謀略、なる
叫びは届かず。冒険者マドッグことタフティーは、ただ一人で死んだ。
彼は勿論知らないが、マドッグを殺したのはウィーダの新しい愛人で、その男はその功績により、ベルリオーズの領地ワイズニスを手に入れた。
コンモドゥス王はいらいらとガギギドル城の中を歩き回った。
伝令が幾つも届く。全てが悪い知らせだった。
最初に訪れたのはダーソンの砦の陥落だ。続いて辺境のマータイル平原の失陥。騎士達や傭兵達を当然派遣した。
再び混沌の軍を蹴散らしてやろうと目論んだ。実際、これまでの戦いは常にローデンハイム軍の、人間軍の勝利だった。
だがダーソン砦もマータイル平原も、あっさり失った。
混沌の軍隊は、規模を増やしながら破竹の勢いで、ローデンハイム王国の領土を蚕食していく。
コンモドゥスは慌てて援軍を送った。届いたのは敗北の報告の数々だ。
今や混沌の軍はローデンハイム全域に跋扈し、弟リキニウス公もパリューンド領と妻を失い、勇者ギガテス伯も戦死していた。
リキニウスは隣国に身一つで逃げたと言う。
「何故じゃ! 何故こうなった」
コンモドゥス王は苛立ちと怒りと屈辱と不安に喚いた。
「おや、まだ判りませんか? 陛下」
涼やかな声がかかる。
コンモドゥス王が振り返ると、吟遊詩人でエルフのヘイミルが微笑んでいた。
「何じゃ、貴様、いつの間に」
コンモドゥスは目を血走らせてヘイミルの排除を命令しようとしたが、もう周囲の騎士達はいない。いつからかずっと城の騎士達は、減り始めていた。
「マータイル平原攻略は難しかった。何せ幾人もの勇士達が守っていたのですから」
ヘイミルはリュートの弦を一度撫でると、歌うように説明を始める。
「だから我等は考えたのです、手強い勇士達を亡き者にする策を……それが勇士決闘。見事に引っかかって下さいましたね」
「何じゃと! しかし勇士決闘で……」
「ええ、英雄は生まれました」
全ての勇士を倒したマドッグを殺し、未亡人のウィーダと結婚した若き騎士だ。多少のルールの歪みはあったが、眩しい笑顔の若き騎士をコンモドゥスは『英雄』にした。
「しかし、そもそも『英雄』とは何でしょう? ……危機に陥った惨めな人間がすがりつく偶像です」
ヘイミルは嘲笑う。




