死の冬2
それを人間はエルフのせいにし、エルフは人間のせいにし、ドワーフやハーフリングは無言で背を向けた。
世界の種族達の深刻な対立である。
各種族の異種族に対する嫌悪は根深く凄まじく、交流どころか、顔を合わせれば暴力ざたになる。
ミュルダールのようなハーフエルフ達は、一瞬で姿を消した。
中には迫害され、人知れず殺された者もいるはずだ。
だが彼女は平気でにこにこ街を歩く。一片も恥じる事がないからだ。
ミュルダールの父は人間で、母はエルフだった。
二人とも風変わりな人だった。そうでないとこのご時世エルフと人間は結ばれない。
父は戦士……へっぽこ戦士で、母は昔の知恵から、人間が『異端』と恐れる魔法の使い手だった。
戦士の父だが冒険者には向いておらず、迷宮のアラームと呼ばれる罠にひっかかり、多数のオークやトロールからネズミのように逃げている所に、母と出くわした。
母は魔法でそれらを一掃し……なんやかんやで、二人とも恋に落ちた。
当然、両者の関係者はその付き合いに激しく反対した。エルフと人間なんて彼等にはあり得なかった。
だから二人は親しい者との縁をすべて切って、結婚した。
誕生したのがミュルダールと、妹のシャナだ。
ミュルダールは万事呑気で、細かな妹に叱咤されて成長した。
二千歳を超えていた母から魔法を学び、その才はあったのか、名うての魔道士となった。
彼女が人里に下りたのは、父が死んだからだ。
あっと言う間だった。
ほぼ寿命のないエルフと、二千年は生きるハーフエルフにとって、百年足らずの人生など一日のような物だ。
父は老い、ミュルダールとシャナと妻を心配しながらこの世を去った。
ミュルダールが人里に興味を持ったのは父の影響だ。父はどこか抜けていたが、いい人だった。
娘二人に母に内緒で少し悪い遊びを教えたり、イタズラで母に滅茶苦茶怒られているミュルダールを涙目で庇ったりと、他のエルフの舌の上の人間とは明らかに違っていた。
ミュルダールは、人間に慣れていたのだ。
彼女が旅立つのを母と妹が複雑な表情で見ていたが、ミュルダールは生来ののほほん機能を発揮して「大丈夫、大丈夫」と、出て行った。
あまり大丈夫ではなかった。




