騎士と勇士2
騎士アルランはソーサラーミュルダールに、目を細めた。
彼女はハーフエルフだ、人間の肉感的な妖艶さはないが、美貌は人間の女以上である。
アルランは鉄兜の中で舌なめずりをした。
敵の女は犯す。それが騎士なのだ。特に相手が美女となると、やる気も出る。
アルランは慎重に歩を進めながら、何を考えているのか明後日の方向を見ているミュルダールに近づいた。
背後の二つの気配を思い出す。
ラリックとマンサール兄弟だ。彼等はサイレスの街を含めた一帯の領主であり、自治都市であるサイレスのお偉方を黙らせる切り札として連れてきた。
舌を打つ。
邪魔だ。
騎士と名乗っているが、ラリックとマンサールは戦に出た経験はないらしい。トーナメントでそれなりの戦果を出し、父の偉功で騎士に叙された。
「ラリック! マンサール! ここは二人でいい、一人はコクトーと合流しろ」
アルランの熊のような巨体に隠れていただけの、ラリックとマンサール兄弟が不満を全身で表す。
兜のバイザーの切れ目からそれを確認し、アルランの腹は熱くなる。
「早く行け! ハーフエルフの魔道士とはいえ女だ、三人かかりでは後々誇りが傷つく」
アルランは背後で、兄弟がこそこそと言い争うのを聞いた。
彼等も騎士だ、ルールは判っている。だから離れたくないのだろう。
ハーフエルフの女など今は珍しい。それもすこぶるつきの美女だ。彼等とて犯したいはずだ。
「安心しろ。あの女は生かしておく、捕虜としてな。後で尋問すればいい」
兄弟の諍いがなかなか終わらないので、アルランは優しい声音を作った。
不承不承の雰囲気があるが、弟のマンサールが離れた。最後まで惜しそうに何度も振り返り振り返り。
アルランは見送ると、ぼーとしているミュルダールに一歩踏み出す。
「いいかラリック」巨躯の騎士はラリックに命じる。
「敵に余裕を与えるな、あれはソーサラーだ。異端の魔法を使うぞ。しかし魔法には精神集中が必要だ、その暇を与えなければ勝てる……そうすれば」アルランの声が上ずる。
「お楽しみだ」
意味が分かっているラリックは何度も頷いた。既に早くなった息づかいが聞こえる。
──興奮するには早いだろうに。
アルランは若いラリックを内心嗤った。
「行け!」
ラリックはアルランの命令通り、ミュルダールに突撃した。