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PROJECT • AXL  作者: 銀鱗
黎明
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狼少年と鬼神

急に寒くなるのやめてほしい

「あ〜〜〜〜。疲れた。」

 オーガとの激戦から一週間後。俺は任務を終え洋館に帰宅して早々に、大広間のソファに身体を預け天を仰いでいた。

「そんなに疲れたの?」

 だらしない心の叫びを咎めるようなユキの声が耳元で聞こえる。

「一週間のの警護任務。それもほとんど睡眠無しの。疲れるに決まってるでしょうが。」

 あの日、夜が明けて本部である洋館に戻ると一直線でボスの元へ行き直ぐに魔粒タンクでの顛末を話した。ボスは突然の来訪に驚いた様子もなく、むしろ「さぁ話してくれ」と促してきたほどだ。(後から聞いた話だがユキが先に概要だけ説明していたらしい)

 話す間ボスは口を挟むことなく、説明が終わると一言「なるほど」

 とだけ言いそして

「じゃあ莉音にはこれから僕の知り合いの警護に行ってもらおうかな。期限は一週間。」

 と満面の笑みで休みなし宣告をしたのだった。

 そして次の日から大した休息も取らずに一週間、ボスの知り合いの警護任務にあたっていたのだ。任務中に眼帯をした老剣士と一戦交わりかけたことはここでは語る必要はないだろう。

「もー無理。休む。三日は休ませてもらう。」

「休むって言って休めるような仕事じゃないでしょ。」

 何も言い返せない。というのもサイクロンファントムの仕事は魔粒タンクの夜勤だけではない。周辺地域であ『凛道街』の見回りに加えて何かあった時の対応など警察的な役割がある。普通の仕事のように定期的な休みはなく、休みたいと言って休める環境ではないのだ。

「うぐっ。ってか俺がいない間ユキは何してたんだよ。通信にも出なかったし。」

 任務中、何度もイヤーカフでユキに通信をかけようとしたが一度としてかかることはなかったのだ。

「鞍馬さんがあのタンクに出た怪物の調査依頼をしてきたの。でその調査の集中のために通信切ってた。あなたに一週間も付き合わされたくもないし。」

「おい待て。なんか依頼以外の理由があった気がするぞ。」

 俺がユキを問い詰めようとした時、()()()が俺の後頭部に直撃した。

 敵の銃撃?にしては威力が低すぎる。頭に当たって床を転がっている弾を見ると、それはやはり弾丸ではなく、オレンジ色のピンポン球だった。こんな子供じみたイタズラをする人物は一人しかいない。

 ある程度目星を付けながらピンポン球を飛んできた方向を見ると、予想通り背の低い童顔の少年が

「イェーイ大成功!」

「何が大成功だタケル。毎回毎回こんなちょっかいかけ上がって。」

 文字どうりイタズラが成功したような顔でいる童顔の少年、春屋タケルに注意の言葉をかける。

 タケルはウルフカットに赤メッシュが入ったの髪を左右に揺らしながら

「いやいや。尾上さんがいない今こそ、みんなにイタズラかけまくるチャンス……!」

「…お前いつか地獄を見るぞ。」

「なに?この子。」

 俺の呟きとユキの怯えを意に介さず、タケルはヅカヅカと近づいてくる。

「大丈夫ですって〜うまく誤魔化しますから。そんなことより、それが噂のユキちゃんですか?」

「え、はいユキです。」

 イヤーカフから戸惑いと共に自己紹介の声がする。

「僕春屋タケルっていうんだ。よろしくね。それでそれで、ユキちゃんは普段どこにいるの?」

「……」

 イヤーカフから反応無し。こいつに個人情報が握られたらマズイと悟ったのだろう。懸命な判断だ。

「逃げられたな。」

「えぇ〜なんでぇ?!」

 タケルはイヤーカフ、もとい俺の耳の至近距離で叫ぶ。

「あーうるさいうるさい‼︎離れろ!」

 俺は結構強めの力でタケルを引き剥がす。邪険にされたタケルは不満そうに唇を尖らせた。

「ちぇー。でもまあ尾上さんがいないからユキちゃんもいつかみんなと同じように僕のイタズラにかかってもらいますからね!」

「そうかそうか。俺がいない間にそんなことしてたのか。」

 タケルが電光石火で後ろを振り向く。そこには筋骨隆々の体を簡素なシャツと長ズボンで覆う男性。腰には長年使い込まれたであろう日本刀が二本。その人こそこの会話の渦中の人物であり、タケルが今最もあいたくない人間。尾上さんこと尾上大二がにこやかに立っていた。ちなみに目は全く笑っていない。

「どっ、どうも〜、尾上さん。なななんでここに?」

 登場があまりに予想外だったのか、タケルの声が震えまくっている。

「お前がボスの部屋から出てくるのを偶々見かけてな。ついていったらこれよ。」

「そ、そうなんすね〜あ、さっき言ってたのは全部嘘っすよ。」

「ほう?じゃあ莉音のがもってるピンポン球はなんだ?」

「こいつが頭に当ててきました。」

 俺が間髪入れずに証言する。

「なら現行犯逮捕ってことだな。お前にはこれから俺と稽古場でみっちり修行してもらうぞ。」

「うぅ任務から帰ってきて早々にこれかよ。」

 自分から仕掛けといて拗ねるなよ。と言おうとしたその時、俺はタケルの会話に小さな違和感を覚えた。

「あれ、お前ここ一週間休みじゃなかったのか?」

 現行犯で逮捕され、尾上さんに首根っこを掴まれながらしょんぼりしているタケルに尋ねる。というのも確かこいつはこの一週間休暇だったはず。俺が警護任務に行く直前まで「いや〜莉音さんも大変っすね〜。僕はここから一週間特に仕事なくて休みですけど⭐︎」と自慢してきたからよく覚えているぞ。

「それが、莉音さんが倒したオーガいるじゃないですか。ボスに言われてそいつの調査してたんですよね。」

調査か。そういえば俺も報告する時にやけに詳しく尋ねられたし。

 一体ボスには何が見えているんだろうか。

「それで?調査の結果どうだったんだ?」

 尾上さんが尋ねる。

「それが『全てわかったら僕がみんなに直接伝えるから話さないでくれ』って言われちゃったんですよ。」

「む。それなら言えないのも仕方ないか。」

「なんか熱心に調べてるんすよね。」

 そう言いながらタケルは身体をくるりと回転させ尾上さんの拘束から抜け出した。

「あっこら!」

 意表を突かれた尾上さんが叫ぶ間にタケルはもう窓際まで後退していた。そしてその窓から華麗に脱出……する直前でタケルは止まった。尾上さんに再び捕まっても抜け出す素振りはない。

「おい、どうしたんだよ?」

 えも言われぬ違和感を感じた俺は尋ねる。

「莉音さん。あれ……」

 タケルが指差した方向に目を向けた瞬間俺は目を見開く。人々が住む街が煙と炎をあげているではないか。それも二箇所。

 同時にユキから無線が入る。

「C6地区とM3地区で事件。どちらも暴徒が暴れているみたい。」

 イヤーカフからスピーカーモードでユキが説明する。

「俺がM3地区に行こう。莉音とタケルはC6地区へ向かってくれ。」

 尾上さんが素早く指示を飛ばす。俺もそばに立て掛けてあった刀を手に取った。

「わかりました。ほら、行くぞタケル。」

 え〜俺も〜?というタケルを立たせて俺は勢いよく部屋の扉を開いた。

【イヤーカフ型無線機四型】

莉音がユキとの通信に使う無線機の魔粒具

「付けていても違和感がない」という理由でイヤーカフの形になっている。

カメラや集音器、サーモグラフィーなどがありここから得た情報をもとにサポートが可能。

いつ誰が作ったのかは謎に包まれている。

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