死者の国4
屋敷の三階はより豪華だった。赤々と火が燃える大きな暖炉があり、木の床にカーペットが敷かれており、大きな書架が幾つも置いてある。
その中心には安楽椅子に座った温和な顔の老人がいた。
「お初にお目にかかる、わしの名前はキルバリーじゃ。何用かな? 若き冒険者諸君」
はっとしたビャクヤが、ローブ姿の老人の前で礼をする。
「私はミナベビャクヤです。初めましてええっと、その……」
緊張からか口が回らなくなったビャクヤの代わりに、オリエが一歩踏み出した。
「私はホソキオリエです……『死を超越した者』に会うためにここまでやってきました」
「なるほど、なるほど」キルバリーは目元を皺だらけにして微笑む。
「だからわしか……うん、そうじゃ、わしは死を超越した。不死を得たのじゃ」
異世界人二人の顔が明るくなる。
「本当ですか! いえ、済みません、探していたので」
キルバリーがビャクヤに何度も頷く。
「よいよい、無理もない、中にはお主等を騙そうとした者もいたじゃろう。だがわしは正真正銘死を超越した……このアンデッドの巣に住み込んで三〇年かけてな」
マドッグは無言だ。ただ三人の遣り取りを表情を消して見つめている。大分片目にも慣れた。
「加藤君も岡部君もこれで蘇る」
「ほほう、お前さん達は死の淵から帰したい者が、いるんじゃな?」
「はい……あの出来ますか?」
「任せたまえ」キルバリーは胸を張る。
「ううむ……」がすぐに表情を曇らせた。
「しかしそれにはいくらか金が入り用じゃ」
「え!」ビャクヤとオリエは固まる。
「いくらくらいですか?」ビャクヤが恐る恐る訊ねたのは、彼にはブローデルを倒して貰った、普通金貨一〇〇枚があるからだろう。
「金貨一万枚じゃ」キルバリーは容易く二人の希望を打ち砕いた。
「そ、そんな……」オリエが力無く呟いた。
「そんなお金、いくらなんでも」ビャクヤも呆然としている。
「安心しろ」キルバリーはにっこり笑う。
「そうだと思って、もう一つの手がある。わしに手を貸してくれないか?」
「は?」
「手伝って欲しいことがあるんじゃ」キルバリーは寂しそうに目尻を下げる。
「何せわしはもう歳じゃ、お前さん達のような若者に、頼らなくてはならない……よいかな?」
「はい!」異世界人二人は大声で了承した。
「うむ、有り難い、ではこちらに来てくれ」
ビャクヤとオリエは手を振るキルバリーの近くに、言われるまま寄った。
「うむ、目をつむってくれないか」
「はい」頭を垂れ、二人は瞑目したようだ。
次の瞬間、マドッグは飛び出しキルバリーをぶん殴った。
「ぐわっ! 何をする!」
「え!」目を開けたビャクヤとオリエは安楽椅子から落ちたキルバリーを見て、非難の眼差しをマドッグに向けた。
「それはないぜ、お二人さん。命の恩人だぜ俺はっ」
マドッグはキルバリーが忍ばせていた、湾曲した短剣をも吹き飛ばしていた。
「こ、これは?」ビャクヤがぽかんとする。
「まだ気がつかねえのか?」
マドッグは床で蠢くキルバリーのローブを捲る。
「うっ!」目にしたオリエは口を押さえた。
キルバリーの脚は片方ずつ違っていた。片方は男のそれで、もう片方は女の細い脚。