戦士ルベリエ1
戦士ルベリエVS異世界人戦士・皆部白矢。
ルベリエは未だマドッグを騙っていた。だがその当人も傍らにいる。
作戦だ。勇士決闘を勝ち抜く為の。
内心ほくそ笑む。どうしてか異世界から来た戦士は酷く慌てているようだ。
──が、これでいい。
焦りは力を削ぐ。ルベリエは長い冒険者生活で学習していた。
ルベリエは尚万全を期すために、相手をよく観察した。
武器はバスタードソード。盾はオーク材で作られた本来弓兵が使うタージ。鎧はチェインメイルと上半身だけの板金鎧キュイラス。兜は被っていない。
──以外と考えている。
ルベリエは異世界人は侮れない存在だと、感心した。
そもそも野での戦いに重厚な鎧や鉄で補強された大きな盾など不要だ。彼自身が騎士ベルリオーズにやった通り、激しく動くと重さと暑さで戦いどころではなくなる。
鎧も盾も大げさな物ではなく、最小限でいい。
かく言うルベリエも、ベルリオーズを倒して得た金で金属板を連ねたラメラーアーマーと、その下にチェインメイルを買っていた。
「どいてくれ! 決闘は後で必ずやる」
ビャクヤとやらが必死に訴えるが、相手の懸念を払拭してやる程ルベリエは優しくない。
彼は右手にガントレットから直接伸びている剣・パタと、左手にはやはり手首を延長したような短剣・カタールを持っている。
宿屋の関係者から、異世界人の装備を何となく聞いていた故の判断だった。
両方とも構造上突きに強く、木の盾などすぐに貫く。
「用意はいいな?」
ルベリエが訊ねると、異世界人は観念したのか、バスタードソードを構えた。
ちらりと背後に視線を投げると、本物のマドッグが腕を組んで見ている。
──よし!
ルベリエが突いたのはルールの穴だ。……一度勇士と決闘をした者ともう一度決闘をするときは一日あけること……だが勇士以外と決闘した後は……とは言われていない。
ルベリエがまず決闘し疲労なり手傷などを与えてから、マドッグが出張り敵を倒す。どんな戦士も真剣勝負には神経と体力を使う。二連戦は堪らないはずだ。
異世界人は無言で斬りかかった。
簡単に右のパタで受けた。がりっと嫌な音と共にパタの刀身が削られる。
ルベリエは目を剥いた。計算違いがあった。
異世界人ビャクヤの剣が普通ではない。異常な切れ味……恐らく魔法のかかった魔剣だ。
ルベリエの背中は痺れた。
鋼鉄さえ切り裂く魔剣。その噂は聞いていた。昔、それに属する短剣も目にしたことがある。だがバスタードソードの大きさでの魔剣は、長い冒険者人生で初めてだ。
──こいつ!
ルベリエはバックステップで相手の間合いから離れつつ、考えた。
──どうしてその得物を売らないんだ?
魔剣は当然かなりの値がつく。バスタードソードとなると、普通金貨百枚どころではない。王侯や騎士達が、血眼で群がる代物だ。
何せ奴らは固い、だからなかなか倒せない。そんな相手の防具をチャラに出来る。
かっぱぎが主な仕事の冒険者なら、とっとと売ってしまうのが筋な筈だった。
ビャクヤが素早く間合いを詰め、剣を斜め上に一閃させる。
ラメラーアーマーの金属板の数枚が簡単に吹き飛んだ。
「くそっ!」
ルベリエは後退しつつ額の汗を拭おうとしたが、右手はガントレットの中だ。
──負けるわけにはいかない……騎士どもに目に物を見せてやらないと。
歯を食いしばるが、虫歯でほぼ無い奥歯と腫れた歯茎が激しく痛む。
ルベリエは実は本来、冒険者になる必要のない人間だった。
彼は裕福な商家の長男として産まれ、ゆくゆくは父の跡を継ぎ、雇っている職人達を管理していればいい、恵まれた身分だ。
だが彼が八歳の時、運命が変わった。