結ばれる者たち1
皆部白矢は閉じられた扉の前で立ちつくしていた。
入るどころかノックも出来ない。
何だかんだで今までミュルダールと一緒にいたからだ。
──織恵、怒っているだろうな。
だが彼女には伝えなければならない。探索の情報がもたらされた事、それを得るためにブローデルと決闘しなければならない事。
──何て言われるんだろう……
白矢は怖くて固まるだけだった。
一度天を仰いで鼓動を整える。どうしても彼女と話さなければならない。
白矢は全身の勇気を振り絞り、扉を開けた。
「あ……」
細木織恵はいた。おまるの中の汚物を、窓から川に投げ込もうとしている所だった。
「ちょっ……」見る見る彼女の顔が赤くなっていく。
「どうしてよりにもよってこんな場面で開けるの!」
白矢が一言もないまま、織恵の怒声だけが響いた。
──無理もないなあ。
と、白矢は大反省する。
それでなくとも彼女らはこの世界の衛生問題、特にトイレ問題で苦労している。
なのに、その後かたづけをしている場面に出くわすなんて最悪だ。
「出てって!」織恵は奥歯をきりりと鳴らす。
「早く! いて欲しくないの! この無神経!」
彼女は有無を言わさず彼を追放したいらしい。
「待って、待ってくれ織恵……情報があるんだ」
白矢は必死に訴え、織恵の罵詈雑言を止めた。
「情報?」織恵はまだ怒りに満ちた表情ながら聞く気になったらしく、黙する。
「ああ、死を超越した者を知っている奴がいたんだ」
「本当?」
「ああ……ただ」
織恵の眉が跳ね上がる。
「ただ、何? また何かあるの? 隠さないで言いなさいっ」
「ああ。その情報を得るために、ある人物と決闘して勝たないといけない」
「え!」織恵の顔色が変わる。今までの怒りのそれから、不安そうな表情になる。
「決闘? 何それ……皆部君……白矢は大丈夫なの」
「判らない」白矢は正直に答えた。ブローデルの強さは昨日の騎士戦で目にしていた。
簡単には勝てないだろう。
「負けたら……どうなるの?」
当然の質問だ。白矢はしばらく黙った。