勝利者
雨が降っていた。
先程まで晴れていたから、にわか雨だろう。水滴は街道の横の木々や草花を活き活きと輝かせた。
マドッグは雨に打たれ濡れながら、草むらに横たわってた。
胸に槍で出来た大穴をこさえて。
敵は騎士だった。プレートメイルを来て軍馬に乗った知らない男だ。忘れていたが、騎士ベルリオーズの復讐権は、まだ生きていたらしい。
あっさりとマドッグは負けた。
名も知らぬ騎士が強かった訳じゃない。騎士は弱い。だがマドッグは負けた。
そもそも決闘など時の運。それに命と未来をかけるなんて、突端から馬鹿げているのだ。
勿論、負傷も彼の足を引っ張った。
レイチェルのレイピアが貫いた左肩。ミュルダールの最後の魔法で失った左目。ビャクヤに斬られた右腿。全てがマドッグの動きから生彩を奪った。
結果、致命の一撃を避けきれず、人のいない街道の隅で、人形のように捨てられている。
はあ、と彼は血で赤くなった口を開く。
「……仕方ないか……これは運命みたいな物だ……決闘なんてやり始めたときから、決められていたのさ」
彼は考える。
──幸運だった。
何にしろソフィーは助かるのだ。ムノンの治療と水銀の丸薬。それでもダメなら大司教ドミニクスの奇跡がある。
──ソフィーは、家族は助かるんだ。
だがここで重要な事実にマドッグは、目を見開いた。
家族……しかし彼がいなくなったらソフィーは彼の家族なのか? 共に生きて共に苦労するから家族の絆が出来るのではないか? それにしては二人の時間はあまりにも少なかった。
マドッグは今更、太陽が覗きだした空に手を伸ばした。
「ちょ、待ってくれっ! イヤだ! ここで誰にも知られずに死ぬのはイヤだ! 助けてくれ、助けてくれ! 誰か! ソフィー……ソフィー来てくれ! 一人にしないでくれ!」