戦士ルベリエ4
ややあって彼が口を開き、ルベリエは愕然とした。剣の一撃を紙一重でよけ損ない、額に傷が出来る。
「く!」
ルベリエは畳みかけてくるビャクヤの剣を、巧みに右手のパタでやり過ごすと、左手のカタールを突き出す。
再び異世界の盾に穴が開いた。
──くそっ!
ルベリエは悪態をついた。目の前の異世界人でもマドッグでもなく、己自身に。
──何て俺は間抜けなんだ! どうして利用しようとしていたマドッグに心底頼っちまったんだ! とっくに裏切った奴に何故、期待したんだっ!
目に汗が入り周りがぼやける。呼吸はすでに喉の奥からの異音だ。
不愉快な熱が頭で鼓動し、足がふらついた。
──畜生! この小僧と本気で殺り合うと判っていたら……魔法の武器なんか持っていると判っていたら、頭狙いにフレイル、鎧は無意味だから軽装の革にしたのに!
ビャクヤは攻撃を辞めない。
魔力の青い光を纏った剣が、跳ねるように突進する。
「おおっ!」
ルベリエは叫び向かってくる剣から頭を外した。ラメラーアーマーの肩の部分が切り裂かれ、ざっくりと刃が入る。
ルベリエは怯まなかった。これは好機だ。剣が肩にある今が天秤の揺れの最後だ。
彼は二つの剣を同時に突いた。
ビャクヤの反応は早かった。盾でパタを受けると更に前進して、ルベリエにぶつかる。
超近接戦闘。
これまで何度もあった状況……だがルベリエは「うっ」と呻くだけだ。
パタとカタール。二つの武器は拳を延長するような構造になっている。つまりここまで近づかれると、手首が動かない為攻撃する術がない。
ルベリエはどちらかの剣を手放し、腰のダガーを抜くべきだった。
出来なかった。
手の指が言うことを聞かなかった。
次の瞬間、ビャクヤは後方に跳びながら、ルベリエを肩から斬った。
魔法のバスタードソードは、ルベリエの鎧など無かったように彼の胸まで食い込む。
ようやくルベリエの左手からカタールが落ちた……遅すぎる。
ルベリエは開いた手で異世界人を捕まえようと伸ばした。遠い、あまりにもビャクヤとの距離は遠すぎる。血が噴き出し、ルベリエはその場に倒れた。
戦士ルベリエVS異世界人戦士・皆部白矢。白矢の勝ち(老い)