ボガートとミュルダール3
だが、それは幻だった。
ハーフエルフは下りてこなかった。
「ふぇざー・ぼでぃー」声は上空から聞こえた。「A~nd、らいとにんぐ・あろー!」見上げたボガートの顔面に、雷の矢が突き刺さる。
「ぎゃあああ!」ボガートは顔を片手で覆い、もう片手で斧を辺り構わず振り回し、周囲の瓦礫を破壊して、散らかした。
「あああー、被害甚大ー。しょうがないなぁー。殺そー」
ミュルダールの焦りの声が上がる。ようやく着地した彼女は、冷ややかな眼光を向けていた。
「ま、待てよ……判った。この女は諦める……だから……」
ボガートは命乞いしようとした。嘘だ。それで場をやり過ごして隙を見て、反撃しようと考えた。
「ふぁいやー・ぼーるー!」
ボガートは自分の致命的な失態に青ざめた。
敵の回避の跳躍に合わせて攻撃する。考えはよかった。だがソーサラーには落下速度を遅くする、手品みたいな魔法があったのだ。
「ふぁいやー・ぼーるー!」
その声を聞いたと時、彼は敗北と死を悟った。
手には長い間、共に敵を屠ってきた戦斧がある。常に彼の側にあり、彼の期待に必ず答えてきた唯一の物だ。しかしそれは今全く役に立たない。
──お前もか?
ボガートは戦斧に語りかける。
──お前も俺を裏切るのか?
脳裏に彼を非難するギメラと、彼を愛さなかった母の姿が、浮かぶ。
──俺は……ただ……誰かに……近くに……。
強力、凶暴な炎がボガートの体を一瞬で包んだ。
悲鳴もなかった。ボガートは炎の中で息が出来なかったのだ。彼はその場に転がる暇もなく、真っ黒に炭化した。
ボガートは自分が敗北して死んだと、自覚さえなかった。
彼は遂に、誰にも愛されず、誰をも愛さず死んだ。
オークの血族ボガートVSハーフエルフのソーサラー・ミュルダール。ミュルダールの勝ち(魔法激強)