死者の国3
「さあ、化け物退治だ」
「うう……」オリエが怯んでいるのが判ったから、マドッグは口笛を吹く。
「そんなにびびるなよ、奴らはでかいだけだ。動きは遅いし、力はまああるが、攻撃なんて滅多に当たらない」
その通りだった。フレッシュ・ゴーレムは反撃する間もなく、ビャクヤの魔剣に、奇術のようにバラバラにされた。
「いい剣だな」マドッグは勿論決闘で勝ったらかっぱぐつもりだ。これ程の魔力を宿した剣なんて見たことも聞いたこともない。
「出番は多そうですね」ビャクヤが肩を落とす。
マドッグが一つしかない視線を転じると、フレッシュ・ゴーレムが五体、のそのそと歩いて向かって来ていた。
「めんどくせー」
さすがに五体を片づけるにはそれなりに体力と時間を食う。だが最後の一体を倒した後はアンデッド達もなりを潜めて、随分楽な旅路となった。
「うーん」とマドッグは、突然目の前に現れた屋敷を見上げる。
それなりに豪華な造りだ。壁は煉瓦で漆喰により補強されている。建物は領主のマナーハウスのように大きく、三階建てで窓にはガラスも嵌ってあり、四角い煙突からは煙も出ている。
「これだろうな」マドッグは結論した。
目的地である。これしかないだろう。ネクラスの墓場の奥にマトモな人間が、ご大層な屋敷を建てるわけがない。
「そうでしょうね」ビャクヤの声が震えていた。怯えているのではないとは判る。恐らく感激している。ついに目的地にたどり着いたのだから。
「後は『死を超越した者』に蘇生の方法を聞くだけです」
実はそれにはマドッグも興味があった、ソフィーだけではなくレイチェルとルベリエの姿も頭によぎる。
──全てが元通り。
魅力的すぎる展開だ。
「突っ立っててもしょうがない」躊躇している二人を尻目に、マドッグは屋敷の、竜の顔をしたノッカーを鳴らした。反応はない。
「会いたくないそうだが、強引に会うか」
マドッグは異世界人達の制止の空気を無視して、扉を蹴破った。
「グモォォォ」
「あらぁ」とマドッグは肩を落とす。
中には番人よろしくフレッシュ・ゴーレムがいた。しかもご大層にカニのように腕を四本はやしている。
屋敷は流石に戦闘には狭い。しかし敵は動きそうにない。しんどい戦いになりそうだ。
最初に仕掛けたの先頭のマドッグだ。彼はのっそりと動く八本の腕の一本に斬りかかった。簡単に切断する。
だが、彼に向かって他の七本が迫る。
「マドッグさん!」ビャクヤがすかさずカバーに入った。魔法のバスタードソードの一刀で、一本失った側の腕残り三本を纏めて落とした。
「……その剣、滅茶苦茶だなぁ」
と、背後から歌が聞こえる。オリエだ。吟遊詩人の彼女が『声援』を使っている。
マドッグの体に力が沸いた。
「へぇー」感心する。これならかなりの乱戦でも戦えそうだ。勇士として選ばれるワケだ。
嵐が起こった。
片方の腕を全て無くなったフレッシュ・ゴーレムが、暴れ出したのだ。
折角の屋敷の調度品をなぎ倒す。
「こいつ飼っている奴は余程の忍耐力だな」マドッグは感心した。
「俺なら二日で元の空き地に捨ててくるね」
マドッグとビャクヤが暴走する敵から距離をとり、隙を見ては剣を突き出す。
知能のないゴーレムは、それでけで徐々に力を失っていった。
止めを刺したのはビャクヤだ。マドッグがフレッシュ・ゴーレムの足の腱を斬り、蹲った瞬間首を飛ばした。
見事な連携だった、思わず二人は空中で手を叩き合った。
『ほほう、まさかわしのクレイムを倒すとはな、よき戦士達だ』
突然屋敷内に声が響いた。否、それは彼等の耳だけに届いた呪いだ。
『よかろう、ここまで来るがいい。三階だ』
マドッグとビャクヤとオリエは三人顔を見合わしたが、それしか道はないので黙って従った。
二階は皆固く扉が閉まっている部屋ばかりだった。
異世界人達は早く三階に行きたがったが、冒険者として経験を積んだマドッグは二階の扉に手を触れる。鍵がかかっていた。「ふーん」と彼はかがんで鍵穴を見つめる。異様な臭いが鼻を突いた。
「なるほどね」ビャクヤとオリエは怪訝な顔をしているが、マドッグは残った目をつむる。
「行こうぜ、そのなんちゃらの所に」