誘い
皆部白矢は借りた宿の一室で悩んでいた。
ベッドにはすっかり臆病になった細木織恵が寝ていて、「喉が渇いたよー」とか「お腹がすいたよー」とか要求してくる。
──どうしよう。
そもそも白矢達が仲間から離れて旅に出たのは、死を超越した者に会うためだ。なのに織恵ときたら、ベッドで我が儘放題になっている。
しかも彼はミュルダールとの決闘を控えているのだ。話せば、当然凄い勢いで反対されるだろう。
「あのー、織恵」白矢はボロを出さないように話しかける。
「なにー?」
織恵はどこかほわんとした、返事を返す。
「俺は今から少し情報収集に出ようと思うんだ」
「何の?」
「何のって、死を超越した者の」
織恵はようやくベッドから半身を起こす。
「……無理だよ」
白矢は驚いた。織恵が真剣な顔で、否定したのだ。
「何言ってんだよ、俺達はその為に……」
「この世界は危険なのっ!」らしくなく彼女は、大きな声を出す。
「でもそれじゃあ皆の元へ帰れないし、元の世界にも帰れないよ」
織恵はぷうっと膨れて、またベッドに横たわる。
「……わかったよ。でも白矢、ちゃんと装備は整えてね、油断しないで……て、私も行こうか?」
白矢は慌てて手を振る。
「大丈夫だよ、余計な諍いは起こさない。織恵はここで休んでいて」
「うん?」織恵の眉間に皺が寄る。
「何か隠してない? 白矢」
恐るべし幼馴染み……白矢は背中に汗を掻いたが、顔には出さなかった。
「隠してないよ……ほら、鎧は必要ないから置いていくから織恵は待ってて、夜には多分帰ってくる」
織恵は納得していないようだが、不承不承頷いた。
「判った、早く帰ってきてね……私のトイレもあるし」
「ああ」
白矢はミュルダールとの決闘の場に急ぐ。