マドッグと白矢1
「さてと、おまえらの冒険につき合ったし、いいか?」
ビャクヤに背を向けながら彼は問うた。
期待して旅をしていた、『死を超越した者』の愚かさ加減に頭を垂れていたビャクヤは、
「はい」と答えた。
「え? 何? 何のこと?」
一人オリエが困惑する。彼女は知らないのだ。決闘の約束を。
「思い残すことはないな?」
「あります」ビャクヤは即座に答え、マドッグの唇が緩む。
「だろうな、俺も金が欲しい」
二人はキリバリーの死体など無いかのように、彼の部屋で剣を構える。
片方は使い込まれたロングソード。もう片方は魔法のバスタードソード。
パン屋の息子・タフティVS異世界人戦士・皆部白矢。
マドッグが剣を構えた時、「ちょっと待ってよ!」とオリエが割って入る。
「こんなの聞いてないわっ! 決闘なんてやめて、お願いっ!」
しかし覚悟したらしく、ビャクヤの目に煌めく戦意は消えない。
マドッグは感心して、オリエに声をかけた。
「さっき言ったろ? 俺はソフィーのためになら何でもやる」
「白矢! やめて! もしあなたに何かあったら私……」
「織恵、俺は君が好きだ。愛している……このままずっと愛し続けたい。でもこの世界に来て戦士の礼儀を学んだんだ。だからこの戦いを受ける……約束だから」
「そんな……」
ぺたん、とオリエが座り込む。
「あんたは見届け人だ。どっちが勝ってもギルドに報告してくれ」
「嫌よ! そんなのイヤ」
が、彼女の抵抗はマドッグとビャクヤの決闘を止められなかった。二人は恐怖で動けないオリエに構わず、最後の決闘を始める。
最初に仕掛けたのはマドッグだ。彼は敵の剣の威力を知り尽くしている。受けに回ったら負けると判断した。
ビャクヤの反応は素晴らしかった。
ロングソードの突きを跳ね上げると、逆にバスタードソードで突く。
間一髪、マドッグはそれをかわした。だが革鎧が紙のように、切り裂かれる。