騎士と勇士1
コクトーはベルーガ要塞跡を目の前にして、ほくそ笑んでいた。
──まさかいきなり強襲されるとは思っていまい。
彼はマドッグ達を侮っていた。騎士らしく下層の民を軽蔑していた。
後は襲いかかり殺し、敵の武器や防具の質のいい物は奪い、女がいれば犯す。
コクトーもまた騎士の見本だ。
彼が背後に目をやると、同様にプレートメイルで完全武装した五人の仲間達が、続いている。
ただし彼はユベールを戦力として数えていない。
ユベールは女だ。女の騎士などコクトーは認めていない。彼女がベルリオーズの妹でなかったら連れてこなかったろう。
今も鎧を着ている姿に苛々している。
──女は男と結婚してればいいんだ。
コクトーはユベールから目を背けると、手で合図した。
放置され崩壊した要塞には穴が幾つも開いている。そこから一気に突入しようと言う作戦だ。
ルベリエではないが、騎士は固い鎧で守られている。
だから作戦も大ざっぱで単純だ。
「いくぞ!」コクトーが叫び、騎士達はマドッグ達を襲うために、要塞跡に踏み行っていった。
騎士ミシュレは長身をかがめるようにして要塞内に入った。
驚く。
こちらを待っていたかのように、恰幅のよい男が武器を構えていたのだ。
棘の着いた鉄球・モーニング・スターだ。
「地母神よ、我に勝利を」
ブローデルはモーニング・スターを持ち上げ、ミシュレに迫った。
ミシュレも素人ではない。
戦やトーナメントでそれなりに鍛えてきた。彼は咄嗟に敵の一撃を受け止めようと剣を持ち上げたが、ブローデルは剣ごとミシュレの兜をぶっ叩いた。
ミシュレの意識が遠のき、目が霞む。
プレート・メイルは剣には強い。しかし打撃武器には弱かった。
ブローデルはすかさず、モーニング・スターを横に振る。
ミシュレの腹部の鎧は歪み、どぐっと棘が突き刺さった。
彼は血を吐き、その場に片膝を着いた。
──話が違う!
ミシュレは自信満々のコクトーに唾棄したかった。敵は戦闘に慣れた強者で、騎士達を待ち伏せしていた。
彼も忘れていた。集まっているのはローデンハイム王国の中でも、有名な戦士達だ……だから勇士決闘に選ばれていた。
ブローデルの鉄球がまた持ち上がる。
「ま、待て! 待ってくれ!」それがミシュレの最後の言葉だ。