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PROJECT • AXL  作者: 銀鱗
黎明
18/18

防衛③

現状の生活上祝日忘れがち

急げ!急げ!急げ!


 暗闇が包む森の中、ナビゲートと走る俺の頭はその一言でいっぱいだった。設楽さんの助力でゾンビ包囲網を脱出してから数分後俺はゾンビを操る司令塔を撃破する為に森を走る。

 

 俺の予想が正しければ……

 

 森が開け、そこはいつのまにか目的地である小高い丘、そのてっぺんに立つのは右手にロングスタッフをもつ一人の人間。


 いた!


 仮に能力でゾンビを制御しているのなら視認しているのがマスト。つまりこの量のゾンビを操作するなら全体を俯瞰できる場所からじゃないと不可能だ。そして洋館全体を見れる場所はこの丘だけ。

 幸いにも奴は俺に背を向けている。気づかれずに居合で殺せば一瞬でカタがつく。なら選択肢は一つだ。

 そしていきなり全てを終わらせる為に大きく踏み込んだ瞬間、

 

 俺の右足を何かが掴んだ。

 

「が⁈」

 意図しない停止に思わず声が出る。反射的に自分の足元を見ると地面から生えた青い手が俺の足首をガッチリと掴んでいる。

「チィィ!」

 やむなく刀を抜き手首を切る。しかし俺の声で後ろを向いていた人間がコチラに気づいてしまった。

「保険でかけたものだったがまさかホントに役立つとは」

 男の低い声と共に振り返った人間を見て俺は驚愕する。その頭は口と鼻が前方に伸び、目が横についたまさに異形の存在。この世の生物で捉えるならその姿はまさに馬のそれ。

「やはりあの人は素晴らしい」

「このゾンビの司令塔はお前か」

 ふざけた被り物を見せられた俺の言葉には意識せずに怒気が宿る。

「そうだよ。このゾンビは俺の能力だ」

 格好に対する怒りを乗せた俺の質問に馬男はあっさりと認める。

「俺の名はガミュギュン。ついさっき来たばかりでね、高名が欲しいんだ」

「ガッ、ガミュギュン?」

 なんとも発音しづらい名前だ。日本人じゃないのか?

 しかも発音に合わせて馬の口も開閉している。どうやら被り物ではなさそうだ。

 その時無線機からユキの通信が入る。

「ガミュギュン。馬の頭を持つ悪魔の名前。そしてネクロマンシーの使い手」

 無線機からユキが述べた内容に俺は内心驚愕する。その特徴は面白いくらい目の前の男と一致している。

 

 コイツは熱心な悪魔信者か狂ったコスプレイヤーか或いは……

 

「というわけで死んでくれよ」

 突如奴が右手の杖を高く掲げる。それに呼応するかの如くそこかしこで地面が隆起する。そしてあっという間に大量のゾンビが這い出てきた。

 操縦者が近いからかそのスピードは洋館付近のものよりも速い。

「そうはいくかよ!」

召喚の前にケリをつけようと俺もスタートを切る。しかし行動が遅れた分、ゾンビが俺の動きを遮るかのように次々と湧いてくる。数秒で俺とガミュギュンの間には肉の壁が生まれてしまった。

 俺の渾身の突撃はゾンビの壁によって阻まれそのままもつれあいに突入する。


 多対一は苦手なんだよ!

 

 なんとか捌いていくものの相手の召喚スピードのほうが速い。その中で全ての攻撃を防ぐことなどできず

「ガァ!」

 ついにゾンビの攻撃が俺の脇腹を捉える。直前まで別のゾンビに意識を割いていた俺は反応しきれない。人ならざる剛力で肉を抉られる。

「グウゥ!」

 報復の斬撃を放つも傷の痛みが俺の動きを硬くし、視野を狭くする。続けて正面からくる死人に俺の目は釘付けになり反撃を取ろうとした瞬間


 まるで自分の体が自分のものじゃないような感覚に襲われる。

 そのまま俺の意思を無視して俺の足が後ろに回し蹴りをする。

 一瞬の遅れの後踵に確かな衝撃が伝わる。

 俺は意図しない動きでゾンビの腹を蹴り抜き知らずに迫ってきていた危機を跳ね除けたのだ。それだけでは勢いは止まらずむしろターンを決める形となり正面には俺が釘付けになっていたゾンビが俺にとって絶好のポジションを陣取っていた。逆袈裟の一刀で伏せた後にようやく脳が今の無意識行動を認識する。

 

 え?俺、今どうやって……

 

 見ると奴も困惑の表情を浮かべていた。

 もっとも奴の困惑は別の要因であったが。

「あれ、向こうに召喚できなくなった。なら……」

 次の瞬間、今までよりも広い範囲で地面の隆起が起こる。

「お前を殺すことに注力しよう」

 ガミュギュンとはまだ距離がある。さらに奴が近くでゾンビを操作している分無駄な動きが少なく、簡単に倒せない。このタワーディフェンスを攻略するのは至難の業だ。先程の脇腹の傷もあってか俺の動きが鈍る。徐々に全身に傷を負い始め、その傷でまた動きが鈍る。

 俺は負のループに突入しかけていた。

「おいユキ!なんとかならないのかよ⁈」

「これは…………」

 ユキにしては珍しい歯切れの悪い返事で俺は全てを悟る。

 

 八方塞がりかよ!


 対策がないままだんだんと削られ続けることへの焦りだけが募っていく。

「お前を殺ったあとはお前が守っているあの老人も殺す。お前は何もできないままここで俺の手柄となるんだ!さあ何もできないまま死んでくれぇ!」

 奴はゾンビに阻まれる俺を馬の頭でもわかるほど狂気的に笑う。その醜悪さが俺の心の奥底にある黒いものを刺激した。

 

コイツは絶対コロス!


 俺は激情に駆られるまま目の前のゾンビを両断にしようと刀を持つ腕を水平に構える。その瞬間、俺が持つ刀が赤褐色に発光した。その斬撃は周りの樹木三本を巻き込み全てまとめて輪切りとなる。

 大木が倒れる。その衝撃で木の葉と土煙が舞う。一瞬にしてお互いの視界が土色に染まった。

「ナ⁈」

「ちょっと⁈なんなのその力⁈」

 ガミュギュンとユキの驚きの声がシンクロする。

 だが俺は耳を傾けることなくそれどころか次の一刀に繋げる為に振り終わりから剣を跳ね上げる。目の前にいたゾンビの体は面白いように断裂し吹き飛んでいった。

 そんなことを五回か六回繰り返し土煙が晴れた頃俺と奴の間にあった骸の壁は一つ残らず床へ転がることとなった。煙の中に立つ俺を見てガミュギュンの顔色が変わる。

「もうお前を守る盾はない。さぁ……」

 そしてゆっくりと歩み寄り

「死のう」

「オオォ!クソがぁ!」

 奴は完全に余裕を無くし顔を歪めながら再び右手の杖を高く掲げる。

 しかし三体ほど召喚したところで突然地面の隆起がピタリと止んだ。

「何⁈何故召喚できない⁈」

 

チャンスだ!

 

 強烈なダッシュで奴との距離を詰める。眼前に捉えた時ガミュギュンは何か喚いていた気がするがそんなものは俺にとってはどうでもいい。

「命乞いは聞かない。死ね」

 そして俺は一太刀でガミュギュンを杖ごと両断した。

 なんとか障壁を潜り抜けたがまだ全て終わったわけでははない。


 急いで設楽さんの援護に向かわないと!


 俺はガミュギュンが黒い粒子になるのを見届けることなく疲れで動かない下半身を無理矢理動かして洋館へ戻るのだった。

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