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13 まずは一つ!

 

 グレーツ山で鉱石を無事回収したグリムたちは翌日の昼には村へと帰還していた。


「おお、帰ってきたぞ!」


 村人たちに出迎えられ、グリムは早速魔法袋を取り出した。


「台車もないのに本当に持ってきたの…?」

「あら、言ったはずよマリー。この魔法袋さえあれば何も問題はないのよ」


 魔法袋の紐を外し、底を掴んでひっくり返すとドドッ! と大きな音と共に大きな鉱石が山のように出てきた。その表面には翠色に光る原石が斑点のように散りばめられていて、どことなく神秘的とも思える。


「こんなに沢山……!」 「一体どうなってんだ!?」


 まるで鳩の出てくるシルクハットのように、次々と魔法袋から出てくる鉱石に村人たちは驚愕していた。


「現地でモンスターの討伐に参加したお礼ってことで弾んでもらったのよね。それでも結構多いと思うけど」

「あんなに鉱石が入ってて重くないの?」

「大したことないわ。じゃ、あとは任せたわよ」

「変な技術…」


 マリーは訝しげに積まれた鉱石を眺めていた。

 それはそれとして、グリム達は再びグランの元を訪れた。


「お、無事に帰って来たようだな」


 彼の工房には見覚えのある二人の少女の姿もあり、その内の一人は駆け寄ってきた。


「レイ! エール! 鉱石は手に入ったの?」

「ああ、なんとかな。って、メリルとアメリアはどうして此処に?」

「ちょうどいいタイミングで帰って来たな、これからその説明をしよう」


 グリムたちは一旦テーブルに集まってアメリアが話を続ける。


「昨日頼まれたように、木材と氷塊の入手場所を調べてきたんだ。それで木材に関しては突き止めることができた。メリル、あの地図を見せてくれ」

「はーい」


 丸めてあった地図がテーブルの広げられる。ドルグの村を中心として森を表す緑色、山脈を表す黄土色に色付けされた地図で、とある一帯の広大な森には赤い丸が付いている。メリルはその場所を指さした。


「この一帯は()()()()()()って呼ばれてて、ここに目当ての木材があるよ!」

「ああ、そういうことだ。だが油断はできないぞ、ここは一度入ったら方角を覚えていないと抜け出すことができなくなるほど深くて「迷いの森」とも呼ばれている」

「ふーん。これは厄介ね、特に方向音痴には……」


 グリムは手を額に当てて何とも言えない表情をしていた。


「なら、私も同行しましょうか?」


 後ろから声がするとそこにはハンナが居た。


「グリム様は勢いだけで突っ込んでねじ伏せるのが取柄です。樹海なんて入ったら出られなくなるのがオチですよ」

「はぁ…またあんたは嫌味を言いに来たわけ? あたしがあんた抜きじゃこの仕事を完遂できないって言いたいのかしら?」

「はい、私は心配して申し上げているのですが。それに、方向音痴なのは事実でしょう?」

「う、うるさいわね、誰が方向音痴よ! 誰が! 悪いけど、あんたは万一のために絶対この村に居てもらうから!」


 グリムが方向音痴であることを否定しないのはそういうことだ。とはいえ、ハンナが村を離れることで守りの戦力が落ちることは望ましくない。マリーが何時でも戦えるとは限らないためでもある。


「じゃあどうしましょうか?」

「わ、私、記憶力なら自信あります!」


 エールが名乗りを上げた。


「一度通った道なら帰れると思うから…どうかな?」

「…そうね、いいんじゃないの?」

「エール様がそこまでの自信があるのであれば私は構いません」

「はい、決まりね。明日には出発するわよ」


 話を円滑に終え、グリムはハンナと共に足早にその場から退散した。

 外に出ると、二人の元に一つのボールが転がってきた。

(なにこれ、泥とかで汚れてるわね…)


「あ、そのボール取ってくれる?」


 声のする方向には小さな子どもたちがいた。見かけはグリムと大して変わらないようだが、その表情は純粋、無邪気そのものだった。

 グリムは言われるままにボールを拾うと、なにか思いついたように二ヤリと笑みを浮かべて—―


「それっ!」


 掛け声とともに蹴っ飛ばした!

 ボールは民間の外壁をピンボールのように跳ねて回り、村の外れにあった木に跳ね返ってそのまま戻ってくると、シュルシュルと回転しつつボールは子どもたちの前に静止した。


「わー!」 「すごい!」 「どうやったらそんなことができるの!?」


 目を輝かせてグリムの周りに集まる子どもたちに、グリムは一言――


「教えてあーげない」

「えー?」 「なんでー?」 「教えてよー!」

「そのうち分かるわよ。あんたたちが大人になるころにはね」


 ウザイはぐらかしをしてグリムはその場を後にした。


「ふふ、グリム様、少し変わりましたね」

「なにが?」

「どこか楽しそうです。この村の生活は調査隊に入ってたときよりも低い水準のように感じますが、グリム様は前よりも笑みを浮かべることが増えた気がしまして」

()()()に合ってるのかもしれないわね。魔界(あっち)で動き回るのは本当に疲れるから」


 調査隊で上を目指していたはずが、いつの間にか貴族の奴隷に成り下がっていた。そんなころと比べれば此処は十二分にマシだと思えた。それが環境の変化なのか、エールや村の人々から向けられる感謝や信頼なのか、おそらくはその両方なのかもしれない。どっちにせよ、それらはグリムの心を癒しているに違いないだろう。


「あー! いたいた!」


 急にグリムは背後から声をかけられた。

 そこには笑みを浮かべたメリルの姿があった。


「うっ、あんたね…一体何の用よ?」

「アレ見せてよ! あのなんとかファイア! ってやつ!」


 おそらくはヘルファイアのことだろうが、グリムは考えるまでもなくすぐに首を横に振った。


「あんたバカね、あんなのそう簡単に見せるわけないでしょ?」

「えー? どうして?」

「能ある鷹は爪を隠すって言うでしょ? そういうことよ」

「わかんないよー! 早く見せてー!」


(このバカ!)

 一発撃つだけで周囲を焼け野原にしてしまう威力を持つからそう易々と撃つわけにはいかない。といっても、ここまで期待されてしまえば断るのもプライドが邪魔をした。


「おいメリル。あんまり無茶なことは言うなよ?」

「あ、アメリア…いいじゃん、グリムにあの魔法を見せてもらいたいのに!」

「あの魔法…ああ、何とかファイアってやつか」


(ヘルファイアよ……!)


「しかし、あの魔法は見かけからして相当強大な炎魔法だから場所を選ぶんじゃないか?」

「そんなの尚更見てみたいよ! あたいの水流魔獣とどっちが強いのか気になる!」


「どっちが強いのか」その言葉にグリムはピクリと反応した。そこまでの自信があるのなら、見せてやらないことも…ない。少なくとも村の中で使うわけにもいかないし、魔力消費がめんどくさい。


「ねーねー、どうしても見せてくれないの? もしかして負けるのが怖いの?」

「もうしっつこいわね…そこまで言うならこれを消してみたらどう!?」


 グリムは左手に魔力を圧縮した球を作り、メリルに放り投げた。


「! いけ、ハイドロン!」


 メリルの声に反応してか、彼女の右手から水でできた巨大な魚類の頭が出現し、球をあっさりと呑み込んでしまった!


「な、なにそれ!?」

「知らないの? 魔獣っていうの。守護霊みたいなものかな」


 魔獣。メリルの腕にあるハイドロンの頭は明らかに自我を持っているかのようにゆったりと動いていて、口からはさっき呑み込んだであろう魔力を煙として排出していた。


「ふむふむ、つまりあなたとその魔獣というのは、私とグリム様のような関係なのでしょうね」

「な、なんか違くない?」

「グリム様、ちょっとは頭で考えても見てください。メリル様とハイドロンは一つの肉体に宿っているんです。だとしたらもともと一つだった私たちと何ら変わらないじゃありませんか」

「え、えっとそうね…」


 的を射ているのかいないのか難しい判定ではある。


「ともかく、メリル。あんたとその能力に興味が湧いたわ。もっと詳しく聞かせなさい!」

「いいよ! もっともっと話そう!」


 なんだかんだで仲良くなれそうな二人だった。

 それにしても、グリムとハンナの関係は一体……?


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