17 これで二つ目!
子供ドラゴンたちは一目散に墜落した母の元へと集まっていった。それを見て、エルフの幼女たちはつぶやいた。
「すごい魔法だったね……」
「ねぇ、これは勝ちってことだよね?」
「そうね。もうあの子供たちに敵対心は感じないし…そうだレイ、ちょっと折れた腕見せて」
「なんだよ?」
「いいから見せて」
グリムに頼まれ、包帯を巻いた腕をレイは見せた。グリムはそこへ触れると、魔力を流し込む……。
すると、彼女の骨折はみるみるうちに回復していく!
「な、なんだ!? お前、マリーみたいな回復魔法まで使えるのか?」
「あたしはそんなの持ってないわ。あんたの腕に魔力流して身体が勝手に治しただけよ」
治癒力を高めたということだろうか。ともかく、彼女の腕は何事もなかったかのように動くようになった。
「なんでこんなことを俺に?」
「なんでもなにも、味方が傷を負ってたら治すものでしょ? まあ、ここまで治癒するとは思ってなかったけど」
「み、味方か……」とレイは納得できるような、できないような気持ちだった。
それはさておき、ドラゴンたちがどうなったのか気になったグリムたちは後を追って墜落現場に着いた。
そこには虫の息の状態の母と、心配そうに駆け寄っている子供たちがいた。
「助けてあげられないかな?」
ジェリーはその様子を見てつい情が湧いてしまった。それはレイもエールも同じだった。
「おいおい、いくらモンスターとはいえ、何かしてあげたい気持ちになるのも分かるが…」
「かわいそうに…仲間に裏切られるなんて……」
「仲間に裏切られる」その言葉を聞いたグリムは己とドラゴンが重なった気がして少し妙な気持ちになった。
そして、彼女の元へ近づくと鼻の上の角に手を置いた。
「これは楽しませてもらった礼よ」
魔力を流し込み、後は自身の生命力に任せて治癒をさせる。
しばらくすると、ドラゴンは気がついたのか目を開いた。
「おお! 治ったの!?」
「流石グリム!」
ジェリーとエールが嬉しそうに喜んでいるが、グリムは「まぐれ」だと答えた。また暴れられても困るし、最小限の魔力しか与えていなかったからだ。
ドラゴンは「グルルル……」と、威嚇とは違う唸り声をグリムにかけ、立ち上がると子供たちを連れて飛び去っていった。
その唸り声は、感謝の意だったのかもしれない。
とはいえ、これで一件落着だ。あとは帰るのみ…なのだが。
「ジェリー、あんたの乗り物の定員は?」
「あ、えっと…子どもたちを全員運んで、あと二人くらいが限界かな……」
「一人余るわね。じゃあ、魔力の残りが不安だけどあたしは空を飛ぶわ」
「「「「「え!?」」」」」
その場の全員が驚いたみたいだった。
(あんたたち、そんなに驚くことないじゃない……)
一応、グリムの背には翼があるのだが、誰も空を飛ぶためのものとは思ってなかったようだ。
実際に飛翔して見せると…
「ほ、ほんとに飛べるのか…じゃあお前、ジェリーの矢にまたがる必要なかったじゃないか?」
「そんなことないわよ? これ魔力使うんだから」
魔力を消費するからずっと飛べるわけでもない。そのことを知ったレイは「走らせてくれ」と名乗り出た。
「れ、レイ? 本気なの?」
「いいの? 君は空を飛べないし、そうなると追いつかなくなるんじゃ……?」
エールとジェリーが心配する。
「構わん。今回、ロクな役に立たなかった分走らせてくれ!」
「もう、自分から苦行を選んでから後悔しても知らないわよ?」
レイは思いの外ストイックのようだ。
ジェリーはエールたちと子どもたちを乗せて、レイは地面をハイスピードモードで疾走してエルフの樹海の前まで飛んできた。
「ぜぇ、ぜぇ……」
「レイ、やるじゃないの。ちゃんとあたしたちに追いついてくるなんて。もうバテバテみたいだけど」
「なに……これくらい平気だ! 脚なら自信があるからな……!」
その様子に、エルフの幼女たちも「すごいすごい!」と驚いている。
息を絶え絶えにしながらも、空を飛ぶグリムたちに大地を疾走して追いついてこれるのだから彼女の脚は大したものだと言っていい。
エルフの子らとともにグリムたちは里の神殿に再び訪れる。
「貴様たちか……まさか本当に帰ってくるとはな」
「ほらローズ、私の言った通りじゃない。ジェリーが裏切るはずないわ」
「ええい分かっている! 私だって本気であいつが裏切るとは思っていないぞ!」
同胞の絆というものだろうか。ローズとエレナはジェリーたちが戻ってきたことにホッとしているようだ。そして、長老も—―
「よく戻ってきましたジェリー、そして誠意ある友人たちよ」
「は、はい、長老、これでわたしは……」
「ええ、あなたが里に戻ることを認めましょう」
ジェリーはさぞ嬉しそうな表情をしていて、心の中でガッツポーズを決めていたに違いない。
「じゃ長老サマ、木を数本貰うことも?」
「認めましょう。あなたたちの望む魔力炉用の木材は最高品質のものを分けましょう」
「よろしいんですか、長老?」
「ええ、ローズ。彼女たちにはそれを授けるに値する信用があります」
(よっし! いろいろあったけどこれで二つ目も揃ったわ!)
グリムは魔法袋を取り出し、エルフたちの運んできた木材を押し込んだ!
「うわ、なんだその袋は!?」
「すごいわね、外の世界ってこんなに技術が進んでるの……?」
「まあね。気になるならあんたたちも外の世界に出てみたら?」
驚愕するローズとエレナには申し訳ないが、これは人間界ではなくこれは魔界の技術なので要注意。
「そうだ、君たちの村まで付いて行っていいかな?」
「ジェリー? 貴様何を考えているんだ?」
「ローズさん、何も悪だくみはしてませんよ……。彼女たちは信用できる人間なんですから、村を見てくることぐらい良いでしょう?」
「……まあ、彼女たちのような誠意ある人間たちが居るということを知れたのは貴様のおかげだ。なら文句はない」
ジェリーがどういう意図でそう言ったのかはグリムたちは首を傾げていたが、それは森の外で分かった。
「勝手を言ってごめんね。でも、私は君たちのことをもっと知りたい!」
「なに? そんなことだったのか?」
「ああ、ついでに送っていくよ!」
(意外にも思慮深いじゃないの)
ジェリーが全員を乗せて今度はグリムたちの村へと朱に染まる空を進んで帰還する。
「おい! レイたちが帰って来たぞ!」
村人たちは夜のとばりが降りたにもかかわらず、グランを始めとする村人たちがグリムたちの帰還を知って出迎えた。
「ただいま、木材を手に入れてきたわよ」
「いやーご苦労だったな。おお、これはとんでもなく良質な木材じゃないか!」
魔法袋から取り出した木材を見てグランは目を輝かせている。
「グリム様、よくもまあ私抜きでやってくれましたね」
「ハンナ、あんたは貶してるのか労ってるのかどっちなのよ?」
「後者に決まっているじゃありませんか。まあ、これもエール様やレイ様のおかげなのでしょう?」
「っち、意地でもあんたはそんな風に言いたいわけね……!」
労いにも煽りを忘れないハンナの言い方にグリムのストレスゲージがまた蓄積したんだとか。
「……ところで後ろの彼女は何者なんだ?」
グランと村人たちの関心はグリムの土産物に次いでジェリーに向けられる。
「私はエルフの里のジェリー・カモミールっていう魔法少女です。人間のことをもっと知りたくてついて来ました!」
「ほう、変わったヤツだな! 歓迎するぞ!」
人々が賑わっていると、上空で星のような輝きを放つ存在が現れた……!
「ちょっとレイ、みんな! モンスターが攻めてくるから早く避難しなさい!」
「マリー? あ、村の結界が解けてるじゃないか!」
レイの言う通り、ちょうどこのタイミングで結界が解けてしまったようだ。
そして、地平線の彼方にモンスターが終結しつつあるのが見える……。
「避難なんて勿体ないわ。なんなら此処に居る魔法少女全員で蹴散らしてやろうじゃないの!」
「お、おいグリム、お前疲れたりしてないのかよ……?」
「だって絶好のチャンスじゃない、こんな大人数で戦いを楽しめるチャンスなんてそうそうないわ」
彼女の魔法少女の血が騒ぐのか、グリムは疲れを忘れて燃えている。
「じゃあグリム様、誰が一番多く敵を殺したかで勝負しますか?」
「人間の戦い方か……私も気になるから付き合うよ!」
ハンナの一声ですっかりキル数で勝負することに決まってしまった。
「面白い! ハンナ、あんただけには絶対負けないから!」
「ふふ、グリム様でもそう簡単に行くとお思いですか?」
「……もう、村で待ってた私の仕事を奪うつもり? まあいいわ、やる以上手加減なんか微塵もしないからビームに当たらないように気をつけて!」
それぞれがその手に武器を顕出させ、迫りくるモンスターへ我先にと突き進む……!
「はぁ、まだ休めそうにねえな!」
レイも渋々彼女たちの後に続き、エールは彼女たちの苛烈な戦いを羨ましそうに眺めていた。
「いいなぁ、魔法少女って……」
グリム「…で、数は?」
ハンナ「そうですね、ここは観戦していたエールさんに聞きましょう?」
エール「え、はい…えっと、ハンナさんとグリムが同じ数でした…」
グリム「はぁ!? あんたちゃんと数えたんでしょうね!? こいつと同点なんて―ー」
ハンナ「エール様がちゃんと記録してくれたのに聞き苦しいことを言ってはいけませんよ?」
グリム「ぐぐ……!(戦いだけはあんたに負けるわけにはいかないのに…!)」




