したところなんの戦闘用装備もない。だからこそ尾上さんは短期決戦を狙って半田に突撃したのだ。尾上さんが半田の眼前にまで迫る。

「いきなりさよならだ。小僧。」

 そして半田を袈裟に切るために右手の刀を振り上げたその瞬間……

 左からガラスの割れる音がした。

 普段の戦闘中であれば気にしない音。しかし尾上さんはそれと酷似した音を既に耳にしていた。それも数刻前に。

「シィ‼︎」

 何かを感じた尾上さんは半田を切ることを諦め反射的に左の刀を横薙ぎにする。

 ガッ‼︎

 と言う重い感触が左手越しに伝わってきた。しかし左に意識を向けたことで半田から目を切ってしまった。

「余所見してんじゃねぇよ!」

 半田の蹴り上げた足が尾上さんの腹にクリーンヒットする。

「グゥ⁉︎」

 尾上さんが短く呻き声を上げる。半田は蹴りの反動を利用して尾上さんから距離をとった。

「おっさん俺の岩石礫を凌ぐなんてやるねぇ。でもまあ蹴りがまともに入ったけどさ。」

 余裕綽々と言った態度で半田が喋る。その左手は右手と同じように淡い黄色にかがやいていた。

「うるせぇ。お前のようなガキのキックなんざ効かねぇょ。」

 渋面で尾上さんが答える。尾上さんが顔をしかめたのは蹴りが原因ではない。実際にはあの蹴りは距離を取ることがメインだった為そこまでのダメージではないのだ。

 (問題は岩石の方だ。今はいいが今後あの量の礫を完全に受け切れる自信はない。それなら……)

 尾上さんは一つの結論に辿り着く。

(撃たれる前に接近すればいいじゃねえか)

「今度はこっちから行くぜ。」

 言うと同時に尾上さんが踏み込む。その速さは並大抵の剣豪のものではない。半田の迎撃を許さぬ速度であっという間に半田の懐を侵略する。そして二本の刀を左上段に振り上げた。

「くそ速えなぁ。」

 言いつつも半田が手をかざす。空間を突き破って出てきた礫は六つ。斬撃の威力を殺す為、それを尾上さんの刀の軌道に一列に並べる。だが尾上さんは

「オラヨォ!」

 躊躇なく刀を振り下ろした。それは本来頑丈な岩であるはずの礫を全て粉砕し

「そんな石ころで俺の剣が止まるかぁ!」

 強引に振り下ろした。

「オオットォ⁈」

 半田が瞬時にバックステップで斬撃を避ける。その眼前を轟音を上げて白刃が通過する。

 (なんて剛腕だ!剣圧で空気が爆ぜる音なんて聞いたことないぞ!)

 半田が戦慄する。

「ちょこまかと逃げあがって。だが当たったみてぇだな。」

 その言葉の通り、半田の胸元には右肩からシャツを切り裂いて紅い一筋の線ができていた。そう、尾上さんの左の剣は避けられたものの、右の剣は身体に当たっていたのだ。半田が痛みに顔をしかめる。その眼には切られたことによる怒りの炎が渦巻いていた。しかし反対に半田の頭は冷静に回転する。

(おそらくこのおっさんの異能力は『全身の筋肉を強化すること』だろう。そして二刀流。なら飛び道具は持っていないはずだ)

「痛えなおっさん。もう殺すから。」

 切られた痛みが半田を本気にさせた。半田が両手を前に突き出す。すると空間を破って何十もの礫が隙間なく飛んできた。これでは先程のように伏せて避けることはできない。さらに岩の礫は前方向だけでなく左右前後から飛んできている。壁でも作らない限りその全てを防ぐことは難しいだろう。

(手数で圧殺して押し切る!)

「なるほど、ここからが本気ってことか。」

 だが絶対的ピンチのなかでも尾上さんは焦らない。軽口を叩きながらどうすればこの状況を打開できるかを冷静に考える。そうして出した答え……

 なんと突如敵に背を向けて走り出した。

「どこへ行くつもりだぁ!」

 半田はその背中向けて容赦なく岩を発射する。尾上さんは背に何発か喰らいながらも目的の場所、施設の端っこに到着する。そして半田に向き直り刀を構えた。腕の筋肉が激しく隆起する。そして礫が眼前にまで迫ってきた瞬間、

「オラァァァ‼︎」

 尾上さんは刀を振るい迫り来る岩を全て撃ち落とした。

「チィ⁈だがそれがどうしたぁ!」

 半田は驚きながらも攻撃の手を緩めない。だが尾上さんも飛んでくる岩を叩き落とし続ける。

 尾上さんがこの場所を選んだのは意味があった。敢えて壁際に後退することで後ろと左方向から攻撃が飛んでくるリスクを避けたのだ。しかし二方向からの攻撃がなくなれば当然、前と右方向からの攻撃は強くなる。

「オラオラオラァ!受け切ってみろよ!」

 半田が吠える。尾上さんは礫の数を捌ききれずジワジワと削られていく。だが尾上さんは打ち落とし続ける。

(わかってきたぜ。撃ち方に独特のクセがある。それを予測すれば打ち落とすのは簡単だ。これを耐え切ってみせる。)

 尾上さんは礫を捌く中で半田の投擲の特徴を掴んでいた。しかしわかったところで大量の投擲を受け切れるわけではない。勝利の天秤は半田に傾きつつあった。



 ――――――――――――――――――――――――――

 そうして二十分ほど経った時、状況に変化が訪れた。今までけたたましく鳴り響いていたガラスの破砕音が突如としてなくなったのだ。

「チッ魔粒切れか。」

 半田が舌打ちする。礫を飛ばすための触媒として使っていた空気中の魔粒が底をついたのだ。

 尾上さんはまだ立っていた。しかし受けきれなかった岩の弾丸で少なくとも10箇所以上負傷していた。あの猛攻をたった十の怪我で収めているのでも十分すごいが、見るもボロボロ。この怪我で立っているのが不思議なほどだった。

「まあいい。あんたは当分戦線離脱だろ。」

 半田は勝ち誇るかのような声を上げて、後ろに下がり逃げ出そうとした。

 (十分に距離は稼いである。それにあの負傷、追いつくのは不可能だ。)

「戦線離脱?」

 尾上さんが、誰にも聞き取れないくらい小さな声で呟く。と同時に、

「舐めてんじゃねぇぞガキがぁ‼︎」

 尾上さんが吼えながら半田に向かって剣を構えて突進した。それは、これまでの戦闘で見せたものと全く同じスピード。

「なぁ⁈どうして⁈」

 突如として起こった予想外の出来事に半田は狼狽しながらも頭をフル回転させる。

 (この辺の魔粒は尽きたはず。なんで速度が変わっていない⁈筋力強化の能力ではないのか?いや、そもそもこのスピードは能力に由来するものなのか⁈)

 そして半田は一つの結論に達する。この状況を論理的に解釈し、かつ荒唐無稽な結論。

「貴様、フェーズ1かぁ⁈」

 尾上さんはそれが回答だとでも言うかのように口の端を吊り上げる。

「筋トレの力ってすごいんだぜ?」

 フェーズ1はあくまで魔粒中毒となった()()の状態能力などなくそれにより戦いにおける魔粒の影響も少ない。だがフェーズ1は常人より少し身体能力が高くなる程度。フェーズ2と見間違えるような強化は通常起こり得ない。半田の目の前にいる男以外には。尾上さんは自らの体を一般人なら耐えられないようなトレーニングで鍛え、その身体強化の能力を限界まで引き出した。最強のフェーズ1。それが尾上大二の正体である。尾上さんが半田の目の前に迫る。その様相はまさに鬼神だった。そして日本の刀を大上段に振り上げる。

「終わりだ、小僧ォ!」

 その一発はこの戦いを終わらせるに十分な威力だった。

「ガアアアアァァァ!」

 武器もなく魔粒もない半田に躱す術はなかった。

 二本の斬撃をモロにくらった半田は糸の切れた人形のように崩れ落ちる。だが半田の体は黒い粒子になって分解されない。

 自らの死を確信したにも関わらず困惑する半田に対して

「さて、こちらの質問に答えてもらうぞ。」

 と尾上さんは命令した。

【凛道街】

莉音ら「サイクロンファントム」が自警団をしている街

魔粒が広まる前までは日本有数の繁華街だったらしく他の街と比べて賑やかで発展している。

また、有数の魔粒産出地でもある。

今の凛道街には「凛道街の掟」なるものがある。

『凛道街の掟』

一.凛道街にて人に害を為す行為を禁ず。

一. 商売の開始ないし住居の建設の邪魔を禁ず。

一.上記二つが守れぬ場合何があろうと自己責任とす。

一.凛道街は来るもの拒まず去るもの追わず。

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