2人でお泊り会をしてみたのですの
トントン、とアンジェの部屋にノック音がし、アンジェが駆け寄って戸を開いた。
ペンキとそのブラシを背負ったオリバーが立っていた。
息を切らし、ぜえはあとペンキだらけの顎を自分の手で拭うと、オリバーは笑い出した。
「やっと部屋を見つけましたのよぉ! アンジェ! これから毎日押しかけてやりますわ!」
アンジェの部屋を見失わないように、すべての城全体の壁に線を引いて消去法で見つけ出したオリバーは、その達成感に包まれていた。ついにアンジェの部屋をを見つけ、これからは部屋に押し掛けることが出来るのだ。
アンジェはそんな様子のオリバーを見て、きょとんとしていた。
「お姉さま、もう夜ですわ。こんな夜に来て、もしかして心配して下さったんですの?」
「ま、まあ? 恋のライヴァ~~ルがいなくなっては、張り合いがございませんもの! 歌唱の練習に来たことを、褒めて差し上げようとおもったのですわ! オーホホホホ!!」
その言葉に、アンジェは午前中の歌唱の時間にオリバーを助けたことを思い出した。
オリバーはきっと、アンジェ自身にお礼が言いたいのだ、と。
「もちろん、助けたのは騎士としての務めですの。 オリバーお姉さま!」
「な、助けた!?」
その言葉にオリバーは動揺する。たしかに、オリバーが気付けば機械甲虫はいなくなっていた。
「消えた機械甲虫がどうなったかは知りませんが、貴方に助けられた覚えはありませんわぁ~~!」
その言葉にアンジェは、シュンとなった。
ざまあみなさいと思いながら、オリバーはさらに追い打ちをかけようとする。
「フン、なら証拠を見せなさい! 私を助けたという証拠を」
そう言われてアンジェは考え込むと、ハッとなって下を指さした。
オリバーが下を向くと、ポトつむりがうねうねと触手を伸ばしてオリバーを観測しているのが見えた。
「なんですのぉーー!?!!」
オリバーの叫び声が木霊する。
「しー!! 深夜ですの! オリバーお姉さま!」
足元をばたつかせ、機械甲虫に触れないようにタップダンスを踊りながら、アンジェの部屋を駆け回るオリバー。その後ろを、機械甲虫のポトつむりが踏まれないように動揺し、逃げ回りながらクルクルとお互いまわり合っていた。
「ど、ど、どうして、機械甲虫が!?」
「保護したんですの」
冷静に自分の部屋の中を回り踊るオリバーとポトつむりを眺めながら、アンジェは言った。
「助けたついでに、保護しないで頂戴!!」
怒り心頭になりながら、オリバーは長いドリルのツインテールを振り回しながら逃げつつアンジェに突っ込む。
しばらくして、ポトつむりもオリバーも疲れ切って、アンジェの部屋に倒れ伏していた。
ハッとオリバーが目を覚ますと、見知らぬ天井が上にあった。
「ここは……どこ? 何故、私はここに?」
気が付けば、ボロッちいソファの上に腰かけ、首が寝違えるように上を向いていた。
傍には大きな窓があり、窓枠の装飾から、城の古い部屋の一室であることが分かった。
ツインドリルが自分の肩の上に乗っけられていることに気付く。誰かがこうした、とオリバーには分かった。
「気が付いたんですの?」
うっすらとした、透明な声。どこか深淵と悲しみを思わせながらも、しっとりとした優しさを感じる声だった。誰の声か分からない。この神秘的な声は誰だろうか。
「だ、誰ですのぉ!?」
魅かれるのが分かると同時に、その薄っすらとした部屋の中の気配。
ぼんやりと、ソファの近くにある影が瓶底眼鏡をしていることだけが意識できる。
何か思い出せそうで思い出せないオリバーは、ドリルを手で払い。睨みつけるようにその影しかない人物を目で追った。
「私ですの。あなたの妹の、アンジェですの」
その名前に記憶はない。だがどこか、好ましい声である事だけが分かる。
誰だろう。誰か思い出さないと、誰だろう。
なぜか焦りがし、汗が頬ににじむ。顎にしっとりとしたペンキの匂いがし、手で触れた。
見ると、手には”あなたの妹、にっくきアンジェを追え”と走り書きで、何度も手の周りに書いてあった。
そこで、オリバーは思い出した。アンジェに男を取られそうになった事。そこから、仕返しをしてやろうと戦いを始めたこと。手に走り書きをして、思い出そうと奮闘したこと。待ち伏せして、煽って焚きつけてやった事。そして、その間にも何度も、何度も忘れそうになった事。
「アンジェ、そう。アンジェを追わなきゃ……!」
「お姉さま!」
焦りで部屋を飛び出そうとするオリバーを背中から羽交い絞めにし、留める誰かの気配があった。
「今出てもらっては困ります。ポトつむりのこと、黙ってもらいたいんですの」
その香り、肌の感触。耳にかかる髪の毛の柔らかさで、オリバーは先ほどの出来事を思い出した。
「そう、でしたわぁ……私は、貴方が消えたのを追って、ここに来たのだわ」
オリバーは立ち止った。
二人はただ立っていた。オリバーは、アンジェの手を取るとそっと撫でた。
「アンジェ、私はあなたを追っていたのですわ……」
そして、ふふふと、不気味な笑い声をあげた。アンジェがその様子の変化にびっくりしているのを見て、更にオリバーは高笑いを上げる。
「捕まえましたわぁああああ!!!!」
そのまま、アンジェを背負い投げし、ベッドの上に叩きつけた。
「お、お姉さま!?」
瓶底眼鏡が吹き飛んで、目をぱちくりさせながらオリバーを見ようとするアンジェだった。
しかし、オリバーが大股開きでベッドにダイブし、アンジェの腹を足で固め上げたのだから、アンジェもたまらない。
「ぐぇえーーですの!!」
上にまたがったまま、アンジェのそばかすが乗った鼻に、オリバーは人差し指を突きつける。
「今日で会ったが百日目!! 貴方の事を覚えておくのに一日が限度! 今日こそは今までの忘れてきた恨みをはらさせていただきますわぁ!」
グリグリとアンジェの鼻をつっつきながら、この好機を逃がすまいとオリバーは怒声を畳み掛ける。
「さぁ! いいなさい! 私から奪ったラスタル様とは、どうなったんですの!?」
お腹を足で押さえられ、苦しくもがきながらアンジェは必死にギブアップを訴える。
「ら、ラスタル様とは。騎士となる誓い建てをして、弟子になったんですの……」
それに対して、オリバーは顔をゆがめて、バカバカしそうに言った。
「はぁーー!? あの地位も名誉も顔もあるラスタル様と弟子ですってー!?」
アンジェはそう言われて、静かになる。それを睨みつけるオリバー。
「「……」」
二人の間に沈黙が走る。
「本当にそれだけなんですのぉ?」
意外と呆気ないと思える関係に、オリバーは拍子抜けていた。
「ラスタル様は志高くて、優しくて、時に叱ってくれる。とっても尊敬すべき人なんですの」
アンジェ耳が赤くなっているのを見て、オリバーはハッとなる。アンジェはちゃんとラスタルの事を慕っている。
「どうして、ラスタル様のことが好き? どこがいいのですのぉ?」
オリバーは好奇心に駆られて、アンジェの恋心について聞いてみることにした。
「」
「それだったら、私にもできますわぁ。こうやって何度も、貴方を見つけているんですのよぉ?」




