異世界転移者7
嫌な予感は本当にある。
実際、皆部白矢は飛び起きた。大きく見開いた目で辺りを見回す。
宿の部屋、織恵はいなかった。
──いつの間に寝てたんだ?
白矢は、うっすらとしか光の残っていない空を窓から見つめた。
何か妙な感じがした。心臓がどきどきする。
「細木さん……」呟きは木の床に落ちる。
彼女が心配だ。一人で出歩くなんて無謀すぎる。だがはやる気持ちを持て余すしかない。
どこにいるかも判らない。
白矢は何となく背負い袋から鎧を出し装着し、壁に立てかけた木の盾を手にしていた。
戦士の本能だ。それは当たる。
一匹のネズミが飛びこんできた。
「な!」と仰天する白矢に、灰色のネズミは叫ぶ。
「助けて! 西の町外れ!」
十分だ。
白矢はバスタードソードをひっ掴むと外に飛び出した。
織恵の危機に駆けつけなければならない。
なのにその白矢の前に、二人の男が立ちふさがった。
「情報通りだな、いたな……あんたが異世界人だろ?」
「どいてくれ! 急いでいるんだ!」
「そうはいかない」
語りかける男は中年の口ひげの男だ。その傍らにいるのは目つきの鋭い二十代位の男で、左肩を怪我しているのか、真新しい包帯を巻いている。
「誰だ!」白矢の誰何に、口ひげの男が口を歪めた。
「マドッグさ」




