今代青の魔王の誕生
その日、その場所で男は目を覚ました。少し襟足の伸びた漆黒の髪に耳の上にあるふたつの角は少し青みがかっている。整った顔立ちのその男の瞳には動揺の色が浮かんでいた。
そこは青の魔王の城。男は、前代青に選ばれし今代の新たなる青の魔王であった。
男が目覚めた場所は城の最深部、玉座の間であった。黒が基調のその大きな部屋の天井には鮮やかな青のシャンデリアがふたつほどぶらさがっている。壁や床にも青い色がところどころ散りばめられており、「青」であることを象徴するかのようにまぶされていた。
部屋のほぼ中心部、少し段差を挟み置かれた大きな椅子もまた綺麗な青い色をしていた。青というより水色に近い、鮮やかな色である。しかしそれは不思議と黒基調の部屋によく似合っていた。
玉座から出入口と思われる重苦しい扉まで敷かれる長いカーペットもまた、鮮やかな水色をしていた。
「ここは…一体…」
玉座の段差を降りた先のカーペット上で、立ち上がった男は当たりを見渡す。ちょうどその時、男の目の前の大きな扉がゆっくりと開かれた。
入ってきたのは男より頭一つ背の低い、スタイルの良い女性だった。腰まであるカールした真っ赤な髪に短めの真っ赤な角。谷間が見える、肩が出た人魚型ワンピースを身にまっとっており、それもまた鮮やかな赤である。白い肌によくあっていて色気がある。
「ようやくお目覚めになったのね。」
赤く彩られた口でそう口ずさみながら彼女はゆっくりと男の元へ近づく。
「ここは一体どこなんですか…?俺はどうしてこんなところに…」
動揺を隠さず話す男に、男の目の前で立ち止まった女性はクスリと笑う。
「ここは青の魔王の玉座の間。代々青の魔王が人を招くのに通した青の魔王の城の最深部よ。」
「──……まさかっ…」
話を聞き顔色を変えてそうつぶやく男に、「気づいたみたいね。」と女は楽しそうに笑う。そしてこう続けた。
「光栄なことよ。あなたは前代青『カルディティ』に選ばれた今代青の魔王。」
信じられないというかのように目を瞠る男。その様子を見て女性はさらに楽しそうな笑い声をこぼした。
そしてしばらく笑い、落ち着いてきたところで女性は一言告げる。
「あぁそういえば、一つ確認しないことがあったんだ。」
そして女性は纏う雰囲気をガラリとかえ、見透かすように男を見据える。
「答えよ。お主はこれから今代の青の魔王として、青の国『ブルボア』を治める度胸と意思は持ち合わせているか。なお、持ち合わせていない場合即座に私がここでお前の胸を貫く。さぁどうする。」