悪魔法少女★グリム～飛ばされた少女の第二の謳歌～

２４ デストローイ！

　グリムは早速、飛んでくるミサイル攻撃と相対した。

「【カオス・パニッシャー】！」

　彼女の両手から放たれた無数の暗黒の力がミサイルを次々と貫き、全て撃ち落とす。

　それと同時に大鎌を取り出してMDに肉薄していく！

　ふと、地上を見下ろすと、レイやマリーたちが対人兵器と交戦していた。

「クソ、こいつら硬い…！」

「どんな金属でできてるんだろう？」「どうすれば壊せるんだろう？」

　レイやアランたちの武器では兵器の装甲を貫けず、弾かれてしまう…その一方でマリーとハンナは強力な極太ビームを放ち、兵器を溶解させる！

「レイ、コイツらはどうやら魔力対策のバリアが張ってあるみたいだよ！」

「魔力対策！？　どうすればいい？」

「簡単なのは耐性を上回る魔力をぶつけることです」

　マリーやハンナは持ち前の膨大な魔力で強引にバリアを突破できるが、そんなものを持ち合わせてないレイたちでは手も足も出―—

「安心しろ、コイツらはたしかに魔力は通用しづらいけど、魔力を一点集中させた物理攻撃でかち割ればいけるみたいだ！」

　直後に踵落としで兵器を粉砕したノエルが攻略法を見つけた。

「なるほどな！　だったら俺もスピードで…！」

「おっけー！　じゃあ私たちは！」「二人で力を合わせれば！」

　両者ともに魔法を手先と脚に溜め、一気に駆け出して速度と重量を乗せた重い一撃で兵器に見事な風穴を開けた！

「待って！　もっと効率的なやり方があるよ！」

　そう言って現れたのはメリルだった。彼女は足元に大きな魔法陣を出現させ、水で構成された巨大なアザラシを呼び出した！

「まとめて食べさせちゃえばいいんだ！」

　彼女に呼応するようにアザラシは兵器群に地面から襲い掛かり、一瞬で十機以上も呑み込んで再び地面へと消えた。

「おお、たしかにこれなら—―」

　が、そう上手く行くはずもなく、メリルの元に戻ってきたアザラシは途中で何か異変を感じて吐き出してしまった！　レイもノエルも思わず唖然とした。

「あー…あれ、もしかして生き物じゃないからダメなのかな。この子、岩石のモンスターとかでも食べるの苦手だから…」

「ばっか！　そんなこと先に言え！」

　吐き出された兵器たちは少女たちの目と鼻の先で再び銃器を構えていた……。

「ま、まずい……！」とレイが焦燥していると、目の前に現れた少女が兵器へ大槌を振るい地面をヒビ割った！

「メリル、だから魔獣に頼り切るのは止せと言ってるだろう？」

　レイとメリルはすぐさまその少女がアメリアだと分かった。彼女の放った一撃で、兵器を倒すには至らないものの一時的に突き放すことができた。

「行くぞ、今回は誰か一人じゃなく、此処にいる全員の力が必要だ！」

　アメリアの言う通りだ。が、相手の兵器は兵器でも対人兵器。人間相手に一方的にやられるわけもなく、ターゲットを変更したのか、彼女たちへと反撃のバルカン砲が火を噴く！

「みんな！　バリアを使って身を守るのを忘れるな！」

　ノエルが注意喚起をするが、このままではこちらが防戦一方だ。

　状況を打開すべく空からジェリーが攻撃を行おうとするが、その脅威を察知したように前列にいた兵器たちの正確な射撃が今度は彼女へ集中した！

「か、躱すので精一杯…！」

　なんとか直撃を躱しながら空中で踊らされていると、突然に放火が止んだ。

　真下を伺うと、兵器には無数の茨や蔓が絡みついていた！　よく見ると、村の方から何発もの弾丸のような種子が発射されているようだ。

「まったく、貴様はこの程度の敵で根を上げるのか？」

「ろ、ローズさん！」

　発射元に居たのはローズ。彼女が指から放った【種子弾】は、兵器に命中するとすぐさま発芽して兵器に絡みつく。これを一発でも受けた兵器はその時点で動けなくなるほどの拘束力を持っているみたいだ！

「無策に空を飛ぶのはやめろと言いたいが、私が止めてる今のうちに撃て！」

「はい！」

　ローズの攻撃で拘束された兵器に、ジェリーの弓から高速の矢が放たれる！

「【ストライク・スティンガー】！」

　魔法を練り込んだ矢は捉えていた植物ごと兵器の装甲を易々と貫き、破壊する！

　ローズとジェリーの二人の連携によって、地上のノエルたちも持ち直しつつあった。

「エルフの君、えっと…」

「ローズだ。覚えておけ獣人」

「ああ、助かったよローズ。よし！　今のうちに攻め込むぞ！」

「おー！」「やるぞー！」

　これを好機と見たノエルたちは一気に攻勢を仕掛けて勢いづいた。

「おっと、地上の方が押され気味だね。ここは…！」

　翠のMDが右手に構えた大型のライフルを向けると、キィン…という高音と共にエネルギーを収束し、放った！

「その隙もらった！」

　咄嗟にグリムがライフルを真っ二つにするが、すでにエネルギー弾は地表に向かっている…！

「アンナ！」

　ノエルの呼びかけに反応して、下で待ち構えていたアンナが飛び出し、迫り来るエネルギー弾を受け止めた！

「ノエルたちの邪魔はさせない！」

　そのエネルギーはアンナの解放した謎の空間に飲み込まれ、消え去った。

「そんなバカな！？　一体どんな魔法を—―」

「バカはあんたよ！　よそ見してる暇があるとはね！」

　唖然としていた翠のMDはグリムに左腕の肘関節を切断され、残るは武器を失った右手のみだった。

「くっ…こいつ！ 猪口才な！」

「あら、あのドブネズミ、MDの弱点を知っているようですわ」

「なら手っ取り早く処すまで！」

　赤いMDの作戦か、3機は揃ってバックパックから大量の小型ミサイルを撃ち出した！

(流石に数が多いわね…！)

　対応しきれないと判断した彼女は、迫り来る無数のミサイルをすり抜けながら、カオスパニッシャーで撃墜していく。

　が、ミサイルの噴射煙が彼女の周りに立ち込める…！

「よし、これで終わり！」

　そこへ更にミサイルが放たれる！

「やば…！」

　度重なる波状攻撃に対応しきれず、挟撃される形でミサイルの爆炎へと消えた…！

「っち…しくじったわね…」

　グリムといえどミサイルにやられては致命傷か…そう思われたとき、傍にハンナが現れた。

「グリム様、もうお終いですか？　寂しいですね。まさか私があなたの墓を建てることになるなんて…」

「バカ！　こんなときにブラックジョークを言う暇があるならなんとかしなさいよ！」

「分かりました。じゃあ、本当に久しぶりですが、ア(・)レ(・)をやりますか？」

　 グリムはそれを聞いて嫌な顔をしたが、渋々頷く。すると、ハンナと彼女の身体が黒く輝きだした！

　それはお互いに溶け合い、融合していくように一つの身体へと収束していく……！

　そして、煙を裂いて現れた！

「本当に久しぶりよ、この姿になるのなんて……！」

　その姿は、今までのグリムと身長は大して変わらない。が、その手足には幾何学模様のような紅いタトゥーが入り、戦闘服はより露出度の多いものへと変化している。

「なにあれ、さっきとはまるで違うじゃないの！」

「あんなの聞いたことありませんわ！」

「と、とりあえず向こうは1人だ！　狼狽えずにいこう！」

　恐れ多くも、三機のMDは再びミサイルを放ち、打ち尽くしたことを確認すると続けざまにエネルギー弾を発射した！

(1人のまま…ねぇ？)

　砲火が迫る中、グリムは不敵に笑うと、その場から消えた！

　火線が交差しても爆発の一つも起こらないことに3機は口々に驚愕した。

「い、いないよ！？」

「ど、どこに行ったのですの！？」

「そ、そう遠くには行っていないはず…」

　次の瞬間、蒼いMDの頭部が斬り落とされた！

「きゃあああ！　メインカメラが！」

「なに？　痛くもないのに悲鳴なんか上げてんの？」

　咄嗟のことで首無しになったMDは目の前で罵る彼女の存在に気が付かず、続け様に四肢の関節を断ち切られ、挙句にバックパックに至近距離からカオス・パニッシャーで撃ち抜かれた！

　無惨な棺桶と化した残骸は村から離れた平原に無惨にも墜落していった。

「な、なんて野蛮な！　恥を知りなさい！」

　義憤に駆られた赤いMDから紅蓮のエネルギー弾が放たれ、それは確実にグリムの姿を捉え射抜いていた…！

　それに「やった！」MDは歓喜したが、その直後に今度は翠のMDの目の前にグリムが現れた！

「な！？」

「惜しかったわね。分身よ」

　絶望を味わう間もなく、翠のMDは胴と腰の間の接合部を断ち切られて真っ二つにされた！

　それと同時に、グリムは胸部にあるコックピットめがけて装甲の隙間から鎌を突き立てるが、何も反応がなかった。

(声がしない……もしかして、前に聞いたことのある例のシステムを使って制御しているようね)

　何かを察した彼女はダメ押しに頭部を斬り飛ばして撃墜すると、残る赤いMDの方へと向いた。

「まだその機械でお(・)ま(・)ま(・)ご(・)と(・)を続ける気？　大人しく降伏してあたしの靴を舐めたほうが良いんじゃないの？」

「ま、ままごとですって！？」

「あんた、その機械に乗ってないんでしょ？　遠隔操作って下らないやつで」

　グリムは激昂寸前だった。もちろん、彼女たちが自身へ行った所業もあるが、彼女たちが自ら戦いに赴くことなく兵器に頼り切ってゲーム感覚で戦っていたことが本当に気に食わなかった。

「うるさい！　低俗な貧乏人だったドブネズミちゃんの靴なんか誰が舐めるのよ！？」

「あっそ、じゃあその高級な機械には壊れてもらうわ」

「ちっ……！」

　MDは舌打ちをしながら目くらましの煙幕弾を放ってグリムから離れると、村の真上に行くと胸のパーツを開き、全てのエネルギーをそこへ収束し始めた……！

「はっはっは、最初からこうすれば勝ち確定なのよ！」

　MDからは高笑いが聞こえる……。

　地上の少女たちは兵器の掃討を終えたとはいえ、この状況に冷や汗を流したことだろう。しかし、ノエルは冷静にアンナに聞いた。

「あれも吸収できるか？」

「いや、範囲とかが分からないから咄嗟にはできないかも…ごめん」

「そうか……」

　彼女たちが息を呑んでいると、目の前にグリムが現れた。

「ぐ、グリム！？　その姿は一体―—」

「話すと長くなるわ」

　変わった姿にレイたちが言及するよりも早く彼女は片手に燃え盛る炎の球体を、もう片手には禍々しく蠢く闇の球体を形成した。

「あんたたちは全力でバリアを形成しといて。ちょっとヤバいことになるから」

「分かったわ」

「バリアなら私も使えるから協力するね！」

「私も協力しよう」

　エレナ、マリー、ローズが、それに続いてレイたちも魔力を提供する形で協力して、オレンジのバリアに蔓と茨が支える鉄壁が出来上がった！

　それと同時に、MDからも極太ビームが放たれる！

「よーし、あとはゴリ押しであれを破るだけ！」

　二つの球を宙に放り上げ、それをオーバーヘッドキックするようにMDめがけて蹴り込んだ！

「【スカーレット・ディストーション】ッ！！」

　二つの球体は螺旋を描いて互いに混ざり合い、一つの魔弾として膨大な魔力と赤と黒の軌跡を残しながら突き進み、そのちょうど中間でビームとぶつかり、バチバチィッ！と凄まじい音を立てながら鍔迫り合いが始まった！

　すると、グリムの放った球体はビームに飲み込まれてしまった…ように見えた。

「私の勝―—なにっ！？」

　その直後、MDの元に現れたのはビームを一直線に突き進んできた魔弾だった！

　魔弾はそのままMDを押し込んで突き進んでいき、空中で紅蓮と漆黒の大旋風を巻き起こした…！

「す、すごい、何が起きたんだろう……！？」

　後ろで他の村人とともに避難していたエールからも、それはまるで厄災かのように見えていた。

　しばらくすると、天からは焦げたMDの部品が結界の外へ降っていった。

「ふぅ、あれに耐えられる結界が作れるなんて。あんたたち、ご苦労さま」

　そう言うと、グリムとハンナは元の姿へと分かれた。