表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界一地味な姫騎士と運命の歯車  作者: はるかず


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/8

機械甲虫、機械は禁止されているはずですの

あらすじ

呪いの様に影の薄い王女アンジェは、ついに自分を見つけてくれる人を見つける。

それは、王城を訪れた騎士であった。

騎士との出会いを通して、次女の嫉妬や后の憎しみを買うこととなるアンジェ。

果たしてアンジェは、騎士と共に自分の影の薄さを克服していけるのか?

 王城の長い赤いじゅうたんに、警護の列が出来ていた。

 なぜなら、王様が帰ってきていたからだ。

 后グレシアが使用人たちと一緒に出迎えて、王様と接吻を交わす。

「舞踏会のめでたい日を、開けてすまなかった。どうじゃったか? 后よ」

「ええ、騎士様は娘たちと仲良くなりましたわ。しばらくは滞在するそうですわよ」

 アンジェが仲良くなったことを、はぐらかしつつ伝える后グレシア。

「それは素晴らしい。よくやってくれた」

 手を叩き、小さな目を細めて喜ぶ王様。

 後ろを首だけで振り向き、后に連れてきた神官達を紹介する。

「それと神官達とお話がしたい。君も疲れたじゃろう? お土産に、髪飾りを持ってきてある」

 神官の一人がかしずいて、箱を開ける。

 中には、虹色の羽が付いたアメジストの髪飾りがあった。

「まあ、こんな素敵なものを!」

「お前の好きな赤紫の宝石じゃ。喜ぶと思っての」

「まあまあ、神官様達もお疲れでしょう。椅子にお座りになって。これ、召使!準備を!」

 后は手を叩き、召使に号令を出し、会食の準備が行われる。


 場所は移って会食の場。

 長いテーブルに、白いシーツがかけられ、銀の食器が並べられていた。

 神官達は王様を見つめつつ、振舞われた食事に手をつけている。

 王様はある程度、后と神官達の形式的な挨拶が終わると見た後、今回の呼び出された政治の話をし始めた。

「今回の教皇とお話だが、地下の施設に何者かが侵入したらしい」

 まぁ、と高く赤いドリルを跳ねさせびっくりする后。

「もしや、禁じられている区域に?」

「そうじゃ。説明は神官殿がしてくれる。頼んだぞ」


 席を一度下げて、立ち上がると、楚々とした神官服に身を纏った青年が説明を始める。

「はい、機械甲虫がはびこる区域に、探検家を名乗るハンター達が侵入。あそこは教会や国が禁止している区域であり、10匹の機械甲虫が地上に現れて兵に鎮圧されました。けが人が120名程度。兵の損害が大きく、補充が欲しいところです」


 機械甲虫の言葉に、后は怒りの表情を示した。

 扇をわなわなと握りしめ、唇を后は噛む。

「機械甲虫。忌々しい、機械に寄生し、人間を襲うモンスター。あれのせいで、機械を使った武器が使えませんわ……!」

「そうじゃな。そのせいで、機械を使うハンターたちに出遅れてしまう」たしなめるように 后の機嫌を認めると、意見を提言する「それで、機械甲虫に対する武装と、けが人の施設に費用を割きたい」

 后はぴしゃりと扇を閉める。そして凛々しい表情で、王様に提言した。

「それは構いませんわ。私が手配いたしましょう……あと、武装に関してなのですが」

「后、なんであろうか?」

「滞在されている騎士殿に、機械甲虫との戦いを一任されてはどうでしょう?」

 王様の小さな目がキラリと輝いた。

「ほほう、あの騎士殿にか」

 もっさりと生えた金色の髭を撫でながら、后を見遣る。

「彼は機械甲虫との闘いで武功をたて、出世した身だと聞きます。どうでしょう?」

「頼んでみる価値はあるの、よし。后、素晴らしい案であった」

 ポンポンと手を叩き、后を褒める王様。

「オーホホホホ!!そんなことありませんわ~!」

 びよよんとドリルの髪の毛を高らかに突き上げて、高笑いを決める后グレシアであった。

 会食は、そのグレシアの提案がほめそやされる形で終わった。

 そしてその後、王様はもう一つ、大きなうさぎのぬいぐるみを二つ従者に持ってこさせる。

「王様、これは……」

「アンジェへのお土産じゃ。もちろん。オリバーの分もあるぞ」

「そんな、心遣いが身に沁みますわ」

 王様はゆっくりと后の方へ目をやった。

「アンジェの事もわかるのは、そちだけじゃ。政治の事も娘も、そなたに託そうと思って居る。まかせたぞ」

「国王様……!」

 優しい小さな瞳が、金色の眉毛の下から覗く。

「アンジェの事、守っておくれ」

「はい、確かにお受け取りいたします」

 使用人から后に大きなウサギのぬいぐるみが二つ渡される。

 しかし、それがアンジェの方に届けられることはなかった。



 時は舞踏会が終わって、ある次女の一室にて。

「あらぁ、私は一体……何をしていたのかしらぁ?」

ドアの目の前に立っていたオリバーは、今一瞬何かが起きたように立ち止まった。

 振り返れば、アンジェに関するメモがそこら中に張られている自室になっていた。

「どういうことなのかしらぁ!これって、呪いですのぉ!?」

 金のツインドリルの髪を振り回し、驚きに打ち震えるオリバー。

「わたくし、たしか、アンジェに嫌がらせをすることを思いついて、そう、は! 何度も忘れてしまっていたのですわ!」

 手にペンを握りしめているのに気が付くオリバー。

 そのペンをもちつつ、傍にあったメモ数枚を握りしめてオリバーは宣言する。

「でも負けませんわ、わたくし、しつこくてよアンジェ!」

 そう、その原動力は怒り。アンジェに対する嫉妬心であった。

「忘れ去られてる間に、騎士様といい雰囲気になってしまうなんてありえませんわぁ!」

 そう考えるだけで、心が燃え盛る信念と情があふれ出すオリバー。

「邪魔してやります……わ?あれ!……は!アンジェ!」

 一瞬ボケっとなってしまった頭を振りかぶり、メモをがりがりと書きつける。

「今のうちにメモですわ」

 ばしぃ!


 ”アンジェに嫌がらせの鉄槌を!”


 と書いたメモをついに出口のドアに張り付けた。

「完璧ですわ、オーホホホホ!」

 高らかに笑いこけ、勝利の高笑いを決めるオリバー。

「そう簡単に忘れさせませんわ!」

 といって、勢いよくドアを開き、どすどすと外に出るオリバー。

「あ、あらぁ……?私は一体何をしていたのかしらぁ?」

 しかし、ドアを過ぎて呆然となるオリバーの姿があった。

 そして、静かにメモが書いてあった扉が閉じていくのであった。




 それから幾日が経った頃。

 バラの庭園のベンチにて、アンジェは鼻歌を歌いながら騎士ラスタルを待っていた。

 ラスタルは時間通りに到着し、出で立ちは胸にフリル、手にフリル、の白いシャツに、黒いズボンという歌劇のような格好で現れた。

 騎士ラスタルは、庭園の庭を踏みしめながら、かわいい小さな恋人の名を呼ぶ。

「アンジェ! アンジェ!」

 ひょっこりと、アンジェは様子を見に生垣からまんまる眼鏡の顔をだす。

「そこかい? いるなら、草木を揺らしておくれ!」

 気配で察知した騎士ラスタルは、木々に声をかけるように声を張った。

「いますですの!」

 ちろちろと、近くの枝を揺らした。

 騎士はベンチを見遣り、そこに薄っすらとしたアンジェの存在を確認すると、騎士は手を大きく広げて歓待の声をあげた。彼の手首のフリルが舞った。

「おお、アンジェ。聞いてくれ、この国の防衛の一端を引き受けることになったのだ!」

「本当!じゃあ、しばらくここにいるんですの?」

「ああ、本当だとも!」

 二人は喜びに満ちた声を互いに掛け合い、見えずとも喜びを分かち合う。

「内容には君の警護も入っている。しばらく一緒にいてくれないか、アンジェ」

「もちろんですの!」

 大きなおさげをぴょんぴょんと跳ねさせながら、アンジェは縦に首を振る。


「そして、プレゼントを持ってきた。受け取ってくれないだろうか?」

「まあ、なんですの?」

「一つは白い無地の貫頭着(白いワンピース)、もう一つは発掘された遺物だ」


 それは腰に下げるランタンほどの大きさのポットのような容器だった。

 下には四俣の台座があり、手押し車が付いている。


「アンジェ、見ていてくれ」


 大地にその機械を置くと、ラスタルは準備し始める。

 まず、手押し車をくるくると回し始める。

 すると機械が明るくなり、熱を帯び始める。

 中でぐつぐつと煮える音がして、ふしゅーと蒸気が出た。


「これは機械ですの……?」

「水をお湯に変換する事ができる機械であります」

 ポットの部分を取ると、ラスタルはお湯をカップの中に注ぎ入れた。

「どういう仕組みですの?」

 小首をかしげながら、アンジェはラスタルを見遣る。

「火晶石という火の精霊を閉じ込めた精霊石を使っており。それに魔道の力を使って力を与えると、熱が出るようになっているときいている」

「本当!? 面白いですの! 魔道の力を手動で引き出せるんですのね!」

「姫ご自身は高貴でありますから、身近なことは自分でやったことが無いと思ったのだ。面白いだろう?」

 ラスタルから、カップを貰うと、そこにはハーブが入っていた。

 アンジェは、ふーふーしながら眼鏡を曇らせてハーブティーを飲む。

「これがあれば、騎士様に紅茶をご一緒することができますの!」

「それは嬉しい。見えないと他の人に世話を頼りっきりだと大変だろうと思ってたものだから。これがあれば朝の顔や体を拭くお湯もできて便利でありましょう」

「でも、機械は禁じられているはずですの。それに、機械甲虫は大丈夫ですの?」

 ふむ、とラスタルは考え込むように指で顎をさする。

「私の騎士の経験から言えば。機械甲虫は、この程度であれば寄生されても姫でも踏みつぶせる程度にしか大きくなりませぬ」

 目をぱちくりさせながら、信じられないようにアンジェは問う。

「本当? いいんですの? 私にこれを渡しても」

「いいとも、何せこれから君も騎士になって欲しいと思っているのだから」


「――!」


「姫自身のその機械に対する好奇心で分かったのであります。その好奇心が、こんなところで無視され続けてはいけないと」

「広い……世界」

 アンジェは冷めた機械を抱きしめて、騎士を見遣った。

 そう、王城の外の世界など、姫は知らなかった。しかし、先ほどの機械甲虫の話や、魔道を 使った機械の数々。まだまだ、知らない世界を姫は知りたかった。

「そう、アンジェ。外に出てみたくないか?」

 ぎゅっと、機械を握りしめる力に手を入れながらアンジェは言う。

「出たい……私、もっと外を見てみたいですの!」

 その声を聴いて、うんと確かめるようにラスタルは頷いた。

「では、まずは騎士としての基礎を教えてあげるであります」

「やったですのー!」

 ばんざーいと、姫が両手を上げる。

「薔薇園でランニングをやろう!」

「ランニング!走るんですの?」

 騎士は立ち上がる。アンジェが薄ぼんやりとしか見えないが、そのやる気はくみ取れた。

「勿論でありますとも。基礎訓練が大事でありますから。ほら、自分を捕まえてごらんくださいな、姫!」

 アンジェも立ち上がり、スカートの裾をもって速足で騎士を追いかけ始める。

「ふふふ、負けませんですの! 待ってくださいですの~!」

 その日は、透明な少女とフリル騎士の、バラ園で二人の追いかけっこの声が響くこととなった。

今回は、次女のアンジェの忘却バトル。王様と王妃の関係。

そして、機械に寄生すると言われている機械甲虫の説明がちらりと出ました。

騎士からこれから訓練を教えてもらうアンジェですが、逞しくなっていくでしょうか?

ご期待される方は、星をくれたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ