10 人間界での初任務
「で、何が起きて昨日は結界が解けたわけ?」
グリムとエール、そして魔法少女たちはレイの家に押しかけて昨日の出来事の原因を突き止めにきた。
「お、おう、揃ってこんな朝早くから来るとはな…。新顔もいることだし、一度ワシに自己紹介させてくれ。ワシはグラン。村の鍛治とか魔力炉の管理をしとる。そして、レイの親父だ!」
「親父、前置きはいいから早く説明してくれ」
「うっ…そうだな。今回の件なんだが—―」
さっきまで意気揚々と自己紹介していたグランおじさんの顔が急に険しくなった。
「魔力炉の故障なのは間違い無いんだが、どうやら内部の隔離壁がイカれたらしい」
「隔離壁? 親父、そんなのまた用意すればいいだろう?」
「まあな、近々寿命が来るとは思ってた。…だが、厄介なことにこの隔離壁が中途半端にイカれたせいで炉心にも破片が飛んだんだよ」
「ってことはまさか、魔力炉自体使えなくなるんじゃ!?」
「ああ、エールの言うとおりだ。応急措置で少しは延命できるかもしれないが、限界は1週間ってところか…」
魔力炉が使えなくなる。それは、村を覆う結界そのものが機能不全になってしまうのみならず、ライフラインの停止まで及んでしまう大問題だ。エールやレイたちも状況を把握して困窮した。
「じゃ、それまでに復旧すればいいじゃないの」
重苦しい空気を切ったのはグリムの一声。
「おい、話聞いてたか? 1週間だぞ! 今日はドルグのところに作物送らなきゃいけないのに、王都までいって資材を買い出すなんて無茶だ!」
「そうだよ、それに作物を半分も分けたら買い出しの時にお金が足りないよ…」
(ちぃ! つくづく私の策が裏目に出るわね…)
レイとマリーの言う通りだ。このままでは到底魔力炉の復旧は成功しない。少なくとも一日以上は結界無しで夜を過ごす羽目になる。
(ならば…!)
「じゃあ原産地で集めてくればいいじゃないの」
その半ばやけくそのような提案に一同は「えっ!?」と驚いた。
「原産地って…お前本気かよ!?」
「本気も本気よ、レイ。金も時間も無いなら、あたしがそれ以上の力でどうにかしてやるんだから!」
(リスみたいにいろんなところに行って何かを集めてこいっていうのはもう慣れっこよ!)
グリムは自信たっぷりにそう言う。たしかに、レイやマリーも彼女の実力を疑いはしないが、正直ついていけそうにはなかった。
「ま、そうだな。このまま魔力炉が使えなくなってから苦労して集めるよりかは今すぐから動いた方がマシではある……な」
「親父……。なら俺も、最悪の事態になる前になんとかしたい!」
「私もレイに賛成!」
「うん、私もグリムの力を信じるよ!」
その場に居た全員がグリムの手立てを受け入れる形になった。
「よし、じゃあグランさんだったかしら。必要な素材を纏めてくれる? ついでにどこで手に入るかも覚えてる範囲で良いからお願いしてもいいかしら」
「ああ、それくらいなら任せてくれ。全部の素材の原産地は覚えてないが、今わかる範囲でどうにかする!」
「じゃ、決まりね」
絶望的な状況にもかかわらず、グリムの強い自信とその実力が場を塗り替えてしまったというべきか。話がひと段落したところで一度グリムはエールと共に家に戻ることにした。
「ん? あれは何?」
「荷車……だけど、私たちの村にあるものじゃないね」
村にあるものとは違う形の荷車があった。そして、その近くには見覚えのある人物が作物を車に乗せている。
「よし、その作物を纏めて積んで!」
「運ぶぞー! いっぱいいっぱい運ぶぞー!」
「その意気込みはいいんだが、もう少し静かに作業してくれないか?」
(あれはアメリア……? けど、その傍に居るもう一人は誰?)
グリムよりは一回り大きく、茶髪でツインテールの少女だが、その言動からしてあまり精神年齢が高くないのは分かる。ともかく、気になった二人は近づいた。
「アメリア―!」
「ん? やあ、エール。その隣に居るのはたしか、グリムだったかな?」
「あら、覚えててくれたのね。ところで、どうして此処に?」
「村長から頼まれたんだ。なんでも、「うちの作物はうちの荷車で運ぶべきだ」とか言っててね」
「へえ、昨日の件が効いたのかしら?」
「かもしれないね、ちょっと雰囲気が変わった気がするし。これもグリムのおかげだよ」
アメリアと話していると、それに気が付いたのか作業をしていたもう一人の少女がこちらを向くとすぐに作業をそっちのけで話に割り込んできた。
「グリム!? あなたがあたいたちの村を救ってくれたあの!?」
「え、ええそうよ」
「へぇ! あたい、メリルっていうの! グリムってあたいより小さくて、その髪色からネズミみたいだね!」
「はぁっ!?」
「おいメリル、いきなり失礼だぞ」
メリルは思ったことを言っただけに過ぎないのだろうが、グリムは古傷を抉られた。
まさか魔界での忌まわしいあだ名をこんなところで聞くことになるとは……。思わずピキッときた。
「なによこのクソガキ! 誰がネズミよ誰が!!」
「あはは、なんでそんなに怒ってるの? ネズミってかわいいじゃん」
「なによそれ……!」
(害獣のどこが可愛いっていうのよ! あの三人組みたいな卑劣な輩にあだ名として呼ばれるよりも、こういう幼稚なやつにネズミ呼ばわりされる方がムカつくわ!)
メリルにイラついていると、彼女からいきなり水が飛んできた!
「うおっぶ……ゲホゲホ、あんた今度はなにすんのよ!?」
「リラックスリラックス、怒ってもいいことないよ?」
人にバケツで水をかけておいて、メリルはいきなりそんなことを言い始めた。
(なんなのよコイツ……)
人の髪をネズミ呼ばわりして煽ってきた挙句、水をぶっかけて意味の分からないようなことをぬかすとは……変人にしか見えない。
「はぁ、メリルはマイペースだな」
「そ、そういえば前に来た時もこんな感じだったね……そこがかわいいのはあるんだけど……」
彼女が天然なのかマイペースなのか掴みどころがないが、アメリアとエールが言うところからして彼女には悪意はないようだ。
「おーいグリム、用意ができたぞ…って、何やってんだ?」
「アメリアとあの子……メリルも居るね」
そうこうしているうちにレイとマリーが呼びかけに来た。
「レイか、先日はありがとう。おかげでメリルが食料を持ってくるまで無事に凌げたんだ」
「お礼なら俺に言われても困るぜ。それよりグリム、メモができたみたいだ」
「そう、じゃあ早く行くわよ。その後でこのガキに遠慮ってものを教えてあげてちょうだい」
「メリルちゃん、相変わらず遠慮を知らないみたいだね」
「あ、ああ……すまない、私が至らないばっかりに……」
アメリアがまるでメリルの保護者みたいな態度をしている。
「レイとマリーだ! 久しぶりだね!」
「お、おう、とりあえず俺たちは忙しいからまた—―」
「いーまーかーらー! 色々話そうよー!」
メリルの大暴れから切り抜けられたのはそれから数分を要した……。
「よし、これが必要な素材だ」
グランはメモを見せた。
ロブナイト鉱石:グレーツ山の地底人の村
ベルグの原木:エルフの森にある……らしい
氷塊:どっかの氷山
「……ちょっとなにこれ、まともな詳細が鉱石しかないじゃないの」
「そ、そうなんだよなぁ。ワシも直々に出向いて取りに行くなんてことしなかったから許してくれ」
「逆に聞きたいんだけど親父、鉱石だけはなんでやけにしっかりしてるんだ?」
「ワシの古い友達がそこに住んでる地底人でな。昔、魔力炉の炉心に使える上質な鉱石を譲ってくれたんだ。ほら」
彼は窓の外に見える一つの山を指さした。
「あそこがグレーツ山だ」
とはいえ、問題は原木と氷塊に関してはざっくりとした情報しかないということだ。
「まあいいわ。とりあえずはこの鉱石を取りに行くべきかしら—―」
「ねえねえ、なにしてるのー?」
玄関の方から聞き覚えのあるうるさい声が聞こえてきた。
「またあんたね…今度は何?」
「す、すまないみんな。重要な話をしていたろうにメリルが力になるって言って聞かなくてな」
「アメリアは謝んなくていいのに。それより、何かあたいに手伝えることとかある?」
「おいメリル、私たちは作物を運ぶために来たのに—―」
「いいじゃん! ちょうど何か困ってるみたいだし、レイたちはこの前あたいたちの村を救ってくれたんだよ? だったら協力ぐらいさせてよ!」
メリルの申し出にグリムはあることを思いついた。
「あんたがそこまで言うなら一つ手伝ってくれない? このメモに書いてある原木と氷塊に関しての入手経路を調べてほしいの」
「げんぼくとひょうかい……わかった! アメリア、早く帰って調べに行こう!」
「あ、ああ、おい!」
話を聞いたメリルはアメリアが止める間もなく外に駆け出していった。
「き、今日はいろいろとすまない……」
「別にいいって。それより、この問題は一刻を争う問題なんだ。お前もできれば協力してくれるか?」
「ああ、それに関しては任せてくれ。恩返しをしたい気持ちは私も同じだからな」
そう言って、アメリアはメリルを追いかけて外へ出た。
「よし、じゃあ最初は鉱石の採集をして、アメリアとメリルからの情報が入り次第、原木と氷塊の収集をするってことね」
「ああ、こりゃあ結構なハードスケジュールになるだろうが、グリムの嬢ちゃんはそれでもいいんだな?」
「平気よグランのおじさん。あたしはこういうこと慣れてるから」
話しがまとまりかけた時、レイが口を開いた。
「俺から、一つだけ頼みがある。この前のドルグの村に行った時と同じく俺も同行させてくれ」
その場で全員「えっ」と驚愕させられた。
「レイ、あなたまだ疑ってるの?」
「ああ、すまないマリー。グリム、お前の力は強大だ。だからこそ、俺は間近でちゃんと見張っておきたいんだ」
(心配性なのね、レイ)
どちらにしても変な気を起こす気はグリムにはないのだが。
「じ、じゃあ……私も……」
「ん? エール?」
「私も連れて行ってくれないかな?」
今度はエールからの意外な頼みだった。
「お、おいおい、どうしてだよ?」
「たしかに私はレイやグリムみたいに魔法を使ったり戦ったりすることはできない。けど、村がこんな状況なのに私一人なにもできないのはちょっと我慢できなくて……。だから、できる範囲で手伝いたいの!」
彼女の目に迷いはなかった。それを見て、覚悟の上でエールが頼み込んでいることをグリムは確信していた。
「まあ、いいんじゃないの」
「いいのかよ?」
「いいのよレイ。人が多い方が早く終わりそうだからね」
「グリム……ありがとう!」
エールは嬉しそうにグリムに抱きついた!
「ちょ、ちょっと!」
「じゃあ、私はお留守番だよね」
「あ、マリー。あたしもハンナを前と同じく残していくから二人で上手く守ってね」
「できれば私もレイたちと行ってみたかったなぁ」
マリーは羨ましそうに片手を胸に当てていた。




