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月と星

これが最後となります。感想を頂ければ幸いです。


「この国に英雄は必要なかったのですよ陛下。マドッグやベルリオーズのような要がいてくれたのなら……英雄などがいる世界の方が異常なのです、多数の普通の兵士がいてくれる方が正しいのです。英雄は亡国の前触れです。ただの兵士達の方が余程大切なのです。王よ、統治者たるあなたの真の役割は、そんな兵達のささやかな生活や夢を守ることなのです。しかしあなたは自らの地位に固執し、兵士達の功に報いるのに、命がけの決闘を命じました。逃げ場も封じて無理矢理に……愚かなことです」



「貴様! 何者じゃ!」


 ヘイミルは優雅に一礼した。


 コンモドゥス王は愕然とする。顔を上げた彼の肌は茶褐色だった。


 ヘイミルは混沌の軍のエルフ、ダークエルフだったのだ。



「マータイル平原に勇士が居続ける限り我等混沌の兵は、ローデンハイムに侵入できませんでした。さらに彼達は確かに強く、我等の接近も再三気づかれました。だからつぶし合って貰ったのです……愚かなルールで縛って。まあ……勇士など誰でもよかったのです。ただこの国に功のある人物であれば、それを王であるあなたが無為に扱えば、私どもの策は成ったのです」



「き、貴様!」


 もうダークエルフはコンモドゥス王を相手にしていなかった。彼は辺りをわざとらしく見回す。



「ところで兵の姿が見えませんな? 傭兵の集まりも悪かったとのことで……当然でしょう、有為の人材を無為に殺す王に、誰も着いては来ないのです。これは国家だけの事ではありませんが、どんな人材も厚遇せねば人心は離れ、組織は弱体化する……どうして人間はそんな簡単な理屈に、たどり着かないのでしょうね?」



 コンモドゥスはふらふらと剣を抜いた。無礼なダークエルフを斬り捨てるつもりだった。


 だがその前にガギギドル城が大きく振動し、王は無様に転がり王冠が落ちた。


「どうやらサイクロプス達の、城への攻撃が始まったようです」


「な!」コンモドゥスは、倒れたまま顔色を失った。


「では、私は失礼します。ここであなたを殺してもいいのですが、王よ、あなたは私の剣を汚すに値しない」


 優雅にヘイミルは再び一礼する。



「ああ、一つ伝え忘れていました。あなたの弟リキニウス公の叛意は本当です。兄であるあなたを倒して、王になるつもりだったようです……愚かですね、我等と言う外敵がいるというのに……人間どもは周りの敵に背を向け、せいぜい同胞同士殺し合っていなさい」



 ヘイミルはかき消えるように姿を消した。


 残ったコンモドゥス王は呆然と、誰もいなくなった城で這い蹲る。


 ややあって彼は叫びだした。


「誰かわしを助けろ! 勇士達よ、この国を救うんじゃ! そうすれば金貨を……そうじゃ! 領地を与えよう! 英雄として語り継ごうっ!」


 この戦いでコンモドゥス王は無惨に八つ裂きにされた。彼はその後、廃墟として残ったこのガギギドル城でアンデッドのワイトとして、うろつくことになるが、どうでもいい話だ。



 マータイル王国は王と首都を失っても一年保った。一年後には滅びた。


 かつて騎士ベルリオーズの領地だったワイズニスも当然征服された。マドッグを倒して『英雄』になった騎士はそれなりに戦ったが、オーガーに捕まり、生きながら喰われた。


 その末期の絶叫を聞きながらウィーダは自らの過ちに震え上がった。


 この領地は勇士として選ばれた程の騎士、ベルリオーズだからこそ守られていたのだ。しかし彼女は何人も愛人を作り夫を裏切り続けた。


 ウィーダは、本当は誰の種か分からぬ息子のエルンストと逃亡を図った。領民なんてどうでもいい。


 すぐに捕まる。恐らくベルリオーズがいたなら、三人での脱出は可能だったろう。


 混沌軍の虜囚となったウィーダは、美貌が徒となり散々陵辱を受け、耐えられず自害した。まだ赤子のエルンストは混沌軍側の人間奴隷兼非常食としてよい働きをするだろう。



 サイレスの街も落ちた。


 ジャイアント、サイクロプス、オーガー、オーク、トロール、ゴブリン達の一斉攻撃を受け、一溜まりもなく潰えた。


 民衆はことごとく陵辱され斬殺され、浴場主ムノンも殺された。娘のエリナはその前に、暴力を奮う父を見限り、家を出ていたから難を逃れた。



 ソフィーは……マドッグの愛したソフィーは混沌軍との戦いでは死ななかった。



 その前に、墓石の下の住人になっていたからだ。



 マドッグが大金貨三万枚を喜捨した大司教ドミニクスには、病を治す奇跡など授かっていなかった。彼も大多数の聖職者と同じく堕落していて、地母神からも見放されていた。


 だから通り一遍の誤魔化しでソフィーの治癒は終わり、当然彼女は治らなかった。


 対してムノンは、誠実だった。


 生前金を貰っていたからでもあるが、治療である瀉血と水銀丸薬の投与を毎日続けた。


 故にソフィーの死因は水銀中毒と、血を抜かれすぎたための衰弱による物だ。


 ムノンはソフィーの真珠の髪飾りを盗む事も忘れなかったが、律儀に彼女を葬った。


 マドッグが死んでから僅か一ヶ月後だった。


 大司教ドミニクスはどこからか混沌軍侵攻の情報を得て生き延びた。違う街でまた大金貨三万枚の詐欺を続けている。




 結局、ローデンハイム王国に残ったのは、廃墟と死体と森と川。あとは変わらぬ太陽と月と星。




反省会……VS方式で書いたために後半に行くほどキャラが減り、ある意味最後の盛り上がりが足りなかったと反省しています。あるいは、バッドエンドではない方式を目指すべきだったのか?

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