表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PROJECT • AXL  作者: 銀鱗
黎明
4/18

初任務②

めちゃんこ長くなったわ。

この量がデフォになれるといいな〜(希望的観測)

俺は伝えられた場所に向かって施設を駆ける。普段着ているグレーの服は、夜に紛れるに丁度いい。心なしか東の空が明るくなってきている。きっともう直ぐ夜明けだろう。

 如何に一キロ四方の建物といえど何度もこの場所に出入りしている身、地の利を活かして走る事でで目的の場所は直ぐについた。そこは施設の中でもほとんど明かりがない場所、鉢合わせを防ぐため今度はなるべく隠密に行動しながら男を探す。程なくして連絡があった男と思わしき人物を後ろから発見した。

 痩せた体つきに汚れた服装。一見するとどこにでもいる浮浪者のようである。だがその後ろ姿は確かに妙だった。姿勢や格好ではない。強いて言うなら男が発揮するオーラが、なんというか人間のものではない感じだったのだ。

 万一に備え、刀に手をかけながら近づく。

「おいあんた、ここで何している。」

 声をかけた瞬間、男は弾かれたように振り返った。その顔を見た俺は戦慄する。

 男の目には何の光もなくまるでボールペンでで塗りつぶしたように黒く、そして濁っていた。

 ユキが怪訝に呟く。

「あの人の目なんだか意志を感じない。」

「おそらく薬で自我を奪われている。多分その辺にいた浮浪者を攫ってきたんだ。」

 次の瞬間男が突然雄叫びを上げる。

「グオオオオオオオ!」

 その声は人と言うより獣に近かった。雄叫びに呼応するように男の体が変化していく。

 筋肉は膨張し皮膚は人間ではない色に染まっていく。そうして変化がおさまるとそこには怪物が一体鎮座していた。そして丸太のように太い腕を振りかぶって…

 現状についていけない俺目掛けて振り下ろしてきた。

「ッ……!」

 声を出す余裕もない。俺は生への執念で左に転がる。直ぐそこまで迫る拳。だがギリギリで振り下ろし攻撃を避けた。背中越しに打撃の風圧を感じる。

 俺は転がった勢いで怪物の床パンでできた瓦礫の影に滑り込んだ。

「おいおいどうなってるんだよ⁈何なんだよあいつ⁈」

「わからない。一瞬見えた姿から今解析してる。」

 ユキの声にも焦りが滲んでいる。こんな化け物と対峙する状況なんて魔粒導入の初期の頃でもない限り中々ないだろう。そしてそれは俺も同じである。今までの異常と言ったら精々魔粒の盗人が出るくらいで待つ間壁から少しだけ顔を出す。床にできた巨大な窪みとその前にいる怪物の姿が見えた。怪物は俺を見失ったようで周りの瓦礫を手当たり次第に破壊している。少しずつ近づいてきているのでバレるのは時間の問題だろう。

「今のままじゃ情報が少なすぎる。倒す手段がわからない。だから…」

「出ないといけないってことか。」

 言葉を引き継いだ俺をユキは肯定する。

 まぁ街を守るサイクロンファントム一員として元より撤退の選択肢なんか無い。

 もし逃げたら殺されかねないしね……

「どうしたら情報が取れる?」

「私の指示に従って動いてくれたら。」

「そしたら勝てる?」

「勝てる。」

「絶対?」

「絶対。」

 断言した。自身の力に絶対の自信を持っている声で。

 そこまで力強く断言するなら信じるしかないだろう。

 俺は壁から体を出し怪物の前に躍り出る。怪物の眼が俺を捉えた。

 改めて己の戦力を確認する。目の前に対峙するのは5mはあるであろう怪物。皮膚は緑青に染まり、黒く濁った眼には此方に対する敵意が見て取れる。その様相は「オーガ」と呼ぶに相応しい。少しでも怪しい動きをすれば樹齢百年を超えた大木の様な腕が俺めがけて飛んでくるだろう。対するこちらはこの巨体の前では楊枝に等しい刀一本と、足に付けられて間もないアシストスーツ。あと喋るイヤーカフ。

 いや、無理でしょ。

 戦力に差がありすぎるもん。

 これがゲームなら間違いなく「逃げる」の一択よ。

 オーガに気づかれないよう目だけ動かしてボタンを探す。当然だがどんなに目を凝らしてもそんな都合のいいコマンドは見つからない。俺が打てるコマンドは"たたかう"だけ。戦闘で活路を切り開くしかないのだ。

 腹を決めた俺は決意の眼でオーガを睨み返す。その瞬間、痺れを切らしたオーガが猪の如く突進してきた。

「右に避けて!」

 イヤーカフから叫び声のようなユキの声がする。俺はオーガのほとんど反射的に初撃をなんとか躱しながら、

「次は⁈」

「左に回り込んで。」

 言われるがままオーガの背後から左側面に回り込む。オーガは壁にぶつかり瓦礫を撒き散らす。これ以上施設を破壊される前に止めなければ。

「解析完了。倒し方がわかった。」

「本当か⁈」

 攻撃二発避けただけでわかるのかよ。

「言ったでしょ。情報があれば勝てるって。」

「っでどうすれば良いんだ?」

「まずあの人はおそらくフェーズ3。魔粒が死体を乗っ取っている動かしているからどこを切られても動き続ける。だから魔粒の密度が高い部分を切れば倒せる。」

「その密度が高い場所ってのはどこ?」

「定石どうりに行くなら、頚動脈。」

 攻略法が分かれば後はそれをこなすだけ。ユキが何か喋っていたが、無視してオーガの目の前に出る。オーガは怨敵を見つけたとばかりに突進してきた。だがさっきと比べてかなり距離がある。躱すのは容易な間合いだ。 

 よし、これを避けてカウンターで頚動脈を掻っ切れば……頚動脈?

 いつの間にかオーガは直ぐそこまで迫ってきていた。俺は死から逃れようとする一心で右の瓦礫目掛けて転がる。ギリギリで奴の突進を回避した。

「おい、頸動脈まで届かないんですけど!」

「話聞かずにいくからでしょ。」

「どうするんだよ⁈アキレス腱切るとかか?」

「筋は頑丈すぎて今の刀じゃ切断できない。」

 「じゃあどうするんだよ?」

 聞くもユキからの返答はない。それは確実に倒す方法が現時点ではないからだろう。

 どうする?首を切るだけ()()だったらミスしない自信がある。問題は高さだ。何とかして刀が届く高さにまでもってかないと切ることができない。せめて首まで飛び上がるか、或いはオーガの身長を下げるかしないと……

 そこまで考えたとき突如俺の頭の中がスパークする。

 思いついたぜ……この状況下でオーガの首を切る方法。

 俺は頭に降ってきた天啓を信じて三度オーガの目の前に現れる。それもかなり近い位置、オーガの拳が届く距離だ。オーガが俺を潰さんと拳を振り上げる。

 「ちょっと⁈どうするつもり⁈」

 ユキの叫び声を無視して俺は腰にあるアクセルを思いっきり捻った。

 解き放たれた猛獣の如き勢いでオーガに向かう。オーガは迎撃の為拳を振り上げる。

 だが俺の狙いは

 ブレーキをかけようとして失敗してきた。なら、

 ブレーキをかけなければいいじゃない!

 俺はオーガを無視して威力そのままにで壁へ突進する。そしてぶつかる直前、壁の前でバク転をする。ブーストは未だ勢いを保ち続けている。壁と足裏が平行になると同時に俺は壁に足をつけ、膝を大きく曲げる。そして間髪入れずに曲げた膝を勢いよく伸ばした。つまるところ、水泳のクイックターンの要領で方向転換をしたのだ。速さを全く失わない状態で回転したためレーザービームのような速度で突進する。

 壁に向かっていったと思ったら反射で戻ってきているのだ。これは完全にオーガの虚をついた。俺はオーガの背中を取る。

 だがまだ足りない。首を切るにはオーガはあまりにも高身長なのだ。

 だからオーガの身長を下げる!

「ハアアアア!」

 俺はこの勢いのままオーガの()()目掛けて蹴りを打ち込む。

 俺の強烈な膝カックンでついにオーガはバランスを崩し片膝をついた。

 その隙を見逃す俺じゃない。

「ようやく隙晒してくれたな。」

 ブーストが切れ自由になった足で飛び上がる。直ぐ目の前に胴と頭を繋ぐ管がある。

 俺は一切の容赦なく怪物の頭と身体を分離させた。

トサッと言う音を立てて首が地面に転がる。司令塔を失った身体は力無く前のめりに倒れた。

 程なくして頭も身体も黒い粒子となって消えていく。魔粒に冒されたものは骨も残らない。死んだら身体は魔粒となりまた誰かに利用されるのだ。

「加速用のユニットをキックの威力増強に使うなんて…」

 ユキが呆れとも感嘆とも取れる呟きをする。

「たまたまだよ。偶然思いついただけさ。」

 言うと同時に東の空が明るくなり朝日がタンクを照らす。

 かくして俺とユキ。二人の初戦闘は終わった。

 だがこれが新たな戦争の幕開けになることを彼らはこれから知ることになる。

 

 

【脚部装着用戦闘時加速魔粒具】

ミナトが莉音に譲渡した戦闘用魔粒具

アクセルをふかすことで魔粒を莫大な熱エネルギーと推進力に変化させ、使用者の走力を急激に上げる。

応用してキック力の増加も可能。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ