異世界人への誘惑
ミュルダールは自分が勝利すると判っていた。敗北など微塵も考えていない。
まあ、そもそもこの人のいい少年は負けても見逃してくれる、とは思っていたが。
とにかく当初の予定通り勝った。圧勝だ。
どうもこの世界の人々は魔法を異端と決めつけた時から、魔法に対する防備を失っている。ボガートとかもそうだ。
魔法使いと戦う時はもっと間髪入れず攻めねばならない。魔法使いが精神を集中する余裕を与えてはならない。
しかし白矢もボガートも、その他彼女が相手にしてきた敵達も、何故か魔法使いと向かい合い、正面から戦おうとする。
こちらが第一撃を繰り出すまで、それこそぼけっと待ってる。
──しょうがないなあ、
ミュルダールは嘆息しながら毎回圧勝している。
その後は大概殺している。手品の種明かしは一度きりなのだ。
だが今回の目的は違った。
ミュルダールは、氷りづけのビャクヤをしげしげと見つめ、熱く呟いた。
「やっぱり似てるなー」
彼女の元夫だ。
ミュルダールはこれで四〇〇歳だ。ハーフエルフはエルフよりは短いが人間などより余程長命だ。
だからこそ魔法の達人になったりする。
だからこそ、人間の男の心理を知悉している。
「ねえービャクヤー」
ミュルダールは彼の耳に囁いた。アホの血が疼く。
「この決闘ーチャラにしないー?」
「え?」案の定ビャクヤは驚く。
「私ねー、最近夜がさみしーの……君が私とー一晩共にしてくれたら、決闘忘れたげるー」
ミュルダールはビャクヤの温もりが欲しかった。欲しくなった。昔の夫に似た少年に愛されたい。アホな行為だとしても。
「そ、そんな!」
ビャクヤは耳まで赤くなる。
「出来るわけ無いです」
だが彼の目にちらちらと欲望の火が灯っている。仕方ない、ミュルダールは知っている。この位の年頃の男の子は、女の子への興味で一杯なのだ。
「いいじゃないー、君、恋人いないんでしょー」
「でも……」
「オリエちゃんもー、あなたをーどう思っているかーわからないんでしょー?」
「それは……」
「たった一度だけー、お願いー」
ミュルダールは深々と頭を下げる。
「私をー、助けてー、欲望に負けそー」
「あああ、あの」
「それともー」彼女の目が鋭くなる。
「決闘続けるー」
ビャクヤは何か考えている。頬を染めながら。
このまま決闘を、など不可能だ。もう彼は負けている。
ミュルダールは彼の内心を完璧に見抜いていた。理性と欲望が戦っている。密かに首元に息をふーとする。
「二人だけのー、ナイショにーするからー」
ビャクヤの頭ががくっと垂れた。落ちたのだ。
「うふふー、宿屋はー私のおごりー」
こうしてビャクヤとミュルダールは、一夜を共にすることとなった。
ハーフエルフのソーサラー・ミュルダールVS異世界人戦士・皆部白矢。ミュルダールの勝ち(童貞の白矢は、経験豊富のミュルダールにより何度も昇天)