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12 地底の双子!

 

 目標のグレーツ山の地底人の村に着いたグリム達は、現地の少女「エリン」と「アラン」の二人に案内されていた。


「村じゃ見たことないものが沢山あるね……。あ、ねえねえエリン、アランあの筒みたいな建物とかって何に使うの?」

「あれはねー、魔力を使って鉱山の換気に使うんだよー」「そうそう、鉱山は砂ぼこりとかがすごいからねー」


(二人ともすごく息が合ってるわね……)

 グリムも感心するほどの息の合った話し方をするエリンとアラン。ともかく、この村は話に聞くように採掘で発展した場所のようだ。


「じゃあ、あの天井の近くにあるのはなんだ?」

「あれは外気を取り込むための通気口だよ!」「魔力を使って酸素とかを取り込めるんだよ!」


 魔力を使って動かせる装置が多く設置されているようだ。しかし、いくら魔力炉とはいえ自分たちの村のものはライフラインと結界くらいしか役割は無かったはず。そのことがグリムは気になった。


「ねえ、此処には結界はあるのかしら?」

「結界?」「なにそれー?」

「モンスターからの侵攻を防ぐためのものよ」

「そんなのはないよー。でも、此処に来るときに幻化魔法で入り口に細工されてたよね?」「見たよね?」

「それなら見たけど……」

「あれで誤魔化せてるんだー」「安心なんだー」


 ということは結界を張らない代わりに他の装置に魔力を使えるのかもしれない。

 それはさておき、グリムたちは一つの民家の近くまで来た。


「此処に村長がいるよー!」「地底人の長なんだよー!」


 二人は揃ってドアを三回ノックすると、中から防塵ゴーグルを頭にかけた大男が出てきた。


「ん? なんだエリンとアランか。って、その後ろの三人は?」

「村長、珍しいお客さんだよ!」「外から来たんだって!」

「な、外からだと…?」


 村長は驚いた様子で目を丸くしていた。


「そ、そうか、案内ご苦労だったな。此処に客人が来るとは珍しい、どうぞ中へ」


 親切に案内されてグリムたちは中へ入ると、外のひんやりした空気から暖かいものに変わった。

 そして、三人はテーブルを挟んで村長と向かい合った。


「儂はこの村の村長のバルだ。まさかこんな辺鄙な場所に外からの客人とは、何か用ですかな?」

「ええ、ひとまずは自己紹介をさせてもらうわ。あたしはグリム。こっちの重装備なやつがレイでその隣がエールよ」

「ほほう、見たところ魔法少女のようだな。それに、その様子を見るにずいぶん遠くから来たのだろう?」


 村長は重装備のレイの様子を見た。


「まあそんなところよ。バル村長、あなたはグランという人を知ってるかしら?」

「グラン? ああ、あいつか! とすると、君たちはあいつの村から来たということか?」

「はい、グランは俺の親父ですから」

「なに! あいつに娘が居たのか! あいつのことだからきっと男の子を持つだろうと思っていたぞ」

「そ、そうですかね……」


 レイは複雑そうな顔をしていた。


「本題はここからよ。今、あたしたちの村は魔力炉が寿命を迎えようとしているの」

「王都で材料を取りに行こうにも時間と資金が足りそうになくて、それでここに直接頼りに来たわけなんです」


 エールは持ってきたメモを見せた。


「なるほどな。グランのやつには魔力炉を最初に作ってもらった借りもあるし、鉱石を譲渡するのもやぶさかではないな」

「ってことは!」

「ああ、その話を引き受けようじゃないか――」


 トントン拍子に話が上手くいきかけた直後に、ブーッ! という警報のような音が鳴り響いた……! それに続いて、焦燥感のある男性の声が聞こえてくる。


「掘進中のA-06坑道にモンスター発生! アランとエリンはすぐに来てくれ!」


 これを聞いてさっきまで村長の傍に居たエリンたちは互いの顔を見て頷いた。


「村長!」「行ってくるね!」

「おう、気をつけてな」


 手を繋いで二人は外へと飛び出して坑道の方へと向かって行った……。


「あの二人、やっぱり魔法少女だったのね」

「薄々そんな気はしてたぜ」

「二人とも気づいてたの?」

「ええ、魔力を感じたからね。…それにしても、気になるわ」

「何か気になることが?」

「二人の魔力の流れが瓜二つだったのよ」


 普通は例え双子であったとしても身体を巡る魔力の流れが完全にぴったりと重なることはない。魔界ではそう聞いたはずだが、エリンとアランに関しては例外だった。

(彼女たちがどんな戦いをするのか知りたいわね……!)

 故にグリムの探求心は燃えていた。


「ねえ、あたしも行っていいかしら?」

「えっ、坑道にか? いや、戦力は多いに越したことはないが客人を危険な場所に行かせるわけには……」

「そんなに心配しなくていいわ、自分の身は自分で守れるもの」

「おいグリム、自分一人だけで行く気か?」

「私は……だめかな?」


(レイはともかくとしてエールも行きたそうな顔してるじゃないの…)


「分かったわ、三人とも来ればいいじゃない」

「え、いいの?」

「なによエール、あんたも見たいんでしょ? あの双子の戦いを」

「う、うん!」


 三人は双子たちを追って坑道に入った。

 天井には明かりが点き、整備された四角形の真っ直ぐな道の左右には枝分かれするように通路が続いていて、それはまるで樹木の根のようにも思える。けれども、彼女たちは迷うことはなかった。


「こっちから魔力を感じるわ」

「たしか、A-06とかってさっき聞いたよね。そこに居るんじゃないかな?」


 グリムの優れた魔力感知とエールが場所を覚えていたことで三人は複雑に枝分かれしている坑道を進み続け、辿り着いた先には……


「なんだこれ、デカい穴が空いてるぞ!」


 レイが指さす方向には人工的に掘ったにしては大きすぎる穴があった。

 その傍には数人の地底人が野次馬に集まっていた。その内の一人にエールが聞き込む。


「あ、あの! 何があったんですか?」

「ああ、掘進していたら地中にあるモンスターの巣に穴を空けちまったらしい。この広さからしてけっこう厄介なことに…って、嬢ちゃんたちは見たことない顔だな」

「それより、魔法少女の双子はあの中に入ったの?」

「あ、ああ、けど心配はねえぞ! あの二人の完璧な連携なら絶対になんとかしてくれる――」

「そう、ありがと!」


 話を最後まで聞かずにグリムはモンスターの巣へと飛び込む。

 近くのモンスターをレイとともに斬り倒して道が開けると、そこには蛇ともミミズとも違う長い身体を持つモンスターの群れと交戦する双子の姿があった。その近くには既に倒したであろう複数のモンスターの亡骸が転がっている。


「よーし!」「もう一度やるよー!」


 エリンとアランの戦闘服は瓜二つのデザインで、色が左右で反転していることしか違いがなかった。

 そんな二人は片手に持っている三日月状の剣を構え、モンスターの群れへと突貫する!


「アラン!」 「エリン!」


 呼び掛けあった二人は空いていたもう片方の手を繋ぎ、そのまま左右の剣で敵をすれ違いざまに切り刻んでいく……! その一方で、モンスターからの攻撃にもすぐに反応して二人で跳び上がり、空中で一回転して踵落としを叩き込んだ! 鮮やかで隙の無い二人の戦いはまさに一心同体と言えるものだった。


「す、すごい、いくら双子だからってあんな動きができるの?」

「俺には到底マネできないぜ…」

「へぇ、面白い戦い方をするわね! まるでサーカスを見に来た気分よ!」


 グリムの気分はいつになく高揚していた。こんな動きをする魔法少女なんて聞いたことがないし、やろうとしてもできないことだからこそ歓喜している!

 そんな中、双子の前に巨大なスライムが立ち塞がった。


「あれってグランドスライムじゃない!? もしかして此処に居たあの細長いモンスターを仕留めにわざわざ地下まで来てたのかな……?」

「エール、あのモンスターにそんなに驚くことなの?」

「だってあれは毒を持っていて、飲み込まれたり発射される猛毒に触れたら危ないんだって前に見た図鑑に書いてあったの……!」


 猛毒、そして大きな巨体を持つ大敵を前に、双子も流石に警戒したのか歩みを止めた。


「でかいねー」「おおきいねー」

「じゃあさ、アレやる?」「やっちゃう?」


「「そうしよう!」」 二人はハイタッチし、アラン…いや、エリンが両手を組み、それをアランが踏み台にして回転しながら跳んだ!


「これが!」


 そこへエリンも跳び、空中で回転するアランの足に綺麗に足を合わせ、魔方陣を発生させつつまったく同じタイミングで二人は足を蹴った!


「私たちの!」


 同時に蹴ったことで生まれた魔力が強力な推進力になり、アランは敵に向かって突き進む弾丸となる……!


「「【ジェミニ・アロー】だぁ!」」


 二人が空中で放った絶技はグラントスライムに直撃し、そのまま難なく貫いて真っ二つにしてしまった!


「すっげえ!」 「あのスライムをそのままぶち抜くなんて…」


 感嘆するレイとエール。そしてグリムも笑みを浮かべてそれを満足そうに眺めていた。……が、グリムはあることに気が付いて咄嗟に駆け出した!


 すると、「ただでは倒されない」という執念からか、真っ二つにされたグランドスライムの身体の一部が無防備な状態のアランに向かって襲い掛かる……!


「アラン! 逃げて!」

「エリン……? え!? う、うわあ――」


 アランにスライムの身体が接触する寸前、大鎌がスライムめがけて飛んできて切断した! 続け様に大鎌はまるで無線で操られてるかのようにスパスパと何度も回転しながら細かく刻んでいく…!


「ふぅ、危ないところだったわね」

「あ、え、えっと……」

「これはお礼よ。素晴らしいサーカスを見せてもらった分のね」


 そう言って、グリムはトドメとばかりにカオスパニッシャーを掌から放って一掃した。


「アラン、怪我はない?」

「平気だよエリン! グリムのおかげで助かった!」


 なにあともあれモンスターを撃退し、誰一人怪我することなく鮮やかな戦闘は終了した。


「にしてもすごい技だったな」

「うん。…ねえ、あれって練習しているの?」


 エールの問いにアランとエリンはお互いに顔を見ると、首を傾げた。


「思いつきで技を作ってるんだよねー」「それって練習なのかなー?」

「え、じゃあさっきの技は……?」

「あれは昨日作った技だよー」「本番は初めてだけどねー」


「「き、昨日!?」」レイとエールは驚愕した。


「ジェミニアロー、すごく面白いじゃないの。けど、弾丸として発射された側が攻撃した後に無防備になっちゃうのはちょっと問題だから、それさえ解決できればもっと良くなるはずよ」

「そうなのー?」「ほんとー?」

「ええ、派手さもあるし、威力も絶大だったわ」


 グリムがアドバイスしている様子は、エールには一番楽しそうにも見えた。


「ねえグリム、そういうのが好きなの?」

「見ていて面白い技だったじゃない。だったらどんどん磨いたほうが良いに決まってるわ」

「へぇ、私も魔法が使えたらなぁ……」


 彼女はバトルマニアなのかもしれない。同じ舞台に立てないことをエールは羨ましがった。


「おお、無事に戻ってなによりだ。撃退ご苦労だった」


 村長の家に戻ってきたグリムたちは再び話を進める。


「鉱石に関しては明日には十分な量を用意しよう。……だが、どうやって輸送したものかな?」


 やはり鉱石を十分な量を確保して持って帰るのは台車が必要だと普通は考えるだろう。


「あ、村長。その心配はないわ。私たちにはコレがあるもの」


 グリムは魔法袋を取り出した。


「これさえあればどんなものでも入っちゃうから平気よ」

「ええ!? そんなのがあるの!?」「そんな便利なものがあるの!?」


 案の定、居合わせていたアランたちは驚いていた。まあ、ただの布袋に魔方陣を描いてあるような外見の袋だから尚更だろう。


「あら、この世界にはやっぱりないのかしら? ま、持ってきておいて正解だったわ」

「なるほど……であれば問題はないな! 今日はもう日没だから村で休んでいってくれ」

「じゃ、お言葉に甘えさせてもらうわ」


 これで地底人の村での目標を達成することができた。

(まずは一つね……。あと二つもあるから明日もやってやるわ!)


「ねえねえ! もっと何かあるんでしょ!?」「ねえねえ! もっといろんなこと教えて!」

「あ、ああ、わかったわ……」

アラン・エリン「ねえ、なんでコウモリみたいな翼付いてるの?」

       「なんで獣人みたいな尻尾が付いてるの?」

グリム「はいはい、質問は一つずつね。まず、私は獣人じゃなくて魔族。その中でも一番人口が多い「デビル」よ」

アラン・エリン「え? ほかにも魔族の種類があるの?」

       「具体的には何があるの?」

グリム「そうね、角が生えてる「デーモン」だとか、身体が小さい「グレムリン」、魔王とかは「アーク」族って名称があるわ。まあ、こんな呼び名を表立って言うことってあんまりないのよね」

アラン・エリン「どうして?」 「なんで?」

グリム「簡単な話よ、魔族はそこまで種族に拘らない。アークだからって必ずしも貴族とかじゃないし、あたしみたいなデビルでも魔王の側近になってるのだって居るからね」

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