21 ♨ 温 泉 回 ♨
戦いが終わり、養成所へと戻るノエルとグリムたち。
「ノエル、今日は良いものを見せてもらったわ。あんた、現場を指揮する人に向いてるんじゃない?」
「そう? ま、アタシは精一杯やれることをやっただけだ。作戦が成功したのも、ゴーレムを倒せたのも全部皆のおかげだよ」
(謙虚なやつね……)
ノエルはまさに「キャプテン」と呼ばれるにふさわしい能力の持ち主だろう。
それを表すように、全員が無事に帰還しており、それを確認した彼女は一つ大きく背伸びをして何か楽し気な表情をしている。
「よーし、じゃあ皆。先に入ってきてくれ!」
……「「「はーい!」」」……
返事をした少女たちも楽し気な様子で何処かへ向かって行った。
「ねえノエル、みんなは何処に行ったの?」
「いいところだよ。先に行ったあいつらが戻ったら呼ぶからちょっと待っててくれ」
「?」
何のことだろうとエールは首を傾げた。
そしてグリムたちは借りた空き部屋に戻ってきた。
「いいところかぁ、どんな場所かな?」
「戦い終わったあいつらがあれだけ楽しそうにしてたんだし、特別な何かがあるんだろうな」
「わたしもレイの言う通りだと思う。何があるのか楽しみだね!」
そんなことを聞きながら、グリムは寝床に横になっていた。
(ノエルとアンナ、あいつらは間違いなく魔界のエリートにも匹敵する力を持っていた。っていうか、この世界の魔法少女は相当レベル高くない? もし、狭間から此処に魔族がやってきても侵略には相当時間がかかるでしょうね……)
この世界の大きさを考えていると、通信魔法でノエルに呼び出された。
「お待たせ! 次はアタシらの番だ」
彼女の言うがままに、グリムたちはその場所へと向かった。
すると、あることに気が付いた。廊下で見かける少女たちの髪に濡れた跡があり、シャワーか何かを浴びたようだった。
(まさかシャワーがお楽しみだったとかじゃないわね?)
グリムは少し期待外れな気がしていたが、なんにせよ英気を養えるのなら入って損はないだろう。
例の場所、そこには赤い垂れ幕があった。
「この中のようね……」
垂れ幕をくぐって奥へ進むと、そこは広い脱衣所だった。
「わぁ、な、なにこれ?」
「ただの脱衣所にしては広すぎるな……」
「シャワー室じゃないっぽいね」
ともかくとして、服を脱いでから先に行く必要があるとみたエールは服を脱ぎ始め、それを見たグリムたちも服を畳んでタンスにしまった。
「みんな、鍵持った?」
タンスの鍵を各々が持ち、いざ、中へ……
「へぇ、中はこうなってたのね」
「すごい! これってもしかして温泉っていうのじゃないかな!?」
「エール、なによそれ?」
「前に本で読んだことがあるんだけど、温かい湯に浸かって英気を養うんだ! グリムも聞いたことない?」
「魔界にはそんなものなかったわ……」
そこは大浴場だった。どうやら、少女たちは戦いを終えたのちこの場所で疲れを癒し、英気を養っていたんだろう。
グリムたちも早速湯舟に浸かった。
「うぅ、ちょっと熱いけど良いわね。なんだか身体の力が抜けていく感じがするわ」
「ああ、なんだか落ち着くぜ……」
魔力で体温を管理する必要もないだろう。ノエルが言っていた通り、確かにいい場所だ。
温まっていると、グリムはいつの間にか視線が集まっているのに気が付いた。
「なによあんたたち……?」
「お前って、俺よりも年上なのにホントに身体は小さいんだなって」
「え、グリムっていくつなの!?」
レイの言葉に驚くジェリーに「17歳」と伝えると、彼女はさらに驚いた様子をしていた。
「っていうか、あんたはそのゴーグル外さないの?」
「え、ああ、これはトレードマークだからね」
「なによ、別に外したっていいのに。ここに居るみんなあんたの素顔は見てるし、別に何とも思ってないはずよ?」
「ま、まあそうだけど、あんまり外したくないの」
ジェリーにとってゴーグルが身体の一部みたいだ。
そんなこんなでいろいろ話していると、グリムは外から何かの話し声みたいな音を聞きつけた。
「みんな、ちょっと静かにして」
全員が「?」となったが、グリムは聞き耳を立てている。
「ふぅ、今日もどうにかなったなー」
「ありがとう、今日もまた二人で入ってくれて……」
「なに、お前も大事な仲間の一人だからな!」
この話し声からするに二人しかいないことはすぐに分かったが……一人は聞き覚えがあるものの、内容はギリギリ聞き取れなかった。
すぐに外に通じるドアが無いかと見回すとすぐに見つけて、そこには「Open Air」と書いてあった。
(この奥ね……)
エールたちも連れて、いざドアを開ける。そこは湯けむりが広大に立ち上る露天風呂となっていた。
そして、二人の少女がそこに居た。
「わあぁっ!?」
グリムたちにいち早く気づいたアンナが驚きと羞恥心の混じった声を上げた。
「おっと、見つかっちまったな」
ノエルは案外驚いていない様子で、どうやらこの場所でアンナと二人だけで満喫しているようだった。
「さ"、さ"ふ"い"!!」
一方で、エールが外の冷気に当てられて即行で露天風呂の湯舟に浸かった……かと思いきや、今度は「あ、熱い!」と若干パニックになっていた。
「はぁ、しょうがないわね。エール、あたしの分身を使って」
「あつっ、あつ……あ、ありがとう」
エールが落ち着いたと同時にグリムたちも雪の降る湯舟に浸かった。
「ぅう、台無しだよ……。ノエル、ボク先に上がるね……」
「ちょっと待った!」
再び逃走を試みるアンナをグリムが引き止め、話を続ける。
「どうしてそんなに逃げようとすんのよ?」
「え、だって……」
レイも続けて「俺たちはお前と同じ魔法少女なんだから怖がる必要はないだろ?」と聞くが、困った様子で返答が返ってこない。それを見かねたノエルが口を開いた。
「まあまあ、あまり強く言わないでやってくれ。質問ならアタシが答えるよ」
「そう、じゃあ早速聞きたいんだけど、アンナのあの空間を操る力について教えて」
「ああ、あれか。あれは正直、謎だらけなんだよな。アンナもあまり意識してないんだよな?」
「そ、そうだね、細かいことは分からないな……ほとんど感覚だから」
(やっぱり謎だらけの力ってことね……)
彼女自身ですらも把握していないほどの強大な力ということだろう。
「んじゃ二つ目。アンナはノエルのことが好きなの?」
「ふぇ!?」
グリムの不意打ちでアンナはまるで高熱が出たかのように顔を真っ赤にしていた。
「え、えっと、それに関しては聞かなかったことにする」
「えっ、ちょ……」
「次はどんなことが聞きたい?」
(おい! 無視すんな!)
ノエルに白々しくスルーされたが、アンナが図星なのは間違いないだろうな!
「はいはい! ノエルはアンナのこと好きなの?」
空かさず今度はジェリーが便乗してきた。が、さっきと違ってノエルは大きく頷いた。
「もちろんだ! だってアンナは大切な仲間だし、ルームメイトだからな!」
「ノエル……」
アンナはまんざらでもない様子だ。
「ノエル、お前のその脚を見せてくれないか?」
レイに聞かれ、彼女は素直に自分の脚を湯から出して見せた。それは一見すると華奢な少女と変わらないようだったが、グリムとレイが試しに触ってみるとそれは硬い筋肉そのものだった。
「うわ、すごい硬いわねこれ」
「ああ、まるで皮膚の一ミリ下がすぐ筋肉みたいになってるぜ……」
「な、なあもういいか? 恥ずかしいし、くすぐったいんだ」
筋肉の硬さを確認した後、レイはその脚のつくり方を聞いた。
「そうだな……。朝早く起きてランニングしたり、雪崩が起きそうなところにグランドバーストを使って均したりしてるんだけど、まあこの辺りは雪で地面が軟弱だから頑張ればこれくらいどうとでもなるさ」
「なるほど、軟弱な地面が鍵ってところだな?」
(レイ、どうやらノエルのあの脚に影響されたみたいね)
その一方で、エールが何か思い出したように口を開いた。
「ねえ、すごく今更かなって思うんだけど、魔力炉に使う氷塊って普通の氷じゃないんだよね?」
「そうだな。魔力炉を効率よく冷却する必要もあるし、何よりどんな熱でも溶けないってのが特徴だな」
「え、レイ、それじゃ簡単に手に入らないよね……?」
エールが危惧していると、ノエルが反応した。
「それに関しては心配しなくていいぞ。なんせ、此処の魔力炉を動かしてる氷はあたしが作れるんだから」
「え!? そうなの?」
「ああ、さっきの戦いでも見せたと思うけど、あたしは氷を生成できるんだ」
「ノエルの氷は溶けないしすごく頑丈なんだ……」
珍しくアンナが話に参加してきた。どうやら、魔法少女の生成したものには魔力が練り込まれて強化されている…のかもしれない。
「ま、だから氷は沢山あるわけだ。エールたちの村がアタシの氷で救えるのなら喜んで手を貸そう」
「あ、ありがとう!」
「感謝する。これで村は安泰だな!」
ノエルはなかなかの男前の少女だ。




