ハーフエルフと異世界人2
「何だろう? あの人」
やや頬染めてぼんやりとしている白矢に織恵は飛びついた。
「怖かった! ……ほんとに……きてくれてありがと」
白矢の胸の鎧に頬を着けて、織恵は泣き出した。
「あ、ご、ごめん。全力で急いだんだけど、色々あって……」
白矢は何か誤魔化しているが、半分計算で抱きついた織恵は、脳裏にミュルダールの端正な姿を思い出し、彼に回している腕に力を込める。
女の勘が黄信号を灯らせていた。
マドッグ自分の家に帰れたのは真夜中だった。
冒険者ギルドに応援を呼んで、ルベリエの遺体を埋葬して貰ったのだ。ギルドの面々視線は冷たい。何せ数時間前レイチェルについて頼んだばかりだからだ。
「仲間殺し」とマドッグを非難する密かな嘲罵は、届いていた。
だがマドッグの気分はそんなに悪くはなかった。彼はもう冒険者ギルドから、離れるつもりだった。
──今度こそ真っ当な生き方をする。
それについて彼は少し調べた。
鳥刺しも提灯持ちも当然、楽な仕事ではなかった。
鳥刺しは鳥を捕まえるための罠や、トリモチについて学ばなければならない。提灯持ちにはランタンがいる。
正直、賃金なども大したことがない。
だが少なくとも妙な諍いに巻き込まれる事はないし、命を張る必要もない。
──ソフィーに伝えよう。もう危険なことはしないと。
上機嫌でマドッグは家の扉を開いた。
途端、剣呑な雰囲気が覆い被さってきた。
真っ暗なのだ。本来ならソフィーが獣臭い獣脂の蝋燭に火を灯して、待っていてくれる筈だ。
さらに……なにか生臭い。はっきり判る血の臭いだ。
マドッグの上機嫌は吹き飛び、大きな不安に襲われた。ソフィーも見えない。
「ソフィー! どこだ? ソフィー!」
震える手で火打ち石を打ち、テーブルの上の蝋燭を手に取り火を灯す。
誰もいない……誰かが暴れたような跡……否! ソフィーが倒れていた。
「ソフィー!」マドッグが慌てて駆け寄ると、ぐにゃりとした何か肉塊を踏んだ。
「ソフィー!」彼女のスカートは血まみれだった。




