22 任務完了!
翌日、ノエルから魔力炉用の氷塊を無事に受け取ったグリムたちは、空を飛んで無事に村まで戻ってくることができた。
彼女たちは朝早くから出発したわけだが、着く頃にはすっかり昼食時を過ぎていた。
「おお! 彼女たちが帰って来たぞ!」
「これで魔力炉を直す材料が揃ったってことだよな!」
魔力炉修理の最後の材料である氷塊を持ち帰ってきたことに、村人たちは一段と歓喜していた。
労いの言葉をかけられながら、グリムたちはまず村長の元へと向かった。
「村長、例のブツが揃ったわ」
「おお……本当にご苦労だった。まさか本当に、原産地から材料を手に入れてくるとはこれは奇跡か?」
「いいや村長、これは現実だぜ。これで魔力炉は、村は安泰だ!」
レイも安堵したように笑みを浮かべていた。
報告を終えたら今度は、魔力袋の中にある氷塊を渡しに行くためにレイの父であるグランに会いに行った。
「おう、嬢ちゃんたち。本当にお疲れ様だ」
「親父、これで必要な素材は集まったよな?」
「ああ、あとは俺の出番だな」
「いや、俺も手伝わせてくれ!」
「いいのか? ここまでのハードスケジュールでお前も疲れてるんだろ?」
「大丈夫、魔力の余裕はまだあるからな。出来るだけ早く完成させたいんだ!」
レイはグランの元に残り、役目を終えたグリムたちはエールの家で休息していた。
「いろんな人たちのお世話になったけど、やっぱりグリムがMVPだよね!」
「エルフの森の一件と、わたしが山にぶつかりそうになった時にも助けてくれたからね」
「そう? ま、原産地に行って素材取ってくるって言ったのはあたしだから当然のことをしただけよ。それに、あたし一人じゃ絶対こんなに早くは取ってこれなかったでしょうね」
「そうかな……。ジェリーは空を飛んでひとっ飛びできたりしたけど、私はなんにもできなかったし……」
「なによ、ついて来ても良いって言ったのはあたしよ? 今になって後悔なんかしなくていいからあんたはあの作品をとっとと完成させなさいよ。もちろん、あたしも登場させてね?」
「う、うん……」
グリムは絶対にエールの作品を読みたいだけな気がする……。
エールは彼女の気迫に押されて頷くと、すぐにノートを取り出した。それと時を同じくして、キッチンからいい匂いが漂ってきた。
「グリム様、エール様、それからジェリー様。そろそろ帰ってくる頃かと思って準備しておいて正解でしたわ。遅めですが昼食の用意ができています」
「あら、ハンナ。あんたにしては珍しく気が利くじゃないの」
「ふふ、今まではグリム様と一緒のことが多かったですが、今回は久しぶりにしばらく会えなかったですからね。変な気分でしたよ」
ハンナが持ってきたのはレタスとマカロニサラダを組み合わせたクリーミーで新鮮なサラダと、出来立てアツアツのグラタンだった。
「わあぁ、すごく美味しそう……これ、わたしも食べていいの?」
「はい、ジェリー様の分もありますよ」
「ハンナ、あんたもしかして料理の腕上げたかしら?」
「まさか、食材が増えたからだけですよ。グリム様は舌と目が貧しいからそう見えてるだけです」
「むぅ……! 結局いつものあんたじゃないの」
彼女の皮肉交じりの話し方が無くなったわけではないみたいだ。
「えっ、食材……たしかにマカロニも牛乳も余ってなかったはず……」
「ああ、エール様。それが、アメリア様とメリル様が昨日の夕暮れ時に「個人的に恩返しがしたい」と言って色々と持ってきてくれたんですよ」
(へぇ、あのメリルもそんなに義理堅かったとはね)
とはいえ、それにしてはバリエーションが一気に広がったような気もするが……。
「ま、それだけじゃなくて、昨日はグリム様たちが出発した後にグレーツ山の地底人の方や、森から来たエルフの方も来ていたんですよ」
「ええ? 森から来てるエルフってわたしだけじゃなかったの?」
「話を聞いたところによると、グリム様の使っている魔力袋から一気に人間に対する興味・関心がエルフの中で高まっているとのことです」
「やったね、ジェリー! これでエルフの人たちも外の世界に進出してくれるよ!」
「うん……! こうなってくれたのも、君たちと出会えたおかげだよ!」
ジェリーは思わずエールと抱き合って喜んだ。
一方で、グリムはこれまで会った魔法少女たちのことを反芻していた。地底人の双子、閉鎖的な世界で生きるエルフのジェリーたち、多くの仲間たちと共に戦う獣人たち……。
「グリム様、この世界はどうです?」
「そうね、面白いと思うわ。いろんな能力を使うヤツも居たし、魔法って言ってもただ戦いに使うだけじゃないってのも再確認できたような気がするわ」
「ふふ、今度は私も連れて行ってくださいね?」
「……それは考えておくわ」
遠回しに嫌と言っているのは内密だ。
すると、外から扉をノックする音が聞こえてきた。
食事中のエールが「開いてるよ~」と応えると、開いて現れたのはマリーだった。
「お邪魔するね。まず、あなたたちに一言言わせて。……村を救ってくれて本当にありがとう」
「どうしたのマリー?」
「なんでもない。ただ、私の口からそう言いたかった。それと、いつになるかはわからないんだけど、魔力炉の修復をお祝いしようってなったの」
「お祝い!?」
(お祝いねぇ、ちょっと喜びすぎなんじゃないの?)
思い返せば、魔界に居たころの任務に比べればこの程度は軽いものだったが、歓喜乱舞するこの世界が少し不思議だった。
が、(それもまた悪くない)と彼女は密かに笑みを浮かべていた。
「此処は一体…?」
「まさか、狭間の先にこんな世界が広がっているとは思いませんでしたわ」
「すごく暇そうな世界だけど…ちょうどいい、魔王様の手土産にしましょう」




