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騎士様、あなたが私の運命の人ですの?

あらすじ

前回、騎士の歓迎会として舞踏会が開かれる話になった。

しかし、影の薄い主人公アンジェは呼ばれることが無かった。

そんな中、静かになった王城の中で苦しむ声を聴く。聞いた先に行ってみると、バラ園の塔の中に恐ろしい何かがあった。アンジェはそれから逃げだす。

一方そのころ、アンジェの継母である后は、騎士と次女オリバーをくっつけようと挨拶と画策をおこなっていた。

次女オリバーと騎士は、二人でアンジェのいるバラ園の庭へとデートと言うことになるが……?

 アンジェが騎士に出会う数時間前、王宮の広場の舞踏会にて。

「オーホホホホ! 騎士様よくいらっしゃったわ!」

 天を貫くような赤い直線ドリルの髪型を、喜びに上にツーンと伸ばしながら継母グレシアは言った。

 ここは城内の大きな舞踏会会場であるホール。大勢の客たちが手と手をとりながら、くるくると煌びやかに人を変えながらダンスを踊っている。

 その大勢を見下ろす段の上で、2人の高貴な女性と一人の騎士が互いに挨拶をしていた。

「ご招待いただきありがとうございます。 お后様、自分は騎士のラスタルと申します」

 青色の二段のカールした青い髪に、騎士服に白いフリルを身にまとい、お辞儀をする騎士。

「なんて礼節のある立派な騎士様ですわね!」

 后であるグレシアは喜びの声を上げる。

「私の次女……あら、もう一人上がいるかしら? とりあえず、次女を紹介しますわ!」

 継母の横に、美麗な顔をした次女が、鼻を生意気そうにつんと上げて騎士の前に出た。

 大地を二つに分かちそうな、長く鋭い金のツインドリルを持った女性だ。

「あらあらあらあら、騎ぃ士様ぁ!わたくし、次女のオリバーと申しますわ!」

 二つのドリルを床につけるかつかないかまで下げた女性。その子は小さくスカートを摘み裾を上げ、カーテシー礼をするのはオリバーというアンジェの義妹であった。

「オリバー様、はじめまして」

「初めまして、騎士ラスタル様ぁ」

 うふふと、妖艶な笑みと長い睫毛をしばたかせるオリバー。

「騎士様の話はよく聞かせていただいていますわぁ! 滞在は長くなってぇ?」

 一度、剣を持ちつつ、膝を曲げて床につき、深々と挨拶と手に接吻をする騎士ラスタル。

「自分はまだ、剣の修行の途中であります。近いうちに修行のために旅に出ようと思ってる所存であります」

 その言葉に、扇を大きく広げて目をぱちくりさせる后。

「おやまあ!じゃあ、またどこかに出かけてしまうのでしょうね! それは、それは――」

 大きな声で后の声を阻むようにオリバーが言う。

「一夜のみの滞在にならっしゃるの? それは、もったいないですわぁ!」

 オリバーは騎士の意思を差し止めるかのように、づけづけと強く言った。

「よければ、このオリバー。騎ぃ士様に城を案内してさしあげてよ!」

「おや、お言葉に甘えてもよろしいのでありましょうか?」

 騎士ラスタルは、たわわなフリルのジャボが似合う胸元に手を当てて、オリバーの顔を見遣る。

「自分は光栄であります。姫様にご案内申し上げても?」

 そして小さく一礼し、お願いを申し出た。

「いいですのよぉ~~!」

 ぱさぱさぱさ~~とオリバーの、軽やかな喜びの扇子の仰ぎが増える。

「では、お言葉に甘えさせてもらおう」

 騎士ラスタルは、そっと膝を上げて直立に立つ。凛々しく頷いた。

「ホホホホ!!是非オリバーとごゆっくりしてくださいな!」

 扇子を掲げ、バシッとその広い扇を閉じる后。

「ホホホホ、ではオリバー!騎士様を庭園に案内してあげなさい。オリバー!」



「(次女オリバーよ!バラの庭園の影で、いいムードになるのですわ!)」

「(熱い接吻を勝ち取ってやりますわぁ、お母さまぁ!)」

 扇子の裏で、二人でガッツを決める親子二人。

 それを不思議そうに、後ろから様子を見遣り声をかける騎士ラスタル。

「どうされましたかな?」

「「何でもありませんわ(ぁ)!」」

 騎士はこほんと咳ばらいをし、一度自分の大きなフリフリのジャボをはたく。

「そうでありましょうか? では、ご一緒させていただこう!」

 騎士のその言葉に、親子の勝利と愉悦の笑い声が城に響く。

「「オーホホホホホ!」」

 ばっさばっさと、扇子をせわしなく二人で煽り、香水の芳香を充満させる。

 二人仲良く、ツインドリルとドリルを床や天井に伸ばし飛ばしながら、愉快に高笑いを決めるのであった。




 赤は当然のように大輪が咲き誇り、そして黄色、白と、生垣を彩る。バラ、バラ、バラ!

 そんな、綺麗なバラの庭園は、入り組んだ迷路となっており、上の方から見下ろして楽しむ場所でもあり。さらには、男女が素敵な密会を楽しむ場所でもあった。

 誘いだしたオリバーが、少し前を先行しながら騎士に声をかける。

「あらあらあらあら!騎ぃ士様ぁ、二人っきりでございますわぁねぇ!」 

 ちらりと、扇子の横から雰囲気の良さをアッピールする

「そうだな。このようなバラの生け垣に囲まれた迷路は、探求心をそそる」

「そうですのぉ?」

「このような迷路のような迷宮には潜ったことがあってな、迷える我々の人生のようで相応しく感じるのであります」

「あらら?そ、そうですのぉ~~?」

 こちら側から誘ってみているのに、なかなか反応の鈍い騎士に手間取るオリバー。

 焦りで、扇子を仰ぐのが早くなる。

「どうされたのだ? ああ、今宵は暑い夜でありますからな」

「暑い! そうですわぁ、わたくし暑くて暑くて」

 騎士の方に扇子で芳香をふぁさふぁさと誘う様に仰ぐ。


 しかし――


「いま、悲鳴がしたでありませんか?」

 自然と剣に手をやりつつ、警戒態勢に入る騎士ラスタル。

「いいえ、いいえ、そんなものはないわぁ!」

「そんなことはないでありましょう。いま、自分はこの耳で確かに聞いたとも」

 耳を指差し、もう片手で剣を支える体制になりつつ、そのまま足を悲鳴の方向に向ける騎士ラスタル。

「まって!」

 引き留めようと、扇子を取って大きな声を出す次女オリバー。

「今ココで、熱い接吻を――」

 よたよたと、走りにくいドレスの裾を持ちながら、オリバーはラスタルに駆け寄ろうとする。

 しかし、ラスタルは察知した声の方へと足を運ばせて走り去っていく。

「ああぁーー!何処に行くの!?騎ぃ士様ぁ!」


 ラスタルが生垣を曲がると、ドンッ――音を立てて誰かとぶつかった。小柄なそして、細いながらも地味な赤茶毛の髪の女性の姿があった。その大きな赤チェニックのリボンに、そのまた似合う大きな妙にダサい三つ編みをたらす女性。

 ピン底の少し曇った眼鏡の下から、金の大きな目が覗き、そばかすの浮かんだ鼻がつけたしたようにちょんとあった。

 それは第一王女、アンジェであった。


「君は……?」

「私の事が、見えるんですの?」

「何を言っているんだ? みえるとも」

 アンジェは見えると言われて、嬉しさにほおを紅潮させた。

 そして頭を振って二つの大きなおさげを嬉しそうに揺らす。

「あなたは? いえ、わかりますの。お呼ばれされた騎士様ですの!」

 きゃっきゃとはしゃいで、少しぴょんぴょん飛んでしまうアンジェ。

「そんな、こんなに思ってた人がすぐ見つかるなんて嬉しいです……!」

 ついに見つけた運命の存在に、アンジェはうっとりと騎士を見遣る。

「君は一体誰なんだ? なぜ王宮の庭にいるんだ?」

「それはーー」


 アンジェが説明しようとする様子を歯をギリギリと噛締め見る者がいた。

「あら? 誰かしら? あの子!あんな地味な子が私達の王宮の舞踏会にいたかしら?」

 次女オリバーは、扇子を開いたり閉じたりしながらせわしなく怒りを表す。

「何にせよ私の騎士様に触れるなんて排除だわぁ!」

 パキリ、と枝を踏みしめて地味な姫に恫喝をしてやろうと、そう次女が行動に出たと思った瞬間。


「私が見えるのなら、訳を説明したいのですの!」

 アンジェが説明しようと言葉を口にした。

「ああ、見えるとも、いや、なんだ? これは……!」

 しかし、騎士の反応がみるみると変わっていく。

「どうしたんですの?騎士様……! 騎士様?!」

 自分が見えているはずの騎士が、盲目と化したように自分の目をこすり、疑いの眼を見せる。そう、アンジェの姿がどんどんと透明に近くなっているのだ。

 目の前にいるにもかかわらず!

「お願い。 私の事を忘れないで、騎士様!」

 どんっと、懐に飛び込み、騎士の首から下げたフリフリのジャボを引っ張る。

「私のジャボが! 君は、本当にいるんだな? 妖精じゃないんだな?」

「そうです。騎士様……アンジェは人としてここにいます」

 騎士は自分の目の前に手を長め、そして近くにいるアンジェの腰を”気配だけ”で傍に寄せることに成功した。

「あ!」

 アンジェは、びっくりして眼鏡をずらしてしまう。

「あとととと……」

 眼鏡を寄せられた腕の中で直す。

「これは驚いた」

「こんなことが、ありうるのか?」

 透明になってしまったアンジェを手と自身の気配を感じる能力だけ存在を認知する。

 驚愕のシーンが、バラ園の中で空気を抱きしめている騎士という不可思議な空間であらわされることとなった。


「あらっ!」

 ツインドリルをビヨンと伸ばして、驚く次女オリバー。

「あらあらあらあら? なんですの? これって!」

「先ほどまでいた敵愾心の相手が、消えてしまいましたわぁ……!」

 まさか、と手を前に出し、場所を確認する騎士が、女性を引き寄せるポーズのままか溜まっているではないか。

「奇妙奇天烈摩訶不思議ですわぁ」

 扇子を口に寄せて、今の事をシイっと自分の内部にしまい、秘かに考えるオリバー。

 そして、もしかして。と何か思いだす事があった。

「お、お、思い出しましたわ!」

 目をしばたかせ、扇子に隠し切れない口をあんぐり開けつつ、指をさしてこう言った。

「あれは、第一王女のアンジェ!」


「私は、第一王女のアンジェです」

 のの字を書くアホ毛を垂らしながら、残念そうに騎士の胸元で告白する。

「君が! どうりで、舞踏会の席が少し空いているような気がしたんだ。その違和感は君が不在だったのでありましょう」

 挨拶に行く時、慣習やそして礼儀として目上の人を探すものだが、アンジェを飛ばしたような感覚が騎士にはあった。

 それは鋭い騎士にとって違和感を残し、多少居心地の悪いものと鳴っていたのだった。

「自分は騎士ラスタル。ご招待ありがとう。姫」

「いいえ」強く姫は否定しまう。その強い声に自分でびっくりしてしまうくらいに。「いいえ、違いますの」もう一度、アンジェは優しく否定すると、困った顔をした。

 きっと見えないだろうが、騎士はそれを察することができたのだろう。

 腰を抱く腕が強くなった。


「それでも――ここは、姫の住む城でありましょう?」

 慈悲にあふれた瞳を、厚い睫毛から見下ろす騎士ラスタル。

「実は、私の気配は薄いらしく、殆どの人が見えてませんの」

 もじもじと、そばかすの顔を下に向けて口をとがらせるアンジェ。

「それは、小さいころからなものなのか?」

「はい」

 うつむき、涙を浮かべそうになるアンジェ。

 その震える唇を察知したのか、暖かい声で騎士ラスタルは声をかける。

「泣かないでおくれ、レディ。きっと明日の暖かなひさしをも君の涙が隠してしまう」

「そう、ですの?」

「ああ、明日まで泣き明かしそうな声をしているよアンジェ。お日様が恋しいだろう? なかないでおくれ」

 アンジェは涙をぬぐい、少し笑って意志の強い顔を見せた。まだ、泣くところではない。そう、やっと聞いてくれる人に出会えたのだ。


 ああ、と夜空を仰ぎ見る騎士ラスタル。そしてこの不幸な少女にもう一度目を下ろす騎士ラスタル。

「何とか君の力になれないものか? 今度、もう一度この場所のバラ園の下で会ってはくれまいか」

「そんな、私……私、がいいんですの?」

「君がいいとも」

 約束の印におでこにキスをされる。

「はぅ……騎士様……」

 少しずれたジャボのひらひらの、ソフトな温かみに顔をゆだねるアンジェ。


 しかし、何か殺意のような者を感じ、アンジェは顔を上げる。

 そこには、わなわなと扇子を握る継母の姿があった。

「お義母様?なぜ?」

 彼女はアンジェに聞こえぬ高いテラスの上で、こうつぶやく。

「そんな! また私の事を邪魔しようというのですか……! アンジェ!」

 ピン底の少しくもった眼鏡の下の目線と、高いところから見下ろす継母の目線が交錯する。

 それは、継母の一方的な火花を相手に飛ばすものであった。

影の薄いアンジェの運命の人は騎士様なのか?

そして、継母の恨みのような目線は一体なんなのか?

期待されるのなら、星の方を付けて頂けるとありがたいです。

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