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世界一地味な姫騎士と運命の歯車  作者: はるかず


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6/8

ワタシガ、アナタノオウジサマデス!

あらすじ

騎士となる決意を新たに固めたアンジェ。

アンジェは騎士として今できることを探しに、機械甲虫の事件の目撃情報を探ることにする。

しかし、それは自分の最近の日常が、姫としての勤勉さをけずっていることに気づくきっかけとなる。

はたして、機械甲虫は見つかるのか?

 昨日のデートのため、夜更かししてしまったアンジェは、正午に起きることとなった。

 トルソーにかけてあった白い貫頭着を身に着けると、寝巻を畳んで籠の中に入れた。

 最近は絹の寝巻を止めて、麻のシンプルな寝巻を使用している。

 絹を止めて麻にしたのは手洗いで品質を保つのが難しいからだ。

 麻は縮みやすく、皴になりやすく、最初の数か月は失敗して、色が付いたりなどとトラブルもあったが洗濯するうちに慣れていった。

 本来なら家臣がやるようなことも、アンジェは身に着けて行った。


 貰ったポットでハーブティーを入れ、椅子に座り、寝起きのゆったりさを楽しむ。

 正午と言えば本来なら、他の姫たちと家庭教師による授業を受けているところだ。

 しかし、ここ数か月の間は、自主的に顔を出して授業を受けることはなくなった。

 顔を出さなければ誰も何も言わないし、何も責められないことに気づいたからだ。


 アンジェは今日の食事について考えていた。

 多分もう、王族たちの食事は終わっているだろう。

 ラスタルのところに行って、一緒に食べることを提案してみようか?

 それともラスタルにサンドイッチの作り方を教えてもらおうか? と考えを巡らせて楽しむ。


 今のアンジェは自由に掃除洗濯をし、ついには料理までできそうな子になっていっていた。


「(きっと、楽しいピクニックになりそうですの)」


 ゆったりとした朝を楽しんだ後、アンジェは皮のバックを取り、ピクニックのためにポットを入れる。

そして、昨日のラスタルとの思い出、自分の決意の事を思い巡らせた。


「(――昨日は、辛かったけどいい夜でしたの)」

「(――でも、どうすれば、立派な騎士様になれるのでしょう?)」


 そして荷物をからって、ドアの近くまで行った時。


「また出たんですって!」

「ええ~? ホント?」


 城内の召使達がドアの通り過ぎていく音が聞こえた。

 アンジェはその内容が、この前出没した機械甲虫の話だということにとっさに気が付いた。

 そっと、ドアを開けて召使たちの後ろをついて行ってみる。


 洗濯ものが入った大きな籠を、カラカラと木の台車に乗せて歩いているところだった。

 召使に密接に近づいて行っても、アンジェは気づかれないことを知っていた。無視されるのは嫌ではあったが、便利なところもあることに気づいたのだ。


「(ぴょんぴょん跳ねても気づかれないですの!)」


 ちょっとした悪戯気分で、近寄ってうわさ話を聞く程度だったらお手の物になっていた。


「あれでしょう? 噂では、機械甲虫が取り付いた魔物は暴走して凶悪になるんですって」

「機械の体を持っているだけでも強いゴブリンが、暴走したらたまった者じゃないわ」

「王城に魔物が出るとは限らないけど、心の平穏のために、さっさとラスタル様に退治してほしいわよねー」

「ホント、カッコ良い所見せて欲しいわ。私達みたいなか弱い子には、怖くてたまらないもの」

「誰かがやってくれたら、ラスタル様もタスカルのにね!」

「なーにそれ? つまりタスカル様?」

「「あははははは!」」


 内容はラスタルの活躍に対する不信だと気付き、アンジェは考える。


「(これはラスタル様の名誉挽回したいところですの)」


 ふっと、ラスタル様の顔が浮かび、アンジェにささやきかける。


 ーー助かるよアンジェ。


 そう、ラスタル様に言われてみたいな。とほわっとなるアンジェ。


「(そう――ですの、騎士であるラスタル様の手伝いをすれば、弟子同然ですの)」


 やることが決まり、ぐっと手を握るアンジェ。

 未だ騎士への段階が、体力づくりだったアンジェにとって、弟子らしい行為ができるのは嬉しかった。

 アンジェは一度、自室に引っ込んで木刀と皮バックの姿に変えると、城内で情報を集めるという事にとりかかった。




 赤いじゅうたんと白い床が広がる城内。

 白い貫頭着は、華やかなドレスで闊歩する宮中に置いて悪目立ちする物ではあった。

が、誰もアンジェの事に気に留めていなかったため、当初緊張することはあったものの誰もそ知らぬふりを するように過ぎ去るうちに、アンジェも気にしなくなっていった。


「(ここの城内については使用人に関して全てを取り仕切っている、執事のじいやに聞くのが一番ですの)」


 使用人の目撃や噂話というものはきっと執事の方に報告が行っているだろう。

 そう見越しての、行動だった。

 ノックを3回した後、執事の部屋のノブに手をかけ、入るアンジェ。


「失礼いたしますの~」

 目をしばしばさせながら、訪問客を確認する老齢の執事。

「おや、これは……ええっと?」

「第一王女のアンジェですの」

 お辞儀をして、いつも通りに振舞うアンジェ。

「ああ、そうでした、最近忘れっぽくなってしまって。スミマセンのぉ」

「それはいいんですの、今日は聞きたいことがあって――」

「ところで、その恰好はどうされたのですかの?」

 王女らしからぬ白い貫頭着に革鞄の格好にツッコミが入る。

「え!?」

「それに、勉強の方はどうですかのぉ? そういえば家庭教師様から姫様の名前を聞いておりませんが」

「ええ!? そ、それは、きっと忘れられてたんですの」

「そうですか、そうですか。では、久しぶりに姫様に、じいが一つテストをしてあげましょうかの」

「え!それは、そのーー!」

 慌てふためくアンジェ。最近の家庭教師のテスト範囲などここ数か月聞いていなかった。

 バレエも、歌劇の練習も、数学も統計も、あのみっちりとしたスケジュールは、雑用の家事手伝いによってドンドンすり減っていったのだった。

 アンジェ、ピンチである。


 そしてアンジェがテストに捕まって、一時間後。

 執事はテストの解答を見て、面を食らったような顔をした。

 そして、アンジェにいった。

「これはひどい……! 姫様ちゃんとお勉強はされていますか?」

「ご、ごめんなさいですのぉ~~!!!!」

 アンジェは、ダッシュで扉から逃げ出す。

 あっと、執事が呼び止めるまもなく、立ち上がって執事は頭をかく。

「おや、わしは一体、誰と話していたのですかの?」

 ボケたようにぽやっと、執事は白く長い髭をさする。

 そして手に持っていたテスト用紙を見遣る。

「この酷いテストの点数は一体、誰のですかのぉ……?」



「はぁ……はぁ……勉強、サボったツケがきているのですの!」

 何という事だろうか、自主性を重んじていたのに、いつの間にかにか勤勉さが失われていた。忘れ去られるのであれば、居なくてもいいだろうという駄目な考えがアンジェについてしまったのだ。

「家庭教師の方になんて言ったらいいんですの……? いまさら行っても……追いつけるんですの?」

 冷や汗がアンジェの中に生まれる。ここ数か月間の遅れを、他の王女以上に取り戻していかないと、いずれアンジェは王女たちに先を越されてしまうだろう。

「でも、家事もしないと……ううう」

 アンジェは身をかがめて、眼鏡の中の目をぐるぐるさせながら頭を抱えていた。


「あ~ら、アンジェ様。おサボりですのぉ?」

 アンジェは、声をかけられた方にそばかすがうかぶ鼻をむけた。

 バレエ衣装を鞄に下げたオリバーの姿があった。目の下には少しクマがあった。

「う”っ……この声はですの!」

「オーホホホホ、わたくしの優秀さに抜かれてしまいますわよぉ」

「オリバーお姉さま……!」

 金のドリルを優雅に舞わせながら、扇子で仰いでアンジェを見下していた。

「励ましを入れてくれてるんですの?」

「はぁ? なぁにをいってますのぉ!」

 アンジェに対して、指をさしてびしぃっと決める。

 その気迫で、アンジェの眼鏡が吹き飛んだ。アンジェは床に手をついて、眼鏡を探す。

「貴方とわたくしは恋のライヴァ~ル! こんな影が薄い怠け者にラスタル様が夢中になるわけありませんわぁ」

「う”う”!」

「颯爽と抜かれてくださいまし。オーホホホホ!」

 高笑いと共に去っていくオリバー。

 何とか眼鏡を見つけかけると、眼鏡ずり落ちて不格好な自分がみじめになった。

そして家庭教師の授業に出ねばなるまいと思うアンジェであった。


 時間は午後3時をさそうと言ったところ。

 教会の鐘の音が鳴り、王宮ではティーパーティーの仕度が開かれようとしていた。

 アンジェは今日の目的である、機械甲虫の目撃情報を集めた。

そして、衛兵の詰め所にラスタルに報告に行った。

 ラスタルは、アンジェの分のサンドイッチを持って来て渡した。

「今、オリバー様がいらしていたよ。テストの点数が散々だったんだってね」

「う”」

 もぐもぐ食べながら、うつむくアンジェ。

「人のテストの話なんて、野暮な話だが、少し笑っちゃったでありますよ」

 笑いをこらえて口元を抑えるラスタル。

「う”う”~、ラスタル様まで……」

「ああ、でも君を責める気はないんだ。ちゃんと授業にも出ていたんだね」

「え! ああ、はい!」

 何という事だろう。ラスタルに授業に出ているという印象を抱かせたまま、オリバーは出て行ったのだ。これでは、次の授業はアンジェは出るしかないなと思った。

「がんばり……ますの」

 冷や汗をかきながら、ライバルからの挑戦を受けるアンジェ。

「ところで、ラスタル様。使用人たちの噂から、機械甲虫の目撃情報を集めて来たんですの」

 ふむ、と顎をさすり、ラスタルは何か巻物を取り出す。

「地図に合わせてみるか」

「はい、点をうってみたいですの!」


 アンジェはそこで不可思議な事を覚える。一番、最初に出会ったあの機械甲虫らしき影があった塔の場所が、地図に無いのである。


「台所、倉庫、塔、とりあえず、重要人物がいる場所には出ていないみたいだな」

 ペンでチェックを付けながら、ラスタルはフムフムと頷いた。

「ありがとう、これを参照に、目撃した場所を重点に見張ってみるよ。アンジェ」

「ラスタル様の役に立てればと思って」

 ラスタルは、ご褒美にアンジェのでこにキスを送った。

 ふしゅー!と湯気が出るアンジェ。

「ところで、次は歌唱の授業じゃなかったかい?」

 アンジェは、あーー!という声と共に、走り出していった。

 それを見送るラスタル、ぼそっと声を出す。

「ところで、ドレスに着替えなくてもよかったのだろうか? アンジェ?」


 アンジェがピアノがある音楽室に入ると、既にオリバーが済ました顔で歌を歌っていた。

「おや……君は?」

 誰だったかな?と、歌唱の先生がアンジェの顔を見遣る。

「わ、わたくし、第一王女のアンジェです」

「ふむ、早く入り給え」

 くすっとオリバーの勝ち誇ったような笑みがアンジェに映る。

 アンジェが顔を真っ赤にさせながら、室内に入る。

「しかし君、その恰好―――――は、ああぁあ!!」

 アンジェの恰好にツッコミが入る前に、歌唱の先生の叫び声が出た。

「え、何!?」

 アンジェがとっさに先生の方を見ると、足元に青いものが張っていた。

「うぁ、ぁ!! 機械甲虫だ!」

「いああぁ!!」

 歌唱の先生の叫びに、オリバーもつられて叫ぶ。


 先生はドアを開けると、バッと逃げ出していった。

 呆気にとられたアンジェが残され、目の前には青い触手を纏った機械らしきものが這いまわり動いていた。

 その機械甲虫は、触手を威嚇するようにアンジェの方に向けている。

「この虫……私の事が分かっているのですの」

 驚いたことに、この虫はアンジェの事を意識しているかのように移動している。

 アンジェは不思議と怖さより、この自分を感知する虫に興味が出て来た。


 しかし、予想外の事が起きた。

 それは、逃げ遅れてその場にうずくまって、ふるふると振るえるオリバーの姿であった。

「虫ヨォ……!!」

 とっさに、うずくまって動けないオリバーの目の前にアンジェは構える。

 それは、弱きを守るとラスタルから言われた騎士の心構え故であった。

「私が守るから」

 アンジェはバックから木刀を取り出すと、機械甲虫側にしっしと振って見せた。

 機械甲虫は横に行ったり来たりして、様子をうかがっている。

 その瞬間。

 ひゅっとした音と共に、機械甲虫はアンジェに飛び掛かった。


「えい!」


 アンジェは目をつぶって木刀を振った。

 ばしっとあたる音と共に、落ちてぐったりとした機械甲虫がいた。

 弱弱しく、のたうつその青い触手にそっと、木刀を握りしめて近寄るアンジェ。

 あとは叩き潰せば、この生命も終わりだろう。


 ーー弱い者を倒すのは誉とは言わない。


 昨日の夜のそう言った話を思い出し、木刀を振るのをアンジェは躊躇した。


「歯車……」

 クィイインと機械が振動する音が鳴る。

「はぐるま?」


 躊躇していると、触手をしゅるしゅると伸ばし始める。

 びっくりしながらも、アンジェはその様子を眺めていた。

 バックの中のポットが持ち上げられ、機械甲虫がばらばらとばらしていく。

 そして、パカパカとポットの開け口を鳴らしながら、音を出した。


「――プログラム。起動。」


 その冷たい声と共に、ガリガリと歯車が回り出す。


「ハジメマシテ、ハジメマシテ、アンジェ」


 パカパカとポットの蓋が鳴る。触手が呻き、アンジェの前でぴょんぴょんと跳ねる。


「ワタシがアナタの王子デス――――!」

王子さまって何でしょうね。

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