運命
立ち上がりしばらくルベリエの死体を見下ろす。レイチェルとは違い穏やかな顔をしていた。
レイチェル……まだ瞼にフラッシュする。活き活きとした彼女の肢体。魅力に溢れた一挙一動……しかし。
もう彼女はいない。ルベリエもだ。
たった二日でマドッグは、数年間も生死を共にしてきた仲間を失っていた。しかも決闘なんて下らない行為で。
それだけではない。もう冒険者ギルドにも彼の居場所はないはずだ。
ルベリエの策略だとしても、仲間を無意味に手にかけた彼と、パーティを組む奴がいるとは考えられない。
マドッグは「仲間殺し」として孤立し、冒険者家業もままならないだろう。
一人ではゴブリンの巣だって危険だ。
何があるか判らない、一寸先は闇が冒険なのだから。
だが、それで逆に吹っ切れた。
「なあルベリエ……」マドッグは物言わぬ屍に、語りかけていた。
「俺はもう冒険者家業から足を洗わなければならないみたいだな。あんたの生き方で判ったよ。鳥でも捕ったり用心棒兼提灯持ちをして暮らすさ、俺のために……何よりもソフィーのために」
マドッグは仲間の血で汚れたハルパーを、腰に下げた。
「そうさ、俺はもう戦う人生を辞める……冒険者はうんざりだ! ソフィー」
当人達の知らない所で運命は決まろうとしていた。
ワイズニスの教会では、教会裁判が行われていた。
原告はワイズニス領の領主だった騎士ベルリオーズの親族。被告はコンモドゥス王。証人はベルリオーズの元従者ハワード。
司祭は顔色一つ変えない。被告の席、王の席が空だとしても。
だが、ならば判決は一つだ。
「ベルリオーズ卿の親族に復讐権を認めよう。マドッグとやらへの報復を許可する」
当然だった。騎士は体面を重んじる。
例え王が決めたとしても、騎士の復讐を妨げる事はできない。
むしろ責められるのが嫌だからコンモドゥス王は教会からの召喚を無視し出席しなかったのだろう。王など騎士に命令さえも出来ないのだ
原告席の数人の男女が、立ち上がった。
ベルリオーズの親族の騎士達だ。
こうして彼等のマドッグへの復讐は始まった。