1 魔界から来た少女
多種多様なモンスターと人間が生きるこの世界。
人間は個人から集団を、組織を、そして街や村を作った。けれど、モンスターたちは一度太陽が沈むと人々に、村に、街に牙を向ける……。その脅威から人々を守り続けるのは、強力な魔法と武器を駆使し、大切な友人たちと明日のために命を賭して懸命に戦う少女たち。人々は彼女たちの勇気を称え、敬意を込めてこう呼ぶ、「魔法少女」と。
「よしっと。えっと、ここからどうやって書こうかな~」
窓から朝日が射しこむ中、一人の少女が机に置いたノートに向かってエールと名前が書かれたペンを持って思案していた。
すると突然―—
ガッシャアァンッ!
まるで爆発音のような強烈な衝撃が彼女の家を揺らす……!
「!? な、何の音!?」
少女…いや、エールは驚いて座った状態で飛び跳ねてしまった。一体何が起きたのか分からなかったが、音が聞こえたのは二階からだった。
彼女は恐る恐る階段を上り、二階の様子を伺った。そこには—―
「おやおや、盛大に頭からいきましたね、グリム様」
破壊された屋根の木材の上には、幼い少女のものらしき細くて小さな脚がピクピクと動くのが見える。その横には街とかで雇われる使用人の服を纏った女性が居て、少女の脚を身体ごとズボッと引っ張り抜いた。
「いたたた! ちょっとハンナ! ゆっくりやさしく引っ張ってよ! 髪がぼさぼさになったじゃない!」
「最初に頭から突き刺さった時点でもうぼさぼさですよ。相変わらず、転送からの着地が下手なんですね。フフフ」
「むっ、相変わらず生意気なんだから!」
怒りつつ自分の髪を整えるグリムと呼ばれる少女。グレーのサイドテールにルビーのように輝く深紅の瞳を持ち、歳は10歳くらいだろう。けれど、肩や太腿、へそを見せる大胆な、それでいてフリルなどの華々しさがないスマートな服を纏った彼女には、人間にはないコウモリのような翼と先端が槍のようになっている尻尾もある。
片や、そんなグリムを笑っているハンナという女性は一見すると普通の成人の女性と大差なく見える……。
「だいたい、あの卑劣な三人組と人の話をロクに聞かない魔王が全部悪いのよ! アイツらさえ居なければ私は魔界から追い出されなかったのに!」
階段から覗いていたエールは、この異常な光景になかなか理解が追い付かずその場で固まっていた。
ほどなくして腕を組んで愚痴を吐いていたグリムの目にエールの姿が留まった。
「あんた、此処の住人?」
「え…う、うん」
グリムはエールに近づいて矯めつ眇めつ眺めてきた。さも骨董品の壺を鑑定するかのようであり、「失礼」と言って今度はエールの胸を掴んだ!
「ちょ、ちょっと!?」
「失礼と言ったわ。あんた、身体のつくりは魔族と似てるわね……」
続いてスカートの中を覗いてきたが、パンツを穿いていたことが幸いして肝心なところは観られずに済んだ。というか、グリムは「パンツを穿いていること」に納得しているようだった。
どう考えても痴女行為にしか見えないが、エールも相手が子供だということに戸惑っていた。
「なるほどね、下着も身に付ける習慣もあると」
「な、なんだったの? いきなり揉んできたり、パンツ覗いたり……」
「確認よ。だって、この世界にあたしたちは初めてきたんだもの。とにかく話は通じるようね?」
勝手に納得すると、グリムは話を続ける。
「それじゃ、今あたしはイライラしててね……突然だけど愚痴に付き合ってくれない?」
「え、ええ? い、いいけど、下で聞いてあげるね。お茶とかもださなきゃ!」
一同は一階のリビング、中央の机に集まってエールの用意した紅茶を飲む。
「親切にありがと。あ、自己紹介がまだだったわね。私は魔族のグリム。グリム・ワルキューレよ」
「私はこの不躾なグリム様の使い魔、ハンナと申します。以後お見知りおきを」
「ハンナ! 「不躾な」は余計よ!」
「ま、魔族にメイドさん? あ、私の名前はエール・ネイピアっていうの。…えっと、どうして二人は此処に?」
ちょうど紅茶を飲み干したグリムはカップをカッ! と置いた。
「そう、それを聞いてほしいのよ!」
グリムはこの世界に来た経緯を話し始めた。