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マドッグと白矢2

 ──すげえな。


 マドッグは敵の剣技と魔剣の両方に、賛辞を送る。


 ──だがだからこちらは動きやすい革鎧だ!


 体勢を立て直したマドッグは斜めに剣を振る。


 がきん、とビャクヤの板金鎧から火花が散る。


 そう、敵は鎖帷子の上に部分的にだが、板金鎧を装着しているのだ。ブローデルとの戦いで歪んでいるが、まだ十分威力を発揮している。


 ──不利すぎるぜ。


 マドッグは笑う、凶暴に。あだ名となった狂犬の顔になる。


 マドッグの剣の狙いが変わった。頭だ。ビャクヤは兜を被っていない。


 彼は長年培った足さばきを駆使し、ビャクヤの顔を剣で狙い、ビャクヤからの反撃からは遠ざかった。


 勇士決闘の最後は、相応しく激戦になった。


 マドッグとビャクヤは何度も剣を交え、あちこちに傷を作る。


 実力的には明らかにマドッグが上なのだが、ビャクヤの魔法の剣と鉄の鎧は、致命の一撃を何度もはね除けた。


 はあはあはあ、と二人の男の息が弾む。


 真剣勝負は疲れる。肉体もだが精神も、鉄のヤスリで削られているように消耗していく。


 だが二人の戦いは終わらない。


 ロングソードが頬をかすり、バスタードソードが革鎧を裂く。


 どれだけ続いただろうか、ついに終焉が見えた。


 経験の浅く若いビャクヤが足をカーペットに取られた。その隙をマドッグは見逃さない。


 彼はロングソードをビャクヤの顔めがけて振り下ろした。


「きゃあああ!」オリエの叫びがひびく。


 ロングソードはビャクヤの顔を斜めに切り裂いた。だが浅い。同時にビャクヤの剣がマドッグの右腿に突き刺さる。


 鮮血が宙に舞った。


 オリエはビャクヤの治癒の為に彼に近づこうとしたが、「来るな!」と気配を読んでいるビャクヤに一喝される。


「これは正々堂々の決闘だ」


 マドッグの感心は畏敬に変わった。これでまだ一五歳なんて大したモンだ。何せさっきからマドッグを正面から攻撃している。


 ──見えない左側からなら楽なのによ。


 マドッグはミュルダールとの一戦で左目を失っている。ようやく慣らしたが、まだ本調子ではない。それを知りつつビャクヤは視界の左側に入らないのだ。


 ──ホントによう。


 マドッグはビャクヤの潔さに好感さえ感じていた。ミュルダールが惚れる筈だ。


 彼は肩を庇いつつ剣をかいくぐる。レイチェルからの一撃はまだ癒えていない。


 目と共に治癒の魔法をかけて貰おうと思っていたが、ソフィーの治療を優先させた。


 だからこそのマドッグの苦戦だ。


 本来なら、先程の一撃で顔ではなく頭を叩き割っていただろう。


 で、ここに来て足だ。


 彼は血が吹き出る腿に、懐から出した布を素早く巻いた。


 ビャクヤの方は、ただ血まみれの顔を片手で覆っている。


 血で視界は狭まっただろう。足と視界……どちらが不利か。


 マドッグの思考は短かった。彼は足の傷など無視して、ビャクヤに向かって駆けるとその胸を蹴った。敵が疲労してる故の戦法だ。


 ビャクヤは胸部を板金鎧で守っている。だが板金鎧は重い。恐らく起きあがるのに隙が出来るはずだ。


 視界を阻まれて、蹴りをまともに受けたビャクヤの体はふっとび、キルバリーの部屋の木の壁を突き破り、隣の空間に落ちる。


 ──行ける!


 オリエの懇願するような瞳を振り切り、マドッグは駆けた。起きあがる前にビャクヤの首をかき切る。


 左手には使い慣れたハルパーがある。


 マドッグはビャクヤを追い、彼の破った壁をくぐった。


「は?」停止する。


 ビャクヤは予測どおりまだ起き上がれていなかった。蹴りのダメージが意外に大きかったのだろう。


 絶好の好機! ……マドッグはそれどころではなかった。


 ビャクヤの周りだ。


 暗闇だったが、ビャクヤが開けた穴からの光で異様に輝いていた。何があったか……水銀が垂れるほどの時間をかけマドッグは理解した。



 金、銀、プラチナのインゴッド……そして各宝石類。



 それらがわんさかと置いてある、隣の部屋はどうやら宝物庫だったらしい。 


「……わかった、わしの財宝もやろう……」キルバリーの命乞いだ。嘘だと思って無視していたが、実は大した物だった。不老不死の噂を聞いてやってきた連中から、かっぱいだのだろう。


 総合すると大金貨二〇万枚分はある。


「…………」マドッグは自分でも間抜けだと思いながら、提案した。





「戦う理由、なくない? ……やめようか」




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