4 ヘルファイア!
—―その夜―—
「そろそろ、村の外にモンスターが来るね」
「モンスターって?」
「動物よりも危険な生き物だよ。普段はおとなしいんだけど、夜になると活発化して村に近づいてくることがあるの」
「それなら結界で防げばいいじゃない」
グリムの正論にエールも頷く。
「村にも一応結界はあるんだけど、魔力炉の関係でどんなに強力な結界でも一時的に結界の切れ目ができちゃってそこに入ってくるの。でも、レイたちが守ってくれるから心配ないよ!」
「ふぅーん…」
グリムにとってモンスターという生き物を初めて知ったが、それよりもこの村の魔法少女、レイとマリーがどう戦うのかが気になった。
「ねえ、エール。二人の様子を見てきていい?」
「ええ? …グリムって魔法少女なんだよね。じゃあ大丈夫かな。でも、気をつけてね」
「じゃ、行ってくるわ。ハンナは此処で待ってなさい」
「分かりました。行ってらっしゃいませ、グリム様」
ハンナとエールが見送り、グリムは家を後にした。
村の外には一般人の気配は感じられず、グリムはとりあえず家の屋根の上に飛び乗って辺りを見回す。
すると、村の東側と西側から迫ってくるモンスターの群れをすぐに捉えた。さらにその東側では素早く動く一つの動きを捉えた。それはモンスターのものじゃない……剣を持って迫りくる敵を切り倒していく姿。間違いない、魔法少女だ。おそらくはレイだろう。
銀色の鎧のような戦闘服を身に纏い、長身の剣を片手に持ってスライムやコウモリ、ハエトリグサのような植物のモンスターと交戦しているようだ。
しかし、グリムは彼女が何者かと通信魔法をしながら戦っていることを魔力感知で突き止めた。早速傍受開始―—
「マリー、そっちはどうなってる?」
「……うん……レイ、問題ないよ……」
別方向で村を守っているマリーに度々通信魔法で呼び掛けているが、あまり反応が良くない。これは何かあると感付ている様子だが、今の持ち場を離れるわけにはいかないはず。かといって、別方向の敵を放置するわけにもいかないだろうが……。
「マリー、お前まさか?」
「……へ、平気……こ、これくらい……」
さっきよりも弱々しくなるマリーの声を聞いて冷静ではなくなったのか、レイの悪態が聞こえた。
しかし、敵はなかなか退いてくれないようだ。奥から次々と現れるモンスターの物量はレイに易々と凌ぎ切れるものではなかった。
「くそ! 何だって今日に限って……!」
「レイ……無理……しないで……!」
レイは戦友の命がかかっているという状況に苛立ちを感じているが、マリーはこの期に及んで他人の心配をしている。
(はぁ、聞いちゃいられないわ)
グリムはレイへ向かって通信魔法を飛ばした。
「お困りのようね? 魔法少女のレイ」
「その声……昼間の!」
「はぁ、そんな警戒しなくていいって。あのマリーって娘は心配しなくていいわ」
「それを信じろっていうのか?」
「信じるも信じないもあんたの勝手よ。どっちみち、今のあんたじゃこっちまで来れないでしょ?」
「じゃ、そっちはよろしく」と言って通信魔法を切り、マリーの居る西側の入り口へと向かった。
そこには、「はぁ……はぁ……」と発作を必死に抑えながら手にしている青色の杖でなんとか立っているマリーが居た。グリムはため息をつきながら彼女へ近づく。
「あんた、そんな状態じゃ無理よ」
「平気……平気だから……! こんな発作が起きたくらいで逃げたら、私は村の人たちを守れない……! 村の人たちは私たちが守らなきゃダメなの!」
「あのね、いくら意志の力が強くてもあんたの身体がついてこれなきゃ意味が無いじゃない。もっと自分を労わりなさい」
そう言ってグリムはマリーを介抱しようとするが、彼女はそれを断固として拒否した。
「でも! 私はそれでも魔法少女だから……!」
「はぁ、あんたって意外と頑固ね。…もういい、意固地になるなら黙って見てることね」
グリムはマリーの前に立ち、迫ってくるモンスターの群れを眺めた。
ゼリーのようなスライム、大きな芋虫、地面を掘り進んで迫ってくるモンスタ……。どれも魔界では見なかった面白そうな敵たちだ。
(よーし、みせてやろうじゃないの!)
早速グリムは、右手に赤黒い光とプラズマを発する禍々しい火球を生成した。
それを上空に放り上げ、一回転するように身体を捻り、火球がちょうど落ちてきたところに鋭いサイドキックをぶち当てた!
「【ヘルファイア】ッ!!!」
遠心力を乗せた強烈な蹴りで飛ばされた火球は赤黒い尾を引きながら地を抉り、大気を震わせ、まるで撃ち放たれた砲弾のように突き進んでいく……!
そして、モンスターの群れに触れようとしたその時、カッと一瞬白く光り—―
ドッゴオォンッ!!!
陽のようにも見える紅蓮の大爆発が夜を照らし、周囲のすべてを焼き尽くし、聞いた者の耳はおろか肺すら振動させるほどの轟音と地を滑る衝撃波が周囲に響き渡る……。
「ひゃあッ……!」
そのあまりの眩しさと衝撃にマリーは驚きと悲鳴が出て持っていた杖で衝撃波への防御姿勢を取る。
対照的にグリムは衝撃波などものともせず、誇らしげに腕を組んでいた。
そして、すべてが静寂に戻るとそこには大きなクレーターができている……。
「まあ、こんなものね」
格好つけるグリム。その一方で目の当たりにしていたマリー、遠くで爆発を見ていたレイは思わず言葉を失った。たった一発の火球の爆発に巻き込まれたモンスターはすべて消え失せ、村の結界の再起動も無事完了したことでこの戦いは無事に終わったのだった。
エール「グリム、すごい魔法だったね!」
グリム「そう? ま、それよりも今日はあたし床で寝てもいいわ」
エール「え!? ダメだよ! せっかく一緒に住むことになったんだからベッドで寝よう?」
グリム「でも、あんたの分しかベッドはないじゃない? 無理にやる必要はないわ」
エール「だったら一緒に寝よう! …グリムってあったかそうだし」
グリム「なにちょっと顔を赤らめてるのよ……まあいいわ。そこまで言うなら後悔しないでよ? あたし、寝相悪いから」