いつか、私は騎士になって見せ、運命の人と出会うのだ
あらすじ
影の薄い姫アンジェは、ラスタルという騎士と出会うことで成長をしてきた。
しかし、姫をライバル視したオリバーの意地悪に泣いてしまう。
オリバーの一言が忘れられないアンジェに、ラスタルは騎士とは何かをアンジェに教える。
ラスタルはアンジェを抱きかかえながら、第一王女の部屋に送った。
ラスタルは部屋のドアを開けて、見遣る。
少し埃をかぶったその部屋は、前とは違ってアンジェが自分で掃除をしたりする道具が置かれている。
数か月前、出会った後からラスタルはアンジェに自主性を磨くように、掃除や洗濯なども教え込んだ。そうすれば、一人になった時もアンジェは生きていけると思ったからだ。
「アンジェ、降ろすよ」
めそめそと泣いていたアンジェを、ベッドに下ろす。
少し湿気て、しなってしまっている布団にアンジェは黙ったまま転がる。
「次は布団の干し方も教えないとな」
「……」
アンジェは幼虫が地中でうずくまるように固まっている。
「黙りこくって、いじけてしまったのかい? アンジェ」
布団にくるまって黙りこくっている王女を、優しく諭すラスタル。
こっちを向かずに、アンジェは口を開く。
「――オリバーお姉さま。どうしたら、認めてくれますの?」
「君はどうやったら認めてくれると思う?」
「お姉さまはラスタル様の事が好きなのですの。だから、騎士様のような立派な方じゃないと、きっと不釣り合いのように感じてしまいますの」
ラスタルはそう不貞腐れるアンジェのベッドの横を通り過ぎ、窓の外を見遣る。
「夜のデートに行かないか。アンジェ」
窓を開き、キラキラと光る夜の星の光を部屋に入れるラスタル。
爽やかな夜風が、アンジェの涙の痕をスッと乾かした。
「今日は天井の星が綺麗に見えている。君を歓迎しているようにね」
ラスタルは手を出す。
「君の涙も夜風に攫われるだろう。さあ、おいで」
そう誘われるままに、アンジェは体を起こし手を出す。
すっと手を引かれアンジェは、夜の散歩に出ることとなった。
星々が綺麗に天井を飾る夜。
二人は、城塞の三角にとんがった屋根を囲む鋸壁の中にいた。
ラスタルは人払いをし、二人で鋸壁のへこみから城の下に見える街を見た。
街の姿は屋根がある部分は真っ暗で、その下の地下の機械の光が、チカチカと光っていた。
不思議なことに、この城は半月状のドームに覆われるかのようにして建っている。
むかし、アンジェが歴史の授業を受けた時、このドームは大きな星が振ってきた跡だということを聞いた。開拓する時に、星の円をけずって出来たのがこの街だと。
そして、その星は機械で出来たものだったと。
今ある国は、かつての機械の発掘から出来た強大な遺跡なのだ。
二人は地上の機械の星と、天井の星の連なる海を見ていた。
落ち込んでいたアンジェの、眼鏡の中にもその光は映り込む。
「アンジェ、これを飲んで落ち着いて」
ラスタルからケープとハーブティーを渡される。
「君の室内から持ってきたけれど、使ってるみたいだね」
前プレゼントでもらったポットをラスタルが持ってきていたことに気づいた。
ゆっくりと暖かいハーブティーに口をつける。
私――アンジェは悩んでいた。
自身の力の無さが、関心を持ってもらえても、嫌われる原因だと。
こんな自分が、騎士になれるのだろうか?
――騎士になってみないか、アンジェ。
夜風に吹かれながら、私はラスタルの誘いを思い出していた。
立派な騎士を目指す事となった私には、まだ分からないことがたくさんあった。
日ごろの運動だけではない、それはもっと根本的なものだった。
「騎士とは何ですの? ラスタル様」
私はラスタルを見上げ問う。
「騎士とは――」
ラスタルはその青いカールの髪を夜風になびかせこう言った。
「名誉を重んじ、そして、臣民のためにあり、臣民を守らねばならぬ」
見上げる私と、騎士の目が合う。
「名誉とは、騎士の称号を与えた国家への忠誠。そして教会が理想とする人物としてのふるまいである」
私は、目の前の騎士が凛々しい声で語る言葉を格言のように重く受け止めた。
「――とは言うが、そうだな。弱きを守る者だと思えばいい」
「弱い人……?」
「例えば、自分より弱いものを倒す事は誉とは言えない」
「より強い者と闘うんですの?」
「ああ、それは自分だったり、国外の敵だったりするわけだ」
アンジェは頷く。”自分と闘う”それは難しい事の様にも聞こえたが、今戦っているのは私自身の問題だ。
私はいつしかラスタルと過ごすうちに、自分がこの影の薄い問題と戦わないとと思い始めていた。
それは自分自身、地道な毎日の繰り返しから、大きな決意へと変わっていくのを感じとれた。
ぐっとアンジェは先ほどまで流していた涙の痕をぬぐった。
薄っすらと、地平線から光が漏れ始める。
青い透明な空気が、朝を告げる鳩の声と共に、アンジェとラスタルを照らし始めた。
小さく、アンジェはその朝焼けを見て拳を握りしめた。
ーーいつか、私は騎士になって見せる。そして、いつか運命の人と出会うのだ。
そう、新たに決意して。
ラスタルの騎士としての誉を重んじる回です。
文字数は少ないですが、単品で綺麗なので上げました。
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