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PROJECT • AXL  作者: 銀鱗
黎明
3/18

初任務①

1日に2本投稿したっていいじゃないか

 現在時刻午前二時。有象無象は夢の世界に旅立っているこの時間に魔粒タンクに訪れていた。理由はもちろん見回りである。

 しかしいつ見てもデカい。一キロ四方土地に建てられているから当然か。魔粒タンクは魔粒を貯蔵する気体ガスタンクのようなの球状のタンクと、それを制御するためのコントロールルームからなる。コントロールルームには常時人がいるので俺の作業内容は魔粒タンク施設全域の見回りだ。監視カメラでは見つからない部分に目を光らせることが重要となる。

 世界が荒廃する前からそうだったが魔粒タンクに細工をしようとするテロリストや中身を頂戴しようとする輩がわんさかといる。

 ついこの間も尾上さんが見回りの時に魔粒を盗もうとした小悪党がいたらしい。ちなみにそいつは事を済ませる前に見つかってボコボコにシメられたとか。

 俺はコントロールルームにいる作業員への挨拶をして敷地内に入っていった。

 ここから夜明けまでタンクへ蔓延る魔の手を阻止していく。


――――――――――――――――――――――――――

「暇だ〜」

 苦節三時間。頑張って耐え続けたが遂に俺の精神に限界が来た。ただ同じところを一人でぐるぐるするだけの仕事なので当然と言えば当然である。

 前までは二人一組だったのに何で今回は一人なんだよ。

 心の中で文句を言いつつ、見回りを続けながらうまい具合に暇つぶしできる道具はないものかと腰の辺りを探ると、手に短いハンドルがあたった。そう言えば練習に丁度いいのでは件の加速スーツを着けてきていることをすっかり忘れていた。

「せっかくだし、やってみるか」

 俺は少し身構えつつも腰のハンドルを捻りアクセルをふかす。次の瞬間、カタパルトから射出されたかのような強烈な推進力が俺を前方に押し上げる。

 だが身構えていたからか最初の時のような暴走感はない。

 もしや使いこなせるのでは⁈

 高揚した気分のまま停止するための着地場所を探すために前を見る。すぐ目の前には、使い終わった物であろう一斗缶が大量に積まれていた。あっ、と思い急停止しようとした時にはもう遅い。俺は勢いそのままに缶の山に突っ込んだ。缶が衝撃を吸収してくれたからが怪我はない。

「こいつを使いこなすには、まだまだ練習が必要か」

 一斗缶の山から這いあがろうとするとポケットから何かが溢れでる。

 それはイヤーカフだった。ユキという女の子に手渡され、ミナトによって魔粒具だと判明した、あのイヤーカフである。

 そう言えば付けてなかったな…

 加速スーツの件と言い何故か今日の俺は物忘れが激しい。自分で自分を訝しみつつイヤーカフを左耳に付ける。ミナトはこれを通信機だと言っていた。


 まさか…………まさかね?

 

 俺は半ば冗談で話しかける。

「もしもーし、聞こえてるかなー?」

「聞こえてるよ。」

 びっくりした。マジでびっくりした。少し飛び上がってしまったのはここだけの秘密だ。だって本当に反応すると思わなかったんだもん。

「あれ、反応ないな。こっちからは聞こえないのかな?」

「聞こえてはいるけど…ってちょっと待ってくれ。ユキ、であってるよな?」

 淡々と話す人物に一応聞いておく。

「うんそうだけど、何かあった?」

 

 あってたよ。

 ほんとにこれ通信機だったのかよ。

 今初めて声聞いたぞ。

 

「本人ならいいんだ。えーっと………」

 まずい。若干パニックに陥ってるし聞きたいことが多すぎるしで質問が出てこない。うまく動かない頭で何とか出てきたのは

「咲田莉音です。これからよろしく」

「……よろしく」

「……」

「……」

 あまりにも定型分。瞬足で会話が詰まる。

「えっと、」

「莉音」

「はいなんでしょう!」

「貴方は鞍馬さんの下にいるの?」

「え?」

 全く予期していなかった質問に思考が止まる。がすぐに答えは見つかった。

「俺が『この人は信頼していい』って思えた人だから」

 だがユキは

「そう」

と冷たい返事を返した。

 その態度が俺の琴線に荒々しく触れる。

「そういうお前は所長とどういう関係なんだよ?」

 途端、イヤーカフ越しの空気が暗くなったような錯覚に陥る。

「……あの人はわたしが殺されそうになったところを助けてくれた。でも死にそうになった経験はわたしの心を縛ってる。今でも限られた人じゃないと話せない。」

 俺が所長室で感じた疑問が解決した。しかし思っていた数十倍重そうな理由に言葉が出ない。

 俺が哀れんでると思ったのか

「でもこうして面と向かってでなければ大丈夫」

 ユキが俺を元気づけるような調子で言う。

「だから莉音とのコミュニケーションに問題はないはず」

「それで大丈夫ならそれでいいけど……てかお前俺以外のメンバー知ってるの?」

 いきなりお前呼びとは、俺の脳はまだ正常ではないらしい。ユキは特段気にした様子もなく

「鞍馬さんが教えてくれたんです。他の人は名前だけしか教えなかったけど」

 これから入る組織なんだからそりゃそうか。

「なるほど。そう言えばユキと所長って…」

"どこで知り合ったんだ"と尋ねようとした瞬間、無線機から連絡が来た。ほとんど反射で腰についた無線機を取る。この無線機は魔粒タンクに入った時点で支給されたものだ。異常が起きた時にコントロールルームから連絡が入る。

 俺は一瞬で気持ちを切り替える。この無線機に連絡が入ったと言うことは施設内で何か異常が発見されたことと同義だからだ。

「こちら莉音。どうしましたか」

 無線機に話しかけると切迫した声が聞こえてくる。

「莉音さんですか?あの、東側の貯蔵タンクに怪しい男がいて」

「わかりました。東側ですね、直ぐに行きます。」

 俺は皆まで聞かずに手の中の無線機を切る。異常があるなら一分一秒が惜しい。同時に耳の無線機に話しかける。

「ユキ!東側で異常があったらしい。行くぞ!」

「わかった。」

 魔粒が世界を滅ぼした原因とは言え、今も魔粒は人のライフラインなのだ。その男が何かしでかす前に止めなければ。

 俺は目的地に向かって走り出す。名もわからない虫の音と俺の足音が漆黒の夜空にこだました。

【粒人】

魔粒を体内に摂取した人の事を指す。

摂取量によってフェーズ1〜3に分かれそれぞれの特徴として

フェーズ1 身体能力の強化

フェーズ2 特殊能力の使用

フェーズ3 別人格に意識を乗っ取られ魔物となる

などが存在する。

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