その魔王の名は
少し短めです
男は息を飲む。果たして笑っていた彼女と今の彼女が同じなのか疑うほどの気迫が今の彼女にはあった。腰を抜かしてしまうかと思うほどの圧が男を襲った。YESと言わなければ殺される。冗談ではなくそう思った。答えを言うまでの数秒が、まるで幾年にも感じられるほどに緊張感が高まっていた。
「…俺は、これからこの国を治めるという意思も度胸も持ち合わせている。」
やっとの思いで言葉を口にする。言い終わった後も冷や汗は止まらず緊張感が男を縛る。しかし、それとは裏腹に女性は、男の答えを聞いた途端ふっと威圧を弱めまた楽しそうに笑った。その様子を見て男もほっと息を吐く。
「アハッハッハッハッ、ウフッ、うふふはははははっ──…!!いやぁ、面白いね、君。私の威圧に耐えるかぁ。ふんふん、確かにカルディティの選んだやつは期待を裏切らないね。」
男は女の言ってることがよく分からず目を白黒させる。男の鮮やかな水色の瞳には再び困惑の色が見て取れるようになった。
「いやぁ、済まなかったね青年。紹介しよう。私は前代赤『レディアウス』だ。カルディティが死ぬ間際に私に君のことを託して行ってね。だけど私は彼の実力を認めていたし、これからも青とは友好国でありたかったから、ろくな奴じゃなかったら命を狩り撮ろうかとも思っていたけれど。」
男は少し怯んだ表情をし彼女から1歩離れた。
「いやいや、心配するな青年。君は私の威圧に耐え、さらに言葉を発することが出来たんだ。その辺にいる木っ端魔族よりも確かに強い。それにね、君の瞳はとても綺麗だ。失うことの怖さと、守ることの大切さを知っている目をしている。君は間違いなく合格だよ。おめでとう、これから存分にこの国を繁栄させて欲しい。」
「はい、承りました。前魔王カルディティ様の意志を継ぎ繁栄させると誓いましょう。」
男は頭を垂れる彼女と向き合った。これは、魔族間での目上の人への最大の敬意の表れであり、それと同時に自分の目標を確実に遂行するという意志の表明でもある。
男の行いに、女─レディアウス─は満足気に頷く。
「まぁ、そうと決まったら色々と君に教えなければならないのだけど…その前に。君にも名前がなければいけないね。自分の魔王名は代々自分でつけるのがルールだ。自分の名前を決めなさい、今代青。」
「自分の名前…」
男は考える。自分がどういうふうに政治を行ない国をどうしたいのか。そう思っているとふとひとつの名前が頭に浮かび上がってきた。
「俺…私、私の名前はラゲルト。青の魔王『ラゲルト』です。」
「ほぅ、ラゲルト。いい名前じゃないか。星と闇を司る王ねぇ…これは面白くなりそうだ。その名前に恥じないように立派な王になってくれることを私は望むよラゲルト。」
「──星と闇を司る…?」
「おっと、口に出ていたかい?気にしないでおくれ、こっちの話だ。さてラゲルト。さっきも言ったように私は君の世話係だ。魔王として何をどうしなければならないのか伝えていくよ。──…ふむ、この部屋じゃ少々話がしづらいね。場所を変えよう、青の城は話し合いの場になることが多かったから会議室的なものがあるはずだ。」
レディアウスは迷いの無い足取りで青の城を進んでいく。ラゲルトは置いていかれないように彼女の後ろをついて行った。