雷鳥探し③
サボっていたのではない
今後を考えていただけだ
「放電装置って作れない?」
「?」
電ちゃんに対する仮説を立てた後、俺がその足で向かったのはサイクロンファントムお抱えの錬金術師、ミナトの元だった。
洋館の離れにある工房兼住居。そこがミナトの根城だ。家のインターホンを押され何の警戒もせずにドアを開けたミナトは俺たちの突然の来訪に目を丸くし「今忙しいんだよねー」とあからさまに帰って欲しいアピールをしてきた。がコチラはそんなことに構っている場合ではない。
「事前にアポぐらい取れ。じゃ」
そう言ってミナトはドアを閉めようとする直前、俺は間に足を入れる。
「あっこら足どけろ」
「ちょっと待ってくれよ。せめて説明くらい……」
「知らん。早よ帰れ」
「実はカクカクシカジカで…………」
「なに始めてんだよ⁈」
ミナトが言うことを無視して俺は今日あった出来事を話す。それにつれてミナトの顔から怒りが徐々に消えていった。
「なるほど、いきなりやってきたかと思えば」
コチラの説明にミナトは呆れたように頭を抱える。
「災害獣なんてさっさと倒しちゃえよ」
「それはそうなんだけど……飼い主見ちゃったらそんなん言えねぇよ」
俺は「頼む!」とこれ以上ないくらいに必死に頭を下げる。ユキと違ってミナトにはこれといった切り札はない。故に押し切るしかないのだ。
「……後じゃダメ?」
「今から作ってくれると助かる」
「今からぁ⁉︎」
頭を抱えて悩むミナトに俺はボソッと「子供が悲しむぞ」と付け加える。
それが決定打になったようで、ミナトは一つため息をつくと
「中入れ」
と奥の工房に引っ込んでいった。どうやら通してくれるらしい。
「この人が心当たり?」
耳元からユキが問いかける。
「そそ、ミナトなら魔粒具の一つや二つチョチョイのチョイで……」
「簡単に言ってんじゃねぇぞ莉音ー!お前もこっち来い!」
奥からミナトの抗議の声がする。俺は後についていくように工房の中に足を踏み込んだ。
中に入ると恐らく魔粒具を作るためのよくわからない装置によくわからない設計図、よくわからない試作品が所狭しと並べられていた。
この部屋かなり広いはずなんだけど……
「掃除しろよ」
「ウルセェ作ってやらんぞ」
ミナトの目つきが剣呑なものへと変わる。ただでさえ此方はアポ無しで突撃したのだ。生活指導なんざしていては本当に作ってもらえない可能性がある。
ミナトはコチラに向き直り
「で?どんくらいのものが欲しいの?放電っても電圧の強さとかあるだろ」
「って言ってるけど、どんくらいがいいと思う?」
「三十万くらいあれば」
ユキからのそっけない返事が来る。
「三十万Vくらいのやつで!」
「はいはい、簡単に言っちゃってさ」とミナトはボヤきながら謎機械の方に向かっていった。
操作に合わせて機械が駆動音を上げる。ミナトを挟んで奥の方から時々光が散っている。
ただ立って待って時間が過ぎるのもアレなので、電ちゃんを探しに工房を出ようとすると
「どこ行くつもりだ。その辺にある『03』て書かれたついた箱持ってこい」
「……はい」
見られてた……
無理を言った上に魔粒具作成についてはからっきしなので従うしかない。
これもあの親子のためだ。俺は言われるがままにミナトが出す指示をこなしていく。
「そう言えば」
制作の途中でミナトが俺に話しかける。
「それどう?」
手を止めることなく目線で指した先には今も俺の脚に取り付けられている魔粒具。ユキとあったその日にミナトから(半強制的に)装着されたものだ。
「あぁこれか。チョー役に立ってるよ。いやほんと。マジで」
なるべくミナトの気を悪くしないように感想を述べる。役立っているのはちゃんと事実なのでなんの問題もない。
「ホントに?」
ミナトも自身が手塩にかけて作ったものを褒められて心なしか声のトーンが少し上がってる。
「そそ、この前も走ったら物凄い土煙起こしたし」
「土煙?どこで?」
「C6地区。バラックとかいっぱいあるとこ」
俺がそう言うとみなとはそんな出力出せたっけなぁ?と呟きながら、しかし嬉しそうに手を動かす。
………何とわかりやすい。これは見つけてしまったか
なんてことを密かに思っていると
「ほれ、できたぞ」
とミナトが俺になにか小さいものを放り投げてきた。
それは手ほどのサイズで金属製の四角い箱だった。
まずこれを見た時の率直な反応は
「小さ!」
「舐めんな、それ50万V出せるようにしたんだからな。但し使い切り」
この大きさで注文より強力になってる……まぁ強いに越したことはない。
よしこれでミッションクリア。お礼を言って戻ろうとすると
「ってか、作っといてあれだが誰かに言ってあるだろうな?もし単独行動なら俺も罰則来るんだけど」
「………………」
「おい何で目を逸らす」
「じゃ、サンキュー。この借りはいずれ返すよ」
「おいちょっと待……」
俺は捕まる前に脱兎の如く走って工房から脱出する。背中に「許さんからなお前ぇ!」とミナトの断末魔が聞こえてきた。
「薄情者」
ユキからも軽蔑の声が飛ぶ。ユキからの協力もスイーツで釣ってるので言い返せない。
何はともあれこれで全ての準備ができた。あとは実行に移すだけだ。
ミナトの工房からなんとか脱出し、その足で電ちゃんを探そうと辺りを走りユキの情報収集能力でこの辺りにいることを突き止めたのだが……
「この中?」
「この中」
そう指し示すのは目の前にある倉庫の中。
ユキ曰く、怪物体電ちゃんは常に体から電流を放電しながら飛んでいるらしくそれを辿ることで現在地が分かるようになるらしい。ここまで凛道街の中心部から郊外まで実に数時間彷徨い続け、ついには埠頭まで来ることになった。お陰で太陽は沈みかかり、煌々と輝く月が顔を出し始めている。俺は手を膝の上に乗せ前傾姿勢になりながら確認する。
「ホントに?」
「ここが一番反応がデカい。多分いる」
こっちはフルスロットルで走り続けたのでこれで助けられる云々よりはここで当たりを引くことができたという開放の方がデカい。
だがまだ終わりではないと思い直す。ここから電ちゃんを元に戻すまでが一つだ。
「終わったらミナトさんに謝りなよ」
「わっわかったよ……」
今ゆうことかよそれ⁈
若干ペースを見出されたものの俺は意を決して扉を蹴破る。
そこには自身が開けたであろう、天井にある巨大な穴から光に照らされる怪鳥の姿。その目はまるで外的を見るように鋭い。
「ようやっと見つけたぜ」
俺は胸元のポケットからミナトからのキューブを取り出し側面にあるスイッチを入れる。
その瞬間真っ白な光のレーザービームがとてつもない音と共に天井を貫く。俺はあまりの光に思わず目を覆う。まるで雷の中にいるかのような衝撃。電ちゃんは光と音に驚いたのは飛び立つために翼をはためかせようとした。
逃げられる!
俺は直感でビームを電ちゃんの方に向ける。
ビームは雷鳴のような轟音を上げながら吸い込まれるように電ちゃんの方に一直線に放射した。
電ちゃんは全身からスパークを起こしながらしかし徐々におとなしくなっていく。
がこちらは途轍もない衝撃だ。少しでも力を抜けばたちまち後方に吹っ飛ばされてしまうだろう。
効いてるかはわからない。だが一度始めた以上やめるわけにもいかない!
俺は腰にあるアクセルをフルスロットルにする。脚に装着された六つのマフラーが火を吹いた。レーザービームの衝撃と魔粒具の推進力が拮抗し、俺はその場に釘付けになる。
「ど………な……状…………?」
爆音に加えて電撃で電波が乱れまくっているのでユキが何をいっているかもわからない。
数十分の、実際には数秒だが、ビームを撃ち尽くしキューブから出てくる光がなくなった頃、倉庫の壁はあちこち焦げつき焼け付く寸前になった頃、
「どうなった?」
ユキの声がよく聞こえるようになった。だが声を出そうにも疲労感に支配される。
「……なんとか…………なったっぽい…………」
どうにかそれだけ搾り出すとその場に倒れ込んだ。コンクリートの硬い床が俺を受け止める。
ユキが何か言っているがそれもだんだんと遠くなっていく。
首を傾けると一番黒く焦げた床の中心に立つ白い頭と薄青の胴体の小さな小鳥が目に入った。
それを最後に俺の意識は闇に落ちた。
―――――――――――――――――――――――――
「おっいたいた。いましたー」
俺が気を失ってどれくらいの時間が経っただろうか。しばらくして俺を探しに来たと思われるタケルの影の声がした。程なくして俺が蹴破った扉からタケルが倉庫内に入ってくる。
その背後には四人の人影。夜闇の暗がりから顔は月明かりに照らされて顔が明らかになっていく。
「倉庫から爆音がすると通報受けて来てみれば……」
月明かりに照らされた四人のうちの一人、紫のジャケットを着た青年が口を開く。
「何してるんだ莉音は?」
「どうやら例の災害獣を解決したらしいね。ほら」
そう言って中華服の女性が指に乗った小鳥を青年に見せつける。
「いや、それはいいんですよ設楽さん。問題は誰にも言わずにこんな大掛かりなことをしたことですよ。なぁ鈴鳴」
青年は振り返りながら、奥にいる緑髪でコートを着た青年、鈴鳴に向かって叫ぶ。
「確かに問題だが、それをどうするのかを決めるのはボスだ」
「だってさ柏木」
鈴鳴に加えて設楽の追い討ちに紫ジャケット、もとい柏木はバツが悪そうに目を逸らす。
「おしゃべりはその辺にしとけ」
四人のうちの最後、金髪でアロハシャツを着た美青年が低い声を上げる。それは他四人に緊張感を与えるには十分だった。
「出てこいよ」
青年は誰もいないはずの倉庫の隅を睨みつける。
するとその闇が人型に切り出され、徐々に輪郭を作っていった。
闇の中から出てきた侵入者は男とも女とも取れる中性的な声で飄々と話す。
「いやはや、まさかバレるなんて。流石は赤松、噂通りだです」
「なんの用だ」
赤松と呼ばれた青年が問う。
「その子」
そう言って指差す先には設楽さんの人差し指に乗る小鳥。
「欲しいんです。くれませんか?」
「それは無理だね。とっとと帰るか……」
「ここで消えるか」
即答で返したタケルの言葉を赤松が引き継ぐ。
その言葉が合図になったかのように五人が戦闘者の空気を待とう。
「本当はもっと騒がしくしてもいいんですけど……」
その気迫を見ると侵入者は余裕を見せながらも一歩後ろに下がる。
「今日は帰ります。近いうちにまた会いましょ」
その言葉を言い終わる前に辺りに轟音と化したシンバルの音が響く。
侵入者はまるで音と共に飛んでいったように、もうそこにはいなかった。
【COME,MORE】
・凛道街の隣町である玄武町を拠点とする店の名称
・キッチンカーであり、玄武町ではどこにでもいる
・店主の本業はフランススイーツだがドーナツの方が人気が高い。店主はその事を悔しく思っている。
・この世界でどうやって材料を入手しているかは謎であり、味を求めて別の街から来る人間もしばしば




