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8 ハッキリ言ってやるわ

 

 支度を終えた村長、レイ、そしてグリムはアメリアと共に村を出発して彼女の村へと向かっていた。


「なあ、グリム。どうしてこの件にここまで首を突っ込む? 余所者のお前がそこまでする義理はないだろう?」

「なによ今更。エールの家に住ませてもらってるんだからその周りの安全を意識するのは生き物として当然じゃないの」


(もともと私が魔法使ったせいでこんなことになったなんて言えないわね……)

 幸いにして、レイたち村の人々はそこまで勘づいている様子がなかったのがせめてもの救いだった。万一にも気が付かれてしまえば何をされるか分かったものではないから、グリムとしては()()このまま隠し通すのが望ましかった。


「ところでアメリア、村での話を聞くにあんたの村の村長は相当問題があるようね?」

「ああ、まあな……野心家であまり私らの話は聞いてくれなくてな」

「あまりどころじゃないだろ? 隙あらばオレたちの村を()()しようと狙っているくせに!」

「あ、ああ、それはいつもすまないな」


 レイがここまで言うあたり、不快感を催すほどであることは確かなようだ。


()()ってなによ、レイ?」

「そのままの意味だ。自分の村の魔法少女に他の村を襲わせて占領する野蛮なことだぜ。資源に困窮してたり村を発展させるためにやったりするのがあるな」


(同族で何やってんのよ……)

 グリムは呆れた。モンスターという倒すべき敵が毎日のようにやってくるのに協力もせずに争っているというのはどうにも納得しがたい。


「ん、そろそろ村に着くぞ」


 アメリアが指をさした先にそれなりの規模の村が見える。

 エールたちの住む村と比べて規模は少し小さい程度かと言ったところだが、畑などは農作物をより多くとるためか大きいようだ。

 グリムたちは村に入ると早速横手に損壊した建物を発見した。何人かの村人が集まって撤去作業を行っているところを見る限り、あれが倉庫のようだ。


(ぺしゃんこね……村からの距離は思ってたより大分近かったけど、あの爆発の衝撃で崩壊するなんてよっぽどオンボロじゃないの)

 魔界や次元の狭間で戦うときは周りを気にしなくても良かったが、グリムは改めて人間界のデリケートさを感じた。

 それはさておき、グリムたちは村長の家を尋ねた。


「ひっひっひ、きよったかバルグ。お前にしては早い返事だな?」

「ドルグ、毎度毎度面倒な要求しおってからに…」


 中から出てきたのは筆髭を生やし、白髪の目立つハゲたお爺さんだった。彼はにやつかせながらエールたちの村の村長……バルグとグリムたちを出迎える。


「まあいい、話が早くまとまったのなら早速話そうではないか」


 そう言ってドルグは中へと案内した。


「レイ、あいつと村長ってなにか繋がりがあるの?」

「実の兄弟。村長が兄、あいつが弟」


 彼の家のリビングには既に向かい合う形で机や椅子が配置されており、どうやらグリムたちが交渉に来ることは予め予想できていたみたいだった。


「で、アメリア。お前が戻ってきたということは全ての作物が手に入るという算段が付いたんだな?」

「はっ、えっとそれが—―」

「それについてはこの私が話すわ」


 アメリアが事情を話す前にグリムが話に割り込んだ。


「なんじゃお前は?」

「あたしはグリム・ワルキューレ。前置きはいいから単刀直入に言うわ。あんたたちに村の作物の半分をくれてやるわ」

「はんぶん? 全部ではないとはどういうことだ!?」


 理想と違う交渉に思わず彼は座っていた椅子から立ち上がった。


「そのままの意味よ。倉庫を直すまでは持ちこたえられるんでしょ? 私たちがそれまでの食糧を分けるから倉庫直しに尽力しなさいってこと」

「承諾できんぞ! 第一、お前のようなやつはバルグの村に居なかっただろう!? お前のような子どもが勝手に決めることじゃない!」

「なによ、ちゃんと話し合って決めたって。ねえ、村長、アメリア?」


 二人は首を縦に振って同意する。


「ぬうう……! こうなれば仕方ない、アメリア、こいつらの村をやってしまえ!」


 ドルグの命令に対して彼女が返したのは「できません」というたった一言だった。


「な、お前、拒否するからには村の仲間がどうなってもいいっと言うんだな!? お前の家族を村八分にしてやっても、毒殺してやってもいいんだぞ!」


 アメリアは沈黙していたが、その真剣な眼差しから村人を大事にしているのは目に見えていた。


「ちょっとちょっと、なに強硬手段使おうとしてるのよ。自分のためには仲間も切り捨てようなんてあんた、どこまでもがめつい人ね」

「な、なんじゃと!?」

「もうちょっと村長らしく周りを見てみなさいよ。アメリアは強硬手段なんて望んでないし、今私たちが提案しているように他のやり方だってあるのよ? それでも「私利私欲のために」って考えを改めないのなら—―」


 グリムは片手にプラズマを帯びた赤黒い火球を出現させてドルグに見せつけた。彼は思わず「うわあ!」と火球に怯んで狼狽する。


「あたしがあんたを焼き殺すよ?」


 脅しにも近い彼女の忠告にドルグは委縮していたが、グリムは火球を出現させたまま椅子から立ち上がって近くの窓の方へと歩く。そして窓を開き、皆が注目している中で火球を蹴り飛ばした!

 見せつけるようにして放たれたヘルファイアは窓から外へ、その先の大きな湖に火球が落着する……


 ドゴオォンッ!!!

 大爆発と共に巨大な水柱と紅蓮の炎が見え、村の方にもその振動と衝撃波が伝わって建物を揺らした。


「うわっ! こ、この衝撃は!」

「ぐ、グリムお前まさか……」


 この時、アメリアやレイなどのその場にいた誰もが倉庫が壊れた原因に気が付いた。


「お、お前があのときの地震を!?」

「ええ、そうよ。あのときはモンスターを一掃するのに使ったけど、これをあんたの村に直接使ったら……これぐらいわかるはずよね?」

「わ、わかった、お前たちの提案に従おう。全部が0になるよりはマシだ……」


 交渉は成立した。

 グリムの「村の作物の半分を提供する案」が半ば強引ながらも通ったのだった。


「そして次いでだドルグ、アメリアのやつに酷いことをしやがったら俺が許さねえからな!」

「レイ……」


 同じ魔法少女としての彼女への気遣いだろうか、レイからの意外な発言にアメリアも驚いている様子だ。


「そ、そんなことせんよ! さっきのは冗談だったんじゃ、じょうだん。ワシがお前ほど優秀な魔法少女を頼りにせんわけがないじゃろう?」


 さっきまで欲望は何処へやら、すっかり態度を変えたドルグにレイも「この爺……」と小さく声を漏らして呆れた。


 ***


(よし、これで私が村に居る限りドルグも面倒なことはしないし、私は追い出されない。我ながらかんっぺきなタイミングの種明かしとヘルファイアだったわ!)

 10歳女児のような外見からは想像もつかない大胆さと知略で乗り切ったグリムは内心ホッとしながら村長たちとともに村への帰路についていた。


「のう、グリム。こんなことを聞くのは失礼かもしれんがおぬしは何歳なんじゃ?」

「俺も気になる、見たところ10歳くらいに見える」

「え? そうね、この世界の1年っていうのがどれくらいかわからないけど、魔界だと17歳よ」


 見た目は10歳、中身は17歳。魔界の時間の流れが早いのか、人間界が遅いのかはさておき、精神年齢は外見の比ではないのだろう。


「17!? お前、俺よりも一つ上なのか……」

「そう? じゃあレイには今度から敬ってもらおうかしら?」

「ぐ…そいつはごめんだ!」


こんな幼女の外見の相手を敬うのも気が引けるだろう……。


レイ「ところで、結局は強硬手段になっちまったな」

グリム「なによ、問題が片付けばなんでもいいでしょ? いつまでも平行線だったら面倒じゃない」

レイ「そりゃそうだが、なんていうか、ゴリ押しっていうか……」

グリム「しょうがないじゃない。こんなのあたしも初めてなんだし」

レイ「ええ!? そ、そうだったのかよ……俺も頭捻ればよかった」

グリム「ま、早い者勝ちってことよ」

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