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PROJECT • AXL  作者: 銀鱗
黎明
13/18

闇討ち

メイ様スターズ

 一応前回の話を少しだけしよう。僕と玲香は『万屋亀の甲』で依頼の報告を聞き、帰ろうとしたところ目の前にいる黒い忍者に襲われてしまった。不意打ちは撃退したものの忍者に僕たちを諦めるという選択肢はないらしい。忍者は刃を構えたまま低い男の声で聞かれる。質問の間にも忍者男の気配が緩まることはない。

「『水晶』はお前が持っているんだろう?」

「?」

「惚けるなよ。貴様のところにあるのはわかっている」

「ああ持ってるよ。はいこれ」

 そう言ってポケットから水晶のネックレスを取り出す。行きがけに買ったものでもちろん目の前の忍者が望むものではないことはわかっている。

「貴様!」

 僕のヘラヘラとした態度は男の怒髪天をついたようだ。ナイフを手にしてコチラに斬りかかろうとする。

 が玲香がそれを許さない。

 両手を突き出すとそこを中心として空気中魔粒がうねりを上げる。そうして空中に現れたのは先程から使っていた黒いナイフ。しかし先刻とは違いその数は尋常じゃないくらい大量だ。

「シッ!」

 玲香はその全てを男にぶつける。打製石器のように荒々しく削られた断面が男の顔の皮膚を削ぐ。しかし削れたのはそこまでだった。後の斬撃は硬質化し毛深くなった皮膚に阻まれる。もうそのときには面を覆っていた布は引きちぎられ首の上には鼻と口が突き出た頭が乗っかっていた。その顔はまるで……

「狼の獣化タイプか」

 ウチにも似たような能力を持つ人間がいるがあれよりもより戦闘に特化した種類のようだ。

「悠長にしている暇はないぞ。既に貴様の街のタンクにも一つ罠を仕掛けた」

「罠?」

 思わず訝しんでしまう。男は嘲りの笑みを浮かべながら

「貴様の街の浮浪者を一つ借りた。今頃魔粒の過剰摂取で怪物になってるだろうさ」

 なんだ。そんなことか。身構えた割にはあっさりした罠である。

「余裕だな」

 今度は男の顔に訝しの表情が浮かぶ。僕は敢えて余裕の笑みと共に

「まぁなんとかなってるでしょ。ウチの人間そんなにやわじゃないし」

「……そうか」

 言うと共に男の雰囲気が変わったそして背中から何かが生える。

 それを見た瞬間、玲香だけでなく僕も度肝を抜かれることになった。

 なぜなら背中には本来狼に与えられるはずのないもの。鷲の翼が生えていたのだから。

 驚きによるフリーズが解けないまま時間だけが過ぎていく。

 次の瞬間ヤツは背中のそれが体の一部であることを示すかのように翼をはためかせ空中に躍り出る。そのスピードはとても目では追えないほどの超高速。

 

 ……コイツただの獣化タイプじゃなさそうだ


 狼男の目線の先には僕。そのことを知覚したときにはもう男は黒い弾丸のようにコチラに一直線に向かってきた。

(なるほど。さっきもこうして足音を消したわけね)

 感心する間にも攻撃させまいと地上から僕と男を分断するように玲香の迎撃が飛ぶ……


 寸前でまたもや翼がはためく。ナイフが肉を喰む前に男は機械のように進む方向を急転換する。

 突っ込んでいくその先には……

 玲香の姿。

 僕への狙いがブラフであり、同時に自身の身の危険を感じた玲香は反応に一コンマ遅れながらも迎え打つようにナイフを飛ばす。だが大部分を僕との分断に使ってしまった影響か、その数は先ほどよりもかなり少ない。

 そして男はその全てを

 蛇の尾で払った。

 ヤツには狼の代わりに蛇の尻尾がついていたのだ。

 二度の予想外に玲香の反撃がまた一コンマ遅れる。

 男は超高速スピードを保ったまま悪魔のタトゥーがついた手を振り上げる。指先の鋭い爪を玲香の首目掛けて突き刺そうとする……

 と思ったときにはヤツの体は地に伏していた。

「私がそんなフェイントに引っかかるとでも?」

 痛みで顔をしかめるヤツの翼にはそれぞれ三本ずつ刺さっていた。これをあらかじめ自身の前に設置しておき近づいてきたものを串刺しにするつもりだったのだろう。目論見通り急激に空中での推進力を失ったヤツは地面に落ちてしまったというわけだ。

 さすがは玲香。戦闘のリスクヘッジが上手い。

 遠目に見てもこれで終了かと思い二人に近づこうとした瞬間、何かを感じ取ったのか玲香がバックステップで距離を取る。と同時に狼が、その大口を開ける。喉の奥では煌々と赤い光がゆらめいている。

 次の瞬間、狼の口から紅蓮の炎が展開される。

 だが玲香はそのファイアブレスを避ける素振りすら見せない。

 そっと手を前にかざすだけ。

 それが合図かのように大量の黒刃が金属質の音を立てて玲香の前に壁として展開される。

 少し遅れて炎と壁がぶつかる。だがその炎はついに玲香の前にある黒の盾を突破することはできなかった。

「マジかよ……」

 男は絶望で飽和したうめきをあげる。だがまだ抵抗する力は残っているようだ。倒れながらも手を前に出した。瞬間ナイフが飛び手のひらを貫通する。その勢いのままヤツは地面に仰向けに磔にされた。玲香の目は相手の一挙手一投足を見逃さない。

「さっすがぁ」

「仕事ですので」

 玲香の能力は至ってシンプル。『黒いナイフの生成』。ただそれだけだ。ナイフといっても縄文時代の打製石器のような形をしているので普通に手に持って使っても貧弱の極みだ。

 しかし強度が半端じゃない上に本人の努力で一度に大量のナイフを生成できる。観察眼と相まって玲香は戦闘スキルはウチの武闘派とタメを張れるほどになっている。

「さてさて」

 安全が確認できたのか玲香が近づくことを促す。

「全部話してもらおうかな」

 そして僕は男の首を掴む。別にどこでもいいのだが舐められないようにするための演出だ。

 掴んだ瞬間、僕と男の『脳がリンク』する。

 そしてこの男が見てきたもの、聞いてきたもの、感じたこと、ありとあらゆる全てが僕の頭に流れ込んできた。

「マルコシアス」

「な⁈どうして俺の名前を⁈」

「集中できない。黙ってろ」

 それと同時に首を子供の姿からは想像もできないような物凄い握力で締め上げる。当然耐え切れるはずもなくマルコシアスの喉仏は生々しい破壊音と共に砕け散った。

「カ……カヒュ…………カ」

 悲鳴の代わりに弱々しい呼吸音だけが流れる。


 …………………………やべ

 

 流れでやっちゃった。コイツ聞いたら答えてくれるタイプのヤツだったのに。

 

 ………………………………まぁいいか。

 

 捜索を再開しよう。

 しかしいくら探索しようとコイツの中身はまるで無い。くだらないとかではなくそもそも無いのだ。空っぽという方が近い。まるでこの世界に産み落とされて間もないような。

 と、ようやく使えそうなものを見つけた。教会の礼拝堂のような一室。右には黄色と黒のドレスを纏った短髪の女。背中からは蜘蛛の足のような鎌が六本生えている。左には中性的な顔立ちの人物と蛇の目と鱗を持った男。そして正面には悪魔が豪勢な椅子に座っている。頭に角、背中には蝙蝠の羽というスタンダードな姿。だがそこから出てくるオーラは横に控える三人よりも強者であることを窺わせる。

 その姿を見た瞬間、僕の頭に伊狩の報告書の内容がフラッシュバックする。

 

 先程伊狩からもらった報告書とコイツの記憶から推測するに…………

 

「なるほど、大体わかった」

 コイツの正体とあの悪魔。そして今まさに凛道街を蝕もうとしている黒い意志について。

 となればもうこの男に用はない。いち早く拠点に戻らねば

「お前いい情報持ってたから苦しめずに殺してあげるよ。玲香」

「はい」

 それと同時に黒い刃がマルコシアスの眉間と心臓を正確に貫く。貫かれた本人は声を上げる暇もなく絶命した。

 力無く落ちる体は黒い粒子となって空中に溶けていく。それを見届けることなく僕たちは待たせていた馬車を走らせた。――――――――――――――――――――――――――

「もういるよ……」

 カーテンの隙間から外を見る。視線の先にはぱっと見では普通の一般人。しかし戦闘者の姿勢が隠しきれていないことがその佇まいから見受けられる。おそらくマルコシアスと同じ組織の者だろう。

 僕が所長室に入って十五分もしなかっただろう。ドアが心なしか疲れを伴った音を立てた。

「莉音です」

「入りな」

 促すと観音開きの扉が開く。莉音の姿は土汚れでボロボロだった。まぁ何が起こったかはおおよそ見当がつく。

「さぁ、話してくれ」

 そう促すと莉音は驚いたように目を丸くした。いつもはテキトーに流してるのでそれも当然か。

「えっと、まず四時ぐらいに不審な男が魔粒タンクの方にいて………………」

 莉音が話した内容はが謳った内容と恐ろしいくらい酷似していた。これはもう疑いようがないだろう。

 莉音が全て話し終えた時、僕は考える。


 さて、どうする?


 相手の狙いは十中八九ユキ。奪われればかなりまずいことになる。サイクロンファントムはかなり大々的に活動しているせいで向こうからの監視の目があるはずだ。今更ユキだけを隠すなんてこともできない。

 一番最悪なのは今この瞬間に攻めてくること。被害を気にせず撃退するだけならできるだろうが、向こうが玉砕覚悟で迫ってきてはユキを取られる確率は十分ある。

 

 だが全く打つ手なしというわけではない。

 

「じゃあ莉音にはこれから僕の知り合いの警護に行ってもらおうかな。期限は一週間」

 今のところまだ監視の目は甘い。そしておそらく"ユキの能力"にもまだ気づいていない。それならできるだけ莉音を遠くに送って"ユキが奪われる確率"を減らす。このタイミングの外出は向こうに対するデコイの役割を果たしてくれるはず。

 莉音に与える仕事は……まぁ頼めば受けてくれる知り合いが何人かいる。

 莉音が退出した後僕はある人物に連絡を取る。

「もしもし?あのさそっちに柳瀬の爺さんいるじゃん。あの人にちょっと頼みたいことがあるんだけど……」

 こうして戦いの第一夜は過ぎていった。

 

【万屋亀の甲】

玄武町で活動している何でも屋

創設者である伊狩と会計の白石、バイトの御門の三人体制で仕事をている

玄武町は元々政府の統括地であったため今も政府とのイザコザは絶えない

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