騎士と勇士8
ミュルダールはビャクヤを抱えながら、たった一人残り、震えている若い騎士を哀れに思った。
「ねー、この子ーどうするのー?」
だが答えは決まっている。
マドッグの視線が、先程から硬直しているマンサールに向く。
「わ、私は……関係ない! 元々戦うつもりはなかった! そもそも私の父はコンモドゥス王よりリキニウス公派なのだ……も、もちろん、身代金は払う。それでいいだろ? 貴様らを傷つけたわけでもない。そもそも私はこの戦いにも反対だった」
ビャクヤの重さを肩に感じているミュルダールは、顔を険しくする。彼女は忘れていない、先程自分を強姦しようと勇んでいた彼の姿を。
「ふん」とマドッグは一蹴した。
騎士は敵味方複数の領主と契約していて、こうして不利になると簡単に裏切る。だからミュルダールも彼を信じない。
「私の家からも復讐者が出るぞ! さすがの貴様らでも何人もの騎士を相手に出来まい!」
マンサールは精一杯凄んでいる。
「国からー逃げちゃうもーん」とミュルダールが考えを軽く口にした。
「追う、絶対に逃さない、だから私を殺してはならない」
「ふう」とマドッグは頭を掻く。
「なあミュルダール」と彼は魔道士に尋ねた。
「こいつらの死体、身元が分からなくなるまでに出来ねえか?」
「出来るー。つまりはー消し炭にすればいいー。証拠隠滅ー」
「で、ブローデル。教会はそれでも復讐権を認めるかな?」
彼は重々しく首を振る。
「かつて騎士達の復讐の連鎖は過激になりすぎましてな、今はエルジェナの慈悲、と言う法があり、確たる証拠と証人がいないと復讐権も認められません」
「決まりだな」
マドッグが頷くと、若き騎士マンサールの目が大きく見開かれた。
「あーあー、かわいそー」ビャクヤを抱きしめるように支えるミュルダールが嘆いた。