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翳りの月

作者: 由稀



月が翳っている時は月が泣いているんだよ。

そんなことを誰かが言っていた。


翳りの月



今日も月は雲に覆われている。

また 月は泣いている。


小さな窓から見える月を、ベッドの上で見ていた。


「また月が泣いてる。」


「あ?」

行為が終わって、煙草を吸う。


「ほら、月が翳ってるから月が泣いてる。」


月は翳っていて、輪郭さえもよく見えない。


「月は涙を流すんだよ。」


誰にも見せないように。ひっそりと泣くんだよ。

雲に隠してもらいながら泣くんだよ。


「誰かを想って泣くんだよ。」


まるで今のあたしみたいに。


「誰を想って泣くんだ?」

「さぁ?それはあたしには分からない。」


でもね、叶わない想いがあるんだよ。

あたしのように叶わない想いを馳せているんだよ。


「星はね、月の涙なんだって。」

あたしの言葉は半分も聞いていないだろう人に言う。


「だからキラキラしてるんだって。」

「そんなこと誰が言ってたんだよ?」


「あなたじゃない誰か。」

着ていた服を着なおそうとベッドから出ると手を掴まれる。


「その誰かさんに惚れているのか?」

手に力が入る。

「その誰かさんを思ってお前は泣くのか?」


離してと手を振りほどいた。白い腕に赤い跡が残る。


「そんなことあなたに言う必要ないよ。」

下着を付ける。


「あなたに指図する権利はないよ。」

Tシャツを着る。




あたしをお金で買ってるくせに。





「待てよ。まだ時間があるだろう。」


「ないよ。違う客が待ってるから。」

テーブルの上に置いてあるお金を掴む。

薄っぺらい紙だけが信用できる。


体を売り始めたのは幼い頃。

何年前か分からない。でも、生きていくためには仕方のない行為だった。


「誰を見ている?何故、俺を見ない?」

後ろからて抱きしめられる。

「あなたを見ても救ってくれないよ。」

背中から温もりが伝わる。


人ってどうして温かいんだろう。このまま身を寄せたくなってしまうほどに。


「多くの人は月を知っているのに、月を見ているのに、月が見ているのは他の誰かなんだよ。」


それって残酷だね。


「お前のようだといいたいのか?」

「どうして?」

耳元で聞こえる声。


そろそろ離してもらわないと温もりに流されそうになる。


「お前が見ているのは誰だ?多くのものに抱かれて、けれど瞳では誰も見ていない。」

「あなたの知らない人だよ。」


抱かれている間瞳をつぶる。

誰に抱かれているのかを曖昧にさせる。

そうすれば、愛しい人に抱かれていると錯覚できる。


「もう離して。時間はとっくに過ぎているよ。」

温かい場所から離れる。


「バイバイ。また呼んでね。」

正面を向いて、唇を重ねる。


さよなら。と呟いて部屋を出た。



夜空には月が翳って見えている。

あたしも翳って生きている。



届かぬ想いを抱えながら。



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