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騎士と勇士3

 剣を抜き、致命傷を避けて斬りつける。


 ふわっとミュルダールの姿が消える。


「何?」アルランは声を上げ、周囲を見回した。


 ハーフエルフの女は、全く別の場所に立っていた。


「全くー、私は二人かー、面倒だな……て嘘ー。この程度のー幻術にかかる騎士なんてー相手にならないよー」 


「くそ!」


 アルランは激しい足音を鳴らして走った。


 この生意気なハーフエルフに、自分がただの女であることをタップリと教えなければならない。


 だがそのアルランの意識が不意に薄れた。


 何故か酷く眠い。どうして重い鎧を着て走っているか、判らない。


 眠気はミュルダールに近づくたびに強くなる。アルランはついに片膝を着いた。


 眠くて眠くて仕方がない。


 自分の領地に帰り、女奴隷とベッドに入りたい。とにかく眠たい


「ふぉーる・すりーぷー」


 ミュルダールの目には、珍しく嫌悪の輝きがある。


「あんたらはさー、女にはー何をしてもいいとー本気でー思っているんだねー」


 彼女は忌まわしい物からそうするように、顔を背ける。


「ビャクヤくんとはー大違いー」


「貴様ぁ!」


 意味の分からない、判ろうとしないラリックが再び飛びかかる。


 その瞬間、ミュルダールの前に炎の壁がそそり立った。


「うぉーる・ふれいむー」



 ラリックは怯む。凄まじい熱量だ。着ているプレートメイルはすぐに熱を持ちだした。


「……ねえねえー、黙ってー帰ってーくれなーい?」炎の壁の向こうから、ミュルダールが語りかける。


「正直ー、君達はー最低だけどー、殺すのはなー……て思っているんだよー」


「異端の魔女め!」


 ラリックはバイザーを上げ唾を吐くが、炎で一瞬で蒸発する。


「く、くそ」しばらく睡魔と戦っていたアルランがようやく復活し、炎の壁の無い方向か

ら彼女に向かう。


「しつこいなー、無駄なー努力ー」ハーフエルフがうんざりした風に呟く。


「うぉぉぉぉ!」侮辱されたと思ったアルランが切れた。もうとにかくミュルダールを力ずくで押し倒そうと特攻する。


 多少の攻撃は板金鎧が弾いてくれるはずだ。


 意外な方向から阻止された。


 何故か炎の壁の前でまごついていたラリックが、体当たりをして来た。


 がしゃん、と金属がぶつかる音が響き、アルランとラリックは倒れてもみ合った。


「何をするかっ!」アルランが突如ミュルダールを守ったラリックを一喝するが、ラリックの開けっ放しのバイザーから覗く目は、とろんとして意志を感じさせない。 


「あああ、ごっめーんー! 言い忘れたけどーお仲間にはちゃーむ・まいんどのー呪文かけてたー」


 しっぱいしっぱいー、とミュルダールは頭を掻く。


「ふざけるな貴様! もう殺してやる!」


「うーん」とミュルダールは唸る。


「この状態でーそれかー。ならー」


 ミュルダールの表情が呆けた。


 同時にアルランの体が重くなる。疲労と乾きが対で襲い、重い鎧をもう持ち上げられない。


「ぶらいと・ぼでぃー……どうー? 帰るー?」


 しかしアルランと魔法が解けたラリックは、共に憎しみの目で彼女を見上げた。


 はあ、とミュルダールは形の良い唇を開ける。


「ここまでー色々やられたのにー……なら仕方ないねー」


 ミュルダールの目が氷のように煌めく。


「さようならー、らいとにんぐ・ぼるとー」 


 ミュルダールの杖から雷が発せられ、鉄に囲まれた二人の騎士を直撃した。


 その前の段階で動けなくなっていたアルランとラリックは、電撃をタップリと味わい、心臓が焼きつくまで痺れた。


「……ふう」二人の騎士の死体の前で、ミュルダールは木の杖に寄りかかる。


「疲れたなー、殺したくなかったからー色々使っちゃったー」



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