ミュルダール2
ほぼ時間通りに二人は町外れ、二人が初めて出会った場所に訪れた。
ハーフエルフのソーサラー・ミュルダールVS異世界人戦士・皆部白矢。
「わーい♪」
ミュルダールはこれから行われる事が何か判っているか、謎の機嫌のよさだ。
「決闘てよく判らないんですけど、見届け人はいいんですか?」
白矢が辺りを見回しても廃墟しかなく、他に人影はいない。
「いいのよー、この子がーいるからー」
ミュルダールは崩れた建物の上を、指した。
「えっ」と白矢は声を出してしまう。そこにいたのは金色の目のフクロウだ。
「あのー」
「大丈夫ー、この子はー使い魔だからー」
勿論、大丈夫ではない。完全なルール違反だ。
しかし勇士決闘を初めてやる白矢は「そういうもんか」と、納得してしまった。
「いいですか、命のやりとりはナシですよ」
その白矢の認識がそもそも間違っている。勇士決闘は突端から成り立っていなかった。
「はーい」ミュルダールは何を考えているか判らない。
白矢は残念な事にこの世界で人を殺している。望んでではない。襲ってきた盗賊に応戦している内の、出来事だ。
最初、彼は倒れている人間に呆然とした。次にそうしてしまった自分を嫌悪した。ゴブリンやオークは明らかに人とは違う。
どこかそんな線引きをしていた彼だが、足元の人間からは言い訳が、浮かばなかった。
しばらくは罪悪感で引きこもり、悪夢にうなされ、食事も喉を通らなかった。
盗賊の襲撃は続いた。白矢は剣を振るい今度は二人殺した。
今度は何事もなかったように受け入れ、そんな自分に恐怖した。
人を殺したのだ。
彼は密かに悩んだが、この世界に生きる宿命として同様の事態が何度も起こり、もう人間の死体に過度な反応をしなくなった。
だが勘違いはしていない。
皆部白矢は人を殺すのが嫌だ。
「でもねー」ミュルダールは片目をつぶり、白矢をドキリとさせる。
「女の言うことをー簡単にー真に受けたらーダメよー」
「え?」
「勇士決闘はー相手がー死ぬまでー終わらないのよー」
「そんな! 話が違います!」
「女の話しはー毎日違うのよー」
白矢はここでミュルダールに嵌められたと悟った。ぼんやりとしている風のミュルダールは、遙かに考えていた。
「ちょっと待って下さい!」
白矢は焦った、だがミュルダールはもう木の杖を構えている。
「さあー、楽しいー決闘をしましょー」
白矢は盾を構えた、もう仕方ないのだ。わざと敗北するほど彼も人は出来ていない。
「うふふー」ミュルダールは笑う。
「鎧はー着てこなかったのねー」
そう、白矢は鎖帷子とキュイラスを織恵の元に置いてきた。彼女へのアリバイとしてだけではない。あの後、ボガートの死骸をよく観察した。
結論として、魔法には鎧など無意味、だ。
ボガートの鉄鎧と鎖帷子は、どんな魔法を受けたのか半分溶けていた。
魔法は避ける物……白矢はそう判断して、今回ただの麻の服だけでやって来た。
ルベリエとやらとの決闘で穴だらけになった木の盾は、一応持ってきている。盾は実はあまり便利な物ではない。
彼が元の世界で好んでやっていたドラゴン○エストでは重要な装備だが、実際装備すると、こんな邪魔な物はない。かさばるし重いし視線も遮る。
それでも手にしたのは、魔法の一撃でも防げるかと、期待したからだ。
「ふんふーん」
ミュルダールはぼけっとした顔で鼻歌を歌っている。何を考えているかさっぱり判らない。
「さんだーうぃっぷー」突然だった。