世界の真実 その一端
夢を見た。
世界が滅びゆくような光景を丘の上から眺めている少女。
隣には神ノ御使いさんが宙を揺蕩っている。
崩壊する大地と燃ゆる空。
全てが消えてなくなるんだというこの光景に私は何を思っていたのだろう。
少女が光を放つと四人の少女と五人の少年が現れる。
それぞれ精霊を連れて祈る姿に神々しさすら感じる。
十人の光と十の闇が合わさり光と闇がワンセットになって分かれて散らばる。
闇は大地に溶け込み光は大地に根付く。
気が付くと少年達は消え少女は根の元で祈りを捧げる。
そんな光景を現実とも思えずにぼんやりと眺めていると最初の少女が隣に立っていた。
「ごきげんよう如月御子、私はかなた。あなたの大先輩って言えばいいのかな」
かなたと名乗る少女は私に微笑みかけながら問うた。
「この光景を見てどう思う?」その問いかけに答えようとして声が出ないことに気が付き焦っていると、かなたの姿は掻き消えて場面も切り替わる。
「アホ抜かせ!そんなことやったら世界が滅ぶやろうが、ほんの少しでも考えたら分かるんちゃうか?ホンマええ加減にせないてこますで自分。こんな一大事に楔引き抜いて何抜かすんかと思いきや向こうの魔力をこっちに流して世界を維持するやて?自分の世界だけで循環せんような世界なら滅んでまえばええねん、ホンマええ加減に…」
物凄い剣幕で捲し立てる関西弁の青年と白衣のおじいさんのやり取りを眺めながら少し考える。
なんか少しだけサクラちゃんに似ているかもしれない。
会話の内容はよくわからないけど、なんだか既視感がありほっこりしていると青年の体から三又の槍が生える。
青年の体からサクラちゃんが出てきて地面に吸い込まれる。
今日の夢は少しおかしい。
意識ははっきりしているし夢だと自覚もあるし、でもどこか夢じゃないかもしれないと思っている自分もいる。
「世界の楔は断たれた、これより進撃を始める!正義は我らにあり!!!」
白衣のおじいさんが声高々に宣言すると共に刺された青年の体から光が溢れ裂ける。
裂けるというよりも裏返ったという表現が合うかもしれない。
乗用車程のサイズまで広がった空間に兵隊が突入していく。
その姿を愉快そうに眺めるおじいさんと 士気の高そうな兵士たち。
ただ一人だけ寂しそうな、今にも泣きだしそうな顔をした青年兵が光を一瞥して兵士と共に光に消える。
ここでまた場面は切り替わる。
街が燃えている。
悲鳴と何かが風を切る音が耳を刺す。
この光景はまさに地獄と言っても遜色は無いと思う。
ふと空を見るとサクラちゃんがこの光景を眺めている。
この地獄に涙を流し、背中には巨大な魔方陣。
一際大きな爆音に振り向けば先程の兵士達が街を焼き、建物を破壊し尽くす。
そこに少女が現れる。
精霊を携えて幣の様な物を振り火を払う。
精霊が障壁で兵士の爆撃を防いで少女が光で拘束する。
どれぐらい長い時間攻防が続いただろうか、気が付くと少女はボロボロになり兵士に囲まれている。
磔にされて火炙りにされながらも再生力が上回り燃え続ける。
精霊は球体に閉じ込められて涙を流している。
少女の体から光が漏れて拡散すると同時に少女の体から再生力が失われて焼け爛れる。
兵士の喝采が響き渡り再び街を蹂躙する。
そこに涙を流した少女が確かな殺意を以って兵士を屠る。
そこからは一方的な虐殺だった。
今までは殺されることなく拘束されているだけの兵士達だったが今度の少女は死体の山を築く。
効率よく素早く光の針が兵士の頭を胸を貫き幣の一振りで兵士の肉塊を作り上げる。
最初に現れた兵士を半分ぐらいを葬った時少女の胸に風穴が開く。
「こちらのエースはゴキブリだと聞いたが、存外脆いものだな」
他の兵士より煌びやかな衣装の兵士が動かなくなった少女の頭を踏みつけながら空に赤い光を出す。
第二陣が現れて地獄はその色を濃くしていく。
殺意の少女から淡い光が漏れ出て拡散すると天より光の柱が射す。
右側に四枚左側に二枚羽を持った天使が現れた。
金色の羽根を振りまいて滑空する天使を兵士たちはただ立ち尽くし見上げる。
一人の兵士が舞い散る羽根を掴むと兵士は光の粒子となり霧散する。
ここで世界は暗転し光に包まれた。
「これは世界の記憶。これから貴女が関わる重大な事情の一端。如月御子、世界をお願いします」
上体を起こし伸びをする。長い夢を見ていた、とても夢とは思えないほどリアルで悍ましい確かな恐怖。
布団の上で呆けていると莉子が部屋に入ってくる。
「お姉ちゃん調子悪い?大丈夫?」
心配そうにこちらを窺う妹に微笑みかければその顔に笑顔が浮かぶ。勢いよく抱き着いてきて子供をあやすように撫でられた。
急に子ども扱いされて困惑するも自分が涙を流していることに気付き妹に寄り掛かる。
あの夢は怖かった。もしあんな光景が現実になれば私はどうするだろうか、きっと戦うだろう。
今の私には戦うだけの力がある、守りたい人たちがいる。
きっと彼女たちの様に私も志半ばで折れるだろう。でも最後まで足掻いて力の限り抵抗しよう、世界を守るなんて大層なことは願わない、私はただ目の前の小さな平穏を守りたい。




