異世界転移者5
最悪の出だしだった。この街にはあまり長居できそうにない。勇士決闘にボガート。座したままでいられる案件ではない。
嘆息が止まらぬ白矢だが、街の宿はいい方で、二人の憂いが少し和らいだ。
二人部屋の個室だ。
この世界ではとても珍しい形式だった。
普通の宿、彼等がこれまで通り過ぎてきた所は個室ではなく、ベッドが置いてある部屋に誰がいようと、通されるだけだった。
だから相部屋など当たり前で、時にはベッドの数より泊まる人の方が多かったりした。正直これには参った。
何せこちらには年頃の少女がいるのだ。しかもさっきのような厄介ごとが起こる見目麗しい娘と。
白矢は相部屋になった男達に警戒して、碌に眠れなかった。
それがもし旅の娘達でも、油断できない。
今度は織恵がぴりぴりした。何せ彼女らは平気で部屋のおまるに大小便をする。もちろん局部を丸出しで。
白矢はその気まずい瞬間と臭いにどうしていいか判らなくなり、どうしてか顔を赤くして怒る織恵に、部屋から叩き出された。
不便な世界である。
白矢は織恵を藁にシーツをかぶせただけのベッドに降ろすと、自分もそのとなりのベッドに腰を下ろした。
ショック状態だった織恵だが、芯の強い娘である彼女は、すぐに何もなかったように立ち直り、ただ四角い穴だけの窓から街並みを見つめた。
「加藤君と岡部君……大丈夫かしら」
「うん、きっと大丈夫さ。このローデンハイムのどこかに死を超越した者がいるらしい。その人にあえば」
織恵の顔がぱっと明るくなる。
「またみんな……二八人で旅が出来るのね」
「ああ、だからもう少しだよ」
皆部白矢は倒れるようにベッドに転んだ。
ただ体勢を変えただけのつもりだったが、いつの間にか彼は深い眠りに落ちていった。